上 下
10 / 26

9

しおりを挟む
彼方が居なくなってから、既に4日目

細井は警察に詳しい話を聞かれていた

細井の証言では、駅のロータリーで彼方を降ろしすぐに車を出した為、駅に入って行ったのかそうじゃないのか分からないとの事だった

だが警察はその証言が嘘だと判断した

志乃からの助言で、細井の車が監視カメラに映っているか調べた所ロータリーで降ろしたと言う証言となる映像が映っていなかったのだ

警察は彼方がいなくなった経緯を細井が本当は知っていると判断し、監禁でもしているのかと細井を泳がせ周囲を捜索、捜査した

しかし細井の日々の行動は至って普通で監禁などしている様子がない

捜査は行き詰まっていた


それから2日後、予定より早く叶響がアメリカから帰ってきた

そして同日細井が警察の目をかいくぐり姿を消した








「警察が尾行してたんじゃなかったのか?」

イライラを隠すことなく叶響は社長に問いかける

「そう聞いてたよ。だからこちらも、普段通り振る舞うよう言われていたし、それに従った。
彼方を探しに行きたいのに、探しに行く事も出来なかった…」

社長は心労からか1週間弱で痩せたように見える

「……警察は頼りにならないな………当日の細井の車が事務所を出てからの行動は調べてあるのか?」

「…どうだろう…警察は捜査中としか言わず詳しい事は教えてくれないんだ。」

「大野弁護士を呼んで。警察に行く。」

「は?響は表に出ないで!マスコミに気づかれるでしょ!」

今はまだマスコミにもバレる事無く捜査が進んでいる

しかし叶響自ら動けば、週刊誌の良いネタになってしまうだろう

「ならさっさと警察に口を割らせろよ。細井が彼方をどこかに連れていったのは間違いないだろう。
細井の足取りは警察に任せればいい。
当日の細井の車が何処に行ったのか分かれば彼方の居場所が分かるはずだ。」

バン!!とテーブルを叩く叶響に社長も肩をすくめる

「響、落ち着いて。警察には私から話しますから。」

宥めるように志乃が言うと、叶響は深い溜息を吐いた

「……彼方…………」

苦しげな表情をする響に、もう誰も何も言えなかった







その日の深夜、事務所に警察から電話が入った

いつでも連絡が取れるよう社長がずっと事務所に寝泊まりしているのだ

細井の車は当日、駅ではなく高速に乗ったことがわかったらしい

そして高速を降り向かった方面は有名な山の方面だった

現在、県をまたいでいる事から向こうの警察署に協力を仰ぎ捜索をするとの事だった

事務所に集まった響達の警察への期待は地に落ちた

1週間も行方不明なうえ生死も分からない状態で、彼方の居場所を知っているであろう細井が逃げたのにも関わらず、公開捜査もせず、挙句に直ぐに他県の警察と捜索しようとしない警察に、響はキレていた

「……遅すぎる。永、俺はもう彼方を探しに行く。」

「響!!」

「明日から1週間仕事は休みだろう。警察に任せていてもいつ彼方が見つかるかわかったもんじゃない。もう1週間だぞ?無事かさえ分からないんだ。それに永は永で調べることがあるだろう?」

叶響はそれだけ言うと事務所を出ていった

それと入れ替わりに入ってきたのは髪を真っ赤に染めた背の高い男

「響ブチ切れてんじゃん。昔みたいな顔してたけど、警察から連絡来たの?」

志乃の隣にドカッと座るとニヤニヤ笑う

「頼、笑い事じゃないですよ…」

さすがの志乃も疲れた顔をする

「いやいや、あいつアメリカの撮影すっげースピードで終わらせて速攻日本に戻って来たんだぜ?
あいつが感情をあそこまで顕にさせるなんてさぁ。
『彼方』って奴、それ程響の中で存在がデカいんだなと思うと面白いじゃん?」

「面白いって…」

「あんな、何にも興味ありませんって性格だったのに久々に会ったら180℃変わってんだもん。面白いよ。」

「確かに…彼方君と出会ってから響は変わりましたね…」

「いいんじゃねーの?機械じみた奴より今のあいつの方が俺は好きだよ」

赤毛の男はまたニヤニヤ笑った




「頼、頼みたいことがあるんだが……」

疲れきった表情を引き締め社長は姿勢を正した

「いいぜ~、ただし条件として、彼方が戻ってきたら俺をマネージャーにすること。」

「……頼が?」

「そっ、彼方って龍さんが言ってたADだろ?必ず響の隣に立てる俳優に育ててやるよ。そん時は邪魔してやるなよ?」

「……わかった…無茶はしてやらんでくれよ」

自信満々な頼に溜息を吐きつつ、密談が行われた






    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

可愛い男の子が実はタチだった件について。

桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。 可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

処理中です...