上 下
52 / 71

47 A

しおりを挟む
疲れました…

モア王子は頭もよく魔法も剣術も優れていて、仕事もできる事は知っていました

しかし、正直ここまで一気に改革を進めるとは思ってもいませんでした

レインが暴行を受け、犯人の家族を血祭りに上げた日の翌日

カインと共に現れたモア王子は大臣達を集めてこう言いました


「貴族制度を廃止するか、現在の貴族の在り方を見直し名ばかり貴族の爵位を返上させるかどちらがいい?」と

咄嗟の事で、私達はモア王子の言っている意味が理解できませんでした


そこでカインが話を引き継ぎました


「今この白の国は、前王によって腐り始めています。
身分差別は当たり前、種族差別をする者もいる、子供を30歳まで軟禁し政略結婚に使おうとする者までいる。
そして、最悪なのはこの国を機能させる各部署のトップが能無しの者ばかりと言う事です。
仕事は全て部下に任せ、自分のミスを部下に擦り付け、仕事もせず部下をイビリ倒す。
そんな人達に払う給料はありません。」



カインの言いたい事はわかります

我々もその事について何度も議論してきたのですから

ただ、人事異動などは最終的に国王の承認が必要だったので何もできずにいたのです



「…それが貴族の廃止とどう関係が?」


総務大臣が質問しました


「現在各部署のトップが貴族のみで構成されています。
ではこのトップは一体どのように決まったのでしょう?
大臣達の推薦、貴族同士の癒着、上位貴族順…
これでは無能な者が集まるのは必然ですよね?

貴族を廃止すれば、推薦も癒着も順番もなくなり、実力のある者をトップに据える事ができます」




「それは……」


自分に都合の良い貴族を推薦した事のある大臣達は言葉が出ません



「ですが、貴族を廃止してしまうと領地運営や国交にも多大な影響が出ますよ」


私がそう言うと、モア王子はニッコリと微笑みました



「そうですね。では貴族の在り方を見直して、水準を設けましょう。
その水準を満たしていない貴族は爵位と領地全て国へ返上し、一般市民へ降格。」



「私個人の意見ですが、貴族として恥じる行為を重ねている者は多くいます。
水準にもよりますが、降格する貴族が多ければ国が代わりに領地運営をするのは難しくなっていくのでは?」


私の兄である法務大臣であり議会の議長であるメラトス公爵が口を挟みました



「えぇ、その通りです。
ですから一般市民であっても、国に貢献した者や功績を遺した者に爵位を与えようと思います」


まさかの発言に大臣達はざわつきました


「静かに。
モア王子、それは難しいのではないでしょうか?
一般市民は貴族の仕事を知りません。
その市民に爵位を与えても、負担になるだけでは?」


兄の言う通りです

貴族は領土にもよりますがその領土を守り、領民を守り、我々国が目の届かない場所を守っていくのが主な仕事です

領地運営の知識もない者が急にできるものではありません


「そうですね。ですが、誰か助言し導く者がいればどうでしょう?」



「導く者…?」



「えぇ、御祖父様の代で不当に退職に追い込まれたこの城の執事長や侍女長、前王派の貴族の元で働いていた執事長やメイド長など優秀な人材が現在100人ほどいます。
身元はしっかりとしていますし、本人達は可能ならもう一度働きたいと言っています。
彼等を採用する場合は、国で採用し領地運営や貴族育成が主な仕事になります。」



え??
ちょっと待って待って!!
いつの間に連絡取ってたんですか!


他の大臣達も声が出ないほどに驚いています


モア王子にそんな時間あったはずがないからです

青の国から戻ってきてからは、毎日会議や視察や騎士団との合同練習

前王と前神官長とレイン王子の問題もありましたし…

私達より遥かに動き回っていたはずです…


「皆さんそんなに驚かなくても…」


苦笑いのモア王子はカインに目くばせします


「皆さん、これをご覧ください」


カインが手を空中にかざすと、手紙用の紙が現れました


「一通だけ手紙を書きます。そして、この内容を…『複写』して、こっちの束に映すだけで…」


カインは説明しながら一瞬にして大量の手紙を作り上げてしまいました


「なんと…」

「…これがカイン様の力…」


大臣達は口々にそう囁き合います



「そして返事が来た人から『映像』で顔を見ながら面接しました。
もちろん嘘をついていないか、オルガがちゃんと確認しました。」



カインが映し出した映像は女王様とメトラス公爵夫人がお茶をしているところでした


向こうにもこちらが映っているのか、「あらあら」と嬉しそうに手を振っています


初めて映像を見た大臣達は驚きに固まっています



「ごきげんよう女王様、母上。お茶会楽しんでくださいね」


カインがそう言うと、2人は楽しそうに「えぇ」と返事をし手を振りました


映像が消え、会議室は静まり返っています



「と言う訳で、一般市民が貴族になれないと言う事はありません。
確かに本人の力量もありますが、現在貴族の中にも力量のない家もあります。
貴族の改革…やってみる価値は十分にあると思いませんか?」



モア王子の言葉に反論できる者などいませんでした

反論するのなら代替え案を提示しなければなりません

ですが腐った貴族を一掃する案など、何度も議論してきた私達には思いつかなかったのです



「…ではモア王子の提案に賛成の者は挙手を願います」


兄の言葉に、満場一致で賛成となりました





そして私達の地獄はここから始まったのです


手分けをしてこの国の貴族について大分調べまわった私達は、あることに気づいてしまったのです


各部署に書類の写しの提出を頼んだり調べてもらうよう、トップ達に声を掛けました

しかし書類は上がってこず、仕方なく他の者に頼むとすぐに提出してくれたのです


これがカインの言っていた仕事をしないトップなのでしょう


普段あまり関わることがなかったので、ここまで酷いと思いませんでした

他の大臣達も同じようで、この話は会議の時に話題に上がりました

仕事をしないだけでなく、部下を怒鳴っている者もいたり、資料について質問しても答えれなかったり、部下同士が愚痴を言い合っている現場に出くわした大臣もいました


皆がカインの言った事が真実であり、早急にどうにかする必要があると判断しました



私と議会長である兄は、女王様の元へ向かいました


大規模な人事異動の許可を得るためです




女王様に話すと、すぐに許可が下りました


反対されるか、しぶられると思っていた私達は呆気にとられました



「ふふふふ…2人してそんな顔をするでない。お主らが来るだろう事はモアとカインから聞いておったわ」



「「え??」」



どう言う事でしょう??



「お主らまだ気づかぬか?
お主達に貴族の調査をさせたのは実際の現場がどうなっておるか見せるためでもあったと言う事よ。」




「……2人の手の上で転がされていたと言う訳か…」


兄上は深いため息を吐き項垂れました



「自分達で気づいて、危機感を持って欲しかったのだろう。大臣達も貴族であろう?下の者の気持ちをくみ取る事が出来ぬ者に大臣なんぞさせる訳にはいかぬからな。」



なるほど……これは我々を試す意図もあったのか………

いやいや…どこまで先を読んであんな提案をしたんだろうか…


兄上をちらっと見ると、兄上も私を見ていて目が合いました


同じことを考えていたのでしょう、若干兄上の顔色が悪いです



「あの子達を敵に回さない方が世界の為じゃ。神に近い力を持ち、神よりも近くに居る」


女王様は窓の外を見ながらボソッと呟いた



神に近い力…



「4人揃えばもう手がつけれないだろう。あの子達が本気で怒りだす前にこの問題を片づけておくれ」


「「かしこまりました」」



私と兄は一礼し部屋を後にした



長い廊下を兄と並んで歩く



「…アレン、女王様は確か夢見の力が有ったよなぁ?」


「えぇ……」


「……早く調査しよう。最悪な事が起こらないように」


「はい……」


夢見とは、未来を夢で見る事が出来る力の事です


見た夢が必ずその通りになるのではなく、今のまま行けばこんな未来になるよという物を見る能力です


なので、その未来を変えたければ行動し道筋を変えなくてはなりません


今のままだと、モア王子とカイン、ソウ様とラウ様が激怒し世界が壊れる事態になると言う事なのでしょう


こうして私達はカインやモア王子の助けを借りながら、大規模な人事異動の為に城に勤めている者達全員を調査し試験を受けさせ面談し、忙しい日々を過ごしたのでした






そして人事異動の発表が終わり、貴族調査でも水準に達していなかった5家の爵位返還の命令も予定通りできました


あの6名が反対する事は分かっていました

なので朝から親を呼び出し別室で大広間の様子をカインが映像で見せていたのです

案の定、こちらの思惑通り動いてくれたので早々に片付ける事が出来ました





ここからは、人事異動により明日から配属先が変わる者や、役職に就く者へ資料を渡し顔合わせを行います

各大臣と私が職員達を各部屋へ誘導し説明などをしていきました

明日以降すんなりと業務が行えるとは思っていません

なのでフォローが必要な所が沢山あるでしょう


それと並行して、貴族の爵位剥奪の方も動いていかなければなりません

既に派遣する執事長や侍女長、メイド長の再教育は終わっています

彼らはモア王子の言うとおりとても優秀でした

あれだけ優秀ならば、自身が領地運営をしたいと思わないのかと疑問に思いました


しかしモア王子曰く、この世界の人は2種類居て自分が前線に立ちたい者と、後ろで援護したい者に別れるのだとか


モア王子に「女王と結婚したのに、何故自分が王になろうと思わなかったんですか?」と聞かれ、「私は表で動くのではなく裏で動く方がしっくりくるし、王をしたいとは思わない」と答えました


「でしょう?」と言われ、こう言う事か…と納得してしまいました




爵位剥奪を行った5家は騎士を派遣し逃亡や金策に動かないようにしました

明日、今後暮らす家に生活必需品を運び入れ、整えたら彼らは屋敷から追い出します

財産も没収となるので、彼らは早急に仕事を探さなくてはなりません

しかし、市井の方が心優しくちゃんと働くなら雇ってもいいと手を上げてくれています

ちゃんと働かない、貴族風を吹かしたりすれば解雇の可能性は出てきますが、これで少しは人としてマシになってくれたらいいのですが…


きっとそうはいかないのでしょう


カインから、市井の守衛詰所にいつもより多めに騎士を派遣しておくよう言われました


無駄な事を言わないカインがそう言うと言う事は、市井で問題が起こると言う事です


きっと、彼らが暴れたりするのでしょうね……


すぐに騎士団長に話は通しておきました



この忙しさが一体いつまで続くのでしょう?


あぁ……休みが欲しい……切実に……









しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

好きだと伝えたい!!

えの
BL
俺には大好きな人がいる!毎日「好き」と告白してるのに、全然相手にしてもらえない!!でも、気にしない。最初からこの恋が実るとは思ってない。せめて別れが来るその日まで…。好きだと伝えたい。

処理中です...