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質問を向けられても二人の様子は変わることはなく、ダモンがグラスに残ったワインを飲み干すまで沈黙は続いた。

「説明しようと思ってね」

「説明、ですか?」

「そう、何があったのかを。聞きたいだろう?」

「そうですね、興味がありますわ」

ヴァイオレットは若干前のめりになりながら答えた。好奇心が勝ったのだろう。

ダモンとリリアは顔を見合わせただけで、ダモンが口を開く。

「例の宗教団体はね、魔力持ちを集めて国を作ろうとしていた。ここまではいいんだけど、魔力持ち以外を徹底的に排除しようと動いていた。魔力持ちでなければ価値などない!魔力持ちのために犠牲になれ!って感じでね?聞いていてとても不快だったよ」

よくあることだ、魔力持ちは育った環境にもよるだろうが傲慢になってしまうことが多々ある。

「だから、こちらの世界に誘ったんだよ。彼らは喜んで誘いに乗ったよ」

「誘った?」

「ああ、こちらに来て魔法の腕を磨いて誰もが驚くような魔法を使えるようになればいいとね」

「それで彼らはそちらの世界に行ったということですか?」

ダモンは無言で肯定する。

「どうして誘ったんですか?」

イリアがずっと疑問だったことを聞いてみる、ヴァイオレットは『どうしようもない』と言っていた理由だ。

「え?言っただろう。不快だったと」

なんてことないように、ダモンは言う。

「僕達を不快にさせたんだ、これは大罪だよ」

今度はイリアが無言になる番だった。

「上には上がいるという現実を知った時、とてもとても絶望していたよ、自分達が井の中の蛙だったと否が応でも気づかされた時の表情ときたら…、あれは笑えたね、なあリリア?」

「ええ、すごーく面白かったわ」

語尾に「♪」が付きそうだ。

「見たこともない魔物が蔓延る世界で、少し魔法が使えるくらいじゃ生きていけないよ、なんせ彼らの魔法はこちらでは子どもでも簡単に使える魔法なんだから」

「それで、彼らはどうなりましたの?」

「絶望の中死んでいったかな」

「まあ、そうなんですの?」

「かなり威勢が良かったから楽しませてくれるかと思ったんだけど、口先だけだったね」

死んだということを簡単に受け入れられるヴァイオレットとは違い、イリアは表情を取り繕うのに必死だった。

「長い時間を生きる我々を少しでも楽しませてくれたら退屈しのぎができたんだけどね、それすらもなかったよ」

「そうそう、助けて!とか、ここから出して!とか?手を貸すなんて一言も言ってないのにね?」

クリスが言っていたことと合致する、鏡から聞こえたという内容と…。

断末魔だったようだ。

「久々にああいうのを見たわ、禍々しいドロドロとした纏わりつくような負の感情、己の力を過大に評価する自信、分不相応な野望、昔はよく見たけど最近は現実的リアリストがほとんどでしょう?身の丈に合った幸せしか追い求めないのよ」

「つまらない世の中になったものだ」

なんとなく二人は怒っているように見えるが、何に対して怒っているのかイリアには見当もつかない。

「ふふ、そのつまらない世の中でしばらく身をおいていた理由はなんですの?」

「え?」

「あなた方は姿を現せるんですもの、俗な言い方をするとこちらの世界を引っ掻き回すことも出来るはずですわ。それなのに大人しくしていたことが不思議で」

確かに今の状況なら彼らがこの世界を支配することなど朝飯前だろう。

「退屈しのぎにはなるんじゃありませんか?」

ヴァイオレットの疑問は最もだ、彼らは『退屈』だと言っていた。それなのにどうして?イリアも同じ疑問を持った。
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