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これまでの話を聞いていたヴァイオレットは、肘掛けに置いた右手の人差し指をトントンしている。

「なるほどね…、ところで買取金額が記録によると金貨1100枚なんだけど、どうして?」

「はい、鏡の由来や老人のエピソードを今後展示する時に添えることを了承していただきましたので、上乗せしました」

「ふーん、それにしては多いわね?」

「…ええ、あの」

「分かってるわ、これから新しい生活を始める一家に餞別を送ったのでしょう?」

「はい、勝手にすみません」

「いいのよ、そういうことはすごく大事よ。だから私はあなたに任せているのだから」

ヴァイオレットは任せられることは全て人に任せてしまっている。特にイリアは魔道具に対する真眼は確かなもので、更には今回のように依頼者の心情を一番に考えられる、そういうところをヴァイオレットはイリアを認めている。

「それから、鏡のことをどこからか聞きつけて例の宗教団体が買い取りを希望した、ということね?」

「はい」

「それにしても…、金貨5000枚とはふっかけたわね?」

「その…、あまり人の手に渡らないほうがいいかと思いまして…」

イリアは言葉を濁すには何かしらの理由があるのだろう、それはヴァイオレットにも分かっていることなのだが。

「イリア、あなたの見立ては?」

チラリ、と面白そうにイリアを見たヴァイオレットはそのまま目線を鏡に向ける。

「クリス警部の言っていた、鏡の中に入っていったというのは実際に起きたことではないかと」

「それで?」

ヴァイオレットは鏡から目線を外さずに言葉だけで促す。

「もしかしたら前に読んだことがある『欲望を叶える鏡』ではないかと?」

『欲望を叶える鏡』とは、その名の通りどんな欲望でも鏡に願えば叶う、という言い伝えられている魔道具。

誰も実物を見たことがないお伽噺の中の魔道具、イリアは一目見た時に感じたおぞましさは、言葉では言い表せない。

「老人の言っていた男女は鏡の中の世界の君主とでも言うのでしょうか?何かしらの理由で人を鏡の中に誘っているのでは?」

イリアが分からないことは『理由』だ、どうしてそんなことをする必要性かあるのか?全く見当もつかないのだ。

だからこれはここで保管しておくことが一番だと考えた。

それなのに…。

宗教団体はとんでもない金額に二つ返事で了承した。

もちろん危険性も説明したのだが相手の答えは変わらなかった。

こうなってしまって思うのは、何らかの危険が自身に起こっても商会こちらは責任を負わない、という念書を作っておいてよかった、ということ。

「ふーん、イリアは『理由』が知りたいの?」

「は、はい…」

イリアの疑問をヴァイオレットは言い当てた。相変わらず優れた洞察力に舌を巻く。

「そうね、けど案外どうしようもない『理由』だと思うわ」

「どうしようもない、ですか?」

「ええ、そうでしょう?」

ヴァイオレットが言うな否や、突然目の前に男女二人が現れた。
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