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第二章 再誕! 魔王サタン! と言うとでも思ったか?
俺はお前……お前は俺……いつまでも……永遠に……
しおりを挟む太陽が頂点に立っている時刻。
俺達は、森の中にいる。
ルシと出会った、あの森だ。
『再誕』と書かれた半袖のシロTを身に纏い、行動している。
白い生地に文字が書かれているTシャツを、集めるのが趣味なんだが……
ルシからダサいと言われてしまった。
あの顔を、俺は絶対に忘れない。
それに問題が、一つある。
全くサイズが合っていない。
それもそうだ。
俺の部屋に有った服は、人間だった頃に着ていた服なのである。
身長が百八十cm以上もあるお陰で、常にXLのサイズだ。
それが、三歳児程度の大きさになった今、サイズが合うはずもない。
動きにくいったらありゃしない。
「おいルシ~仲間どこに居るんだよ?」
「すぐに見つけられたら、苦労はないワン。今は、こうやって地道に探すしかないワン」
「敵に会ったらどうすんだ? 戦うのか?」
「戦える戦力がどこにあるワン? お前は赤ん坊、僕は犬、少しは考えろワン」
「なら探しに行くとか言うなよ、このアホ犬が」
という会話を、ルシに乗りながらしている。
ルシに跨って以来、こんな状態だ。
当の本人は嫌がっているが、冒険に行く条件で、乗せてもらっている。
はぁ……勇者とは出会いたくないな……
あ……これフラグかも。
「よっこらせ、ルシ火頼むわ~」
「はぁーようやく、軽くなったワン。ワン!」
「あんがとな~ ッスーフゥー」
ルシから降り、一服取る事にした。
それにしても、本当に仲間なんているのか?
そもそも、生き返ってるのか?
根本的に、そこからの話だろ?
「なぁルシ~」
「シッだワン。 あそこに誰かいるわん」
ルシは、小声で話し掛けてき、遠くの存在を知らせて来た。
仲間か? と思ったが、ルシの警戒する姿を見て、違うと確信した。
急いでタバコを消し、俺も見てみると遠くの方にいる、人型が何かを探し回るように歩いる。
そして、俺達の存在に気が付いて向かってきた。
人間だ。
見た目は若そうだが、若者の格好ではない。
そう……例えるなら……勇者だ。
「お、おいルシ。あいつ勇者じゃねぇのか?」
「……ヤバい状況になったワン。 今すぐ逃げるしかないワン」
小声で話しかけ、今の状況が最悪な事を、お互い確認する。
幸い一人だが、ルシの話からすると、神を相手にするようなものだ。
戦っても瞬殺されるのがオチだ。
……フラグ回収早すぎだろ。
「逃げるって言っても無理だろ? どう」
「何を話してる魔族共?」
「ちょっと持てワン。僕は魔族じゃないワン」
こ、こいつふざけんなよ?
一人だけ逃げようとしてやがる。
いざってなったら、俺を見捨てるつもりか?
「魔族と共にいる者は、魔族と判断する。よって抹殺する。」
「あはは! ルシ、ザマァ見ろ! お前も立派な魔族だ!」
一人だけ逃げようとした罰だ!
一緒に……ん? ちょっと待てよ……
あれ? 俺も抹殺される?
あ……俺、悪魔だった……
完ッ全に忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「お、おいルシ! どうにかしろ! 俺達消されるぞ?!」
「もう……どうする事も出来ないワン……大人しく消されるワン……」
完全に諦めた顔を、ルシはしている。
俺も、騒ぐだけ騒いで、何もする事が出来ない。
異世界まで来て、すぐにゲームオーバーだ。
この人生短かったな……
「下級勇者ヘルアニが貴様らを抹殺する」
勇者はそう言い、剣を抜き去った。
ルシは下を向いたままだ。
俺はと言うと……
今から殺される、という感情は一切ない。
不思議だが、死の感情を上回る何かが、体全身を巡っている。
あの言葉を聞いた時からだ……
そう『勇者』という言葉だ。
心臓の鼓動が脳内を忙しく駆け巡り、俺ではない何かが訴えてくる。
『殺せ、勇者を殺せ』と……
最早、思考が追い付いていない。
段々、鼓動が速くなっている。
それと同時に訴えも強まっている。
聴覚を遮断されたみたいに、周囲の音という情報が、一切入ってこない。
ドクンッドクンッドクンッ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
聴こえてくるのは……鼓動と訴えだけだ。
俺が、俺ではない感覚だ。
体の支配を、何者かに奪われた感覚だ。
ドクンッ殺せドクンッ殺せドクンッ殺せドクンッ殺せ
鼓動と訴えが混ざって聞こえ出した。
激しい嫌悪感だ。
聴きたくない! と思う程、強まってくる。
「……お前は…………勇者なのか?」
「ああそうだ。お前らの敵、勇者だ」
精一杯の言葉で、再確認をする。
こいつは勇者だ。
目の前の存在を、勇者と認識した瞬間だった。
『勇者を……殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
叫びを聴き、訴えの感情……いや、ドス黒い炎が視界を支配した。
炎は螺旋状を描きつつ、俺を包み込んだ。
鼓動も訴えも消え、体の支配も自由になったが……
視界だけは、元に戻らなかった。
「お、おい大丈夫かワン?」
炎の外からルシの声が聴こえる。
大丈夫そうで何よりだ。
炎の被害は俺だけか……
暑くはない。
だが、これまで抱いた事の無い、憎しみの感情が襲い掛かってくる。
吐き気がする。
この感情は誰のだ? ルシか? それともあの勇者か?
嫌だ……逃げたい……
この場から消え去りたい……
思考がマイナスへ向かって突っ走る。
『安心シロ……力ヲ抜ケ』
何かが脳内に話しかけてくる。
聴いたことのある声だ。
だが思い出せない。
「だ、誰なんだ? 此処から出してくれ!」
『……俺ハオ前の仲間だ……あの日の誓いを果たす時が来た……俺と相棒との大事な約束だ』
カタコトの言葉が、段々と聞こえやすくなってきた。
だが、言っている意味がさっぱり分からない。
誓い? 約束? 一切わからない……
だが、信用は出来る。
何故かはわからないが、そう確信出来る。
「お前の事は……何故か信用出来る……教えてくれ、俺はどうなるんだ?」
『流石相棒だ……そう言ってくれると思った……有るべき姿に戻ると言っておこう……』
「有るべき姿? どういう事だ?」
『そろそろ時間だ……最後に……唱えてくれ……俺はお前、お前は俺……一心同体だ……いつまでも……永遠に……』
最後の言葉を発した直後、聞こえなくなった。
だが、憎しみの感情は緩和されている。
あいつに助けられたのか?
そろそろ時間ってどういう……
視界を支配していた炎が徐々に薄まっている。
そしてあいつが最後に放った言葉を唱えてみる
「俺はお前……お前は俺……一心同体……いつまでも……永遠に」
言葉を言い放った瞬間、ドス黒い炎は一瞬にして消え去った。
憎しみの呪縛から解き放たれ、心が楽になった。
周りを見渡すが、異変に気付いた。
視点が高い。
いや、人間だった頃と同じ視点だ。
「ル、ルシ無事だったか?」
驚きの表情をルシは、隠せていなかった。
勇者も同じ表情だった。
そして、異変にもう一つ気付いた。
声が低い。
赤ちゃんの高い声とは、別物だった。
「貴、貴様は……」
勇者は、俺の姿を見て怯えている。
余りの驚き様に、尻餅をついてガクガクと震えていた。
「お、お前は…………」
驚きの余り、ルシは続きの声を出せていなかった。
此奴らは何故、そんなに驚いているのか?
今はわからなかったが……勇者にとっては、いや人間界全体を、揺るがす人物だったに違いない。
ただ……ルシにとっては希望の人物だった事に違いは無い。
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