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六 : 大志 - (16) 大詰めの北陸・中国筋

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 織田家が掲げる“天下布武”に向けた歩みは、着実に進んでいた。
 まず、北陸方面。越中における上杉方の重要拠点である魚津城を包囲し攻め寄せた柴田勝家率いる織田勢に対し、上杉景勝も座していられなかった。五月四日に軍勢を率いて春日山城を発ち、十九日には越中国にある天神山城に入った。だが、六日には魚津城の二ノ丸が落ち、さらに北信濃の森長可が北上し越後に迫り春日山城がおびやかされる状況となり、景勝は二十七日に撤退を決断した。長可は四月に新領に入り、四月五日には上杉方が煽動する形で旧武田家家臣の地侍など約八千人の一揆が発生したが、これを二日で鎮圧。反発する勢力を追放したり国衆の妻子を人質として海津城に住まわせるなどし、僅か一月で統治を固めた。入領して一月余りで他国へ攻め入るのは並大抵の事ではなく、長可の力量だからこそ実現出来たと言える。
 撤退に際し、景勝は魚津城の守将達に激励の手紙を送り、武勇をたたえた。魚津城を諦めるのは断腸の思いだったが、敵が居城である春日山城へ迫っている事を考えれば致し方ない決断だった。東と南の二方面から織田勢が迫り、北にも反旗を翻した者を抱え、絶体絶命の状況に置かれているのを景勝も理解していた。五月に北条家と共に対峙している佐竹義重に宛てた書状の中で景勝は『私は良い時代に生まれたものだ。六十余州を敵にして越後一国で戦い、滅ぶことは死後の思い出になる』と述べ、滅亡覚悟で戦う決意を示していた。
 一方、中国方面でも動きが見られた。備中高松城へ救援に駆け付けた毛利勢だが、羽柴方の奇策“水攻め”を前に手も足も出なかった。そこへ信長が大軍を率いて備中へ向かう動きがあると掴んだ毛利方は、滅亡だけは回避せんと安国寺恵瓊を派遣して秀吉との間で講和を結ぼうと試みた。毛利方は『五ヶ国(備中・備後・美作・伯耆・出雲)の割譲、将兵の助命』を提示したが、秀吉は『伯耆や備後・美作は既に織田のもの。さらなる領土の割譲と、城主・清水宗治の切腹は譲れない』と突っ撥ねた。双方の条件に隔たりは大きく、交渉は物別れに終わった。
 何としても織田の大軍が着くまでに戦を終わらせたい毛利方は、宗治に降伏するよう促したがこれを拒否。そこで恵瓊を髙松城へ派遣して宗治の説得に当たらせ、「自分の首で毛利家と将兵が助かるなら」と切腹を受け入れた。
 奇しくも、魚津城落城と清水宗治の同意が得られたのは、同じ天正十年六月三日。この時、畿内で驚天動地の大事件が起きている事を、この時の勝家も秀吉もまだ知らなかった――。
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