上 下
18 / 34

三 : 孤立無援(2)-信長、動く

しおりを挟む
 五月四日。京に滞在していた信長の元に驚天動地きょうてんどうちの一報が飛び込んできた。
『御味方、大敗。総大将・原田直政、討死』
 その報せを最初に耳にした信長は俄かに信じられなかった。本願寺方の流言りゅうげんではないかと疑ったが、続々と異口同音いくどうおんに同様の報せが届いた為に真実と認めざるを得なかった。
(一体、大坂表で何が起こったのだ……?)
 断片的な情報しか入っておらず、戦に至った経緯や状況がまだ不明瞭だった。そもそも、本願寺は守りを固めるばかりで攻めて来る事は無いだろうという認識の信長には、小競り合いで多少の損害を出しても事態が大きく動くとは考えていなかった。
 訳が分からず混乱する信長の元に、追い打ちをかけるような報せが届いた。
『天王寺砦に本願寺勢が来襲。その数、一万を優に超えるものかと。至急援軍を』
 天王寺砦を守る光秀から送られてきた早馬の口から伝えられたのは、信長の予想を遥かに超える深刻なものだった。
 現在、天王寺砦には明智・佐久間の両勢合わせて三千程度の兵が入っているが、一万を超える本願寺勢が相手ではどれだけの間持ち堪えられるか。戦巧者の光秀であっても厳しいと言わざるを得ない。
「馬曳け! 各地に早馬を送り、急ぎ皆を呼び集めよ!」
 居ても立っても居られないとばかりに立ち上がった信長は、大股で歩きながら矢継ぎ早に指示を出す。
 直政が討たれたのは痛手だが、それ以上に光秀を失うのは何が何でも阻止しなければならない。光秀は織田家にとって欠かす事が出来ない重要な家臣で、今光秀を失うこととなれば天下布武の達成に大きな支障をきたすこととなる。それだけは避けなければならない。
 周囲の者が慌ただしく動く中、信長は用意された馬に跨ると時が惜しいとばかりに他の者が揃うのを待たず、単騎で駆け出した。その顔は、近年無いくらいに焦りに満ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

天正十年五月、安土にて

佐倉伸哉
歴史・時代
 天正十年四月二十一日、織田“上総守”信長は甲州征伐を終えて安土に凱旋した。  長年苦しめられてきた宿敵を倒しての帰還であるはずなのに、信長の表情はどこか冴えない。  今、日ノ本で最も勢いのある織田家を率いる天下人である信長は、果たして何を思うのか?  ※この作品は過去新人賞に応募した作品を大幅に加筆修正を加えて投稿しています。  <第6回歴史・時代小説大賞>にエントリーしています!  皆様の投票、よろしくお願い致します。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n2184fu/ )』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891485907)』および私が運営するサイト『海の見える高台の家』でも同時掲載

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

薙刀姫の純情 富田信高とその妻

もず りょう
歴史・時代
関ヶ原合戦を目前に控えた慶長五年(一六〇〇)八月、伊勢国安濃津城は西軍に包囲され、絶体絶命の状況に追い込まれていた。城主富田信高は「ほうけ者」と仇名されるほどに茫洋として、掴みどころのない若者。いくさの経験もほとんどない。はたして彼はこの窮地をどのようにして切り抜けるのか――。 華々しく活躍する女武者の伝説を主題とし、乱世に取り残された武将、取り残されまいと足掻く武将など多士済々な登場人物が織り成す一大戦国絵巻、ここに開幕!

慶長の成り上がり

カバタ山
歴史・時代
真鍮の話です。

【1分間物語】戦国武将

hyouketu
歴史・時代
この物語は、各武将の名言に基づき、彼らの人生哲学と家臣たちとの絆を描いています。

お鍋の方【11月末まで公開】

国香
歴史・時代
織田信長の妻・濃姫が恋敵? 茜さす紫野ゆき標野ゆき 野守は見ずや君が袖振る 紫草の匂へる妹を憎くあらば 人妻ゆゑにわれ恋ひめやも 出会いは永禄2(1559)年初春。 古歌で知られる蒲生野の。 桜の川のほとり、桜の城。 そこに、一人の少女が住んでいた。 ──小倉鍋── 少女のお鍋が出会ったのは、上洛する織田信長。 ───────────── 織田信長の側室・お鍋の方の物語。 ヒロインの出自等、諸説あり、考えれば考えるほど、調べれば調べるほど謎なので、作者の妄想で書いて行きます。 通説とは違っていますので、あらかじめご了承頂きたく、お願い申し上げます。

処理中です...