2 / 5
2. この町は好きだけど
しおりを挟む
20年の歳月もあれば、町は変わるだろう。しかし、ここまで変わる町も珍しいのではないか。
東山1丁目、もっと細かく町会名で言えば木町二番丁に住んで40年以上になる木倉貴子は、最近複雑な思いを抱いていた。
通り一本挟んだ裏はひがし茶屋街という立地ではあるが、元々は極々平凡な住宅地だ。同じ通りで観光客が来そうな所と言えば實相寺の向かいにある高木糀商店くらいで、あとは普通の家々が立ち並んでいる。道も車1台が通るのがやっとな細さで、お客さんを下ろしたと思われるタクシーが通るくらいで県外ナンバーの車は滅多に来ない。
金沢市が観光に力を入れ始めた約20年前、お茶屋の建物が集まった地域では道が石畳風に変えられたり街灯がレトロなものになったりしたが、通り一本挟んだ地元は変わらなかった。たまに茶屋街目当てで来た観光客も、ちょっと入っては“何もない”と分かってすぐに引き返していった。だから、軋轢なんか存在しなかった。
しかし……そんな状況も変わって来たのは、新幹線が開業するちょっと前からだ。
最初はお茶屋が集まる地域やそこに通ずる道で、普通の家がお土産屋や飲食を扱うお店に変わり始めた。観光客が殺到するようになると煩わしさや不便さを感じるようになった住民が他の地域へ引っ越すようになり、空いた家に商売目当ての外部の人間が入る、という事も珍しくなくなってきた。
変化の波は、貴子の住む二番丁でも現れ始めた。若い芸術家のワークショップが出来たり、観光客向けの商売屋さんが出来たり、“普通の住宅地”ではなくなりつつある。通りをレンタルサイクルで散策する外国人やガイドブック片手に歩く日本人も増えつつある。
実害が無いなら別に問題ないのだが……閑静な住宅街なのにボリューム大きめで会話する観光客、細い道なのに迷い込んだ県外ナンバーの車、明らかに地元の人は捨てないであろうタバコの吸い殻やゴミの数々。正直、弊害がないと言えば嘘になる。
変化を嫌うのは、自分が年老いたせいかしら。この町を愛しているものの、観光客がもたらす小さなストレスに、貴子は少なからず葛藤を抱えていた。まるで喉に刺さった小骨のように、貴子の心をモヤモヤとさせていた。
東山1丁目、もっと細かく町会名で言えば木町二番丁に住んで40年以上になる木倉貴子は、最近複雑な思いを抱いていた。
通り一本挟んだ裏はひがし茶屋街という立地ではあるが、元々は極々平凡な住宅地だ。同じ通りで観光客が来そうな所と言えば實相寺の向かいにある高木糀商店くらいで、あとは普通の家々が立ち並んでいる。道も車1台が通るのがやっとな細さで、お客さんを下ろしたと思われるタクシーが通るくらいで県外ナンバーの車は滅多に来ない。
金沢市が観光に力を入れ始めた約20年前、お茶屋の建物が集まった地域では道が石畳風に変えられたり街灯がレトロなものになったりしたが、通り一本挟んだ地元は変わらなかった。たまに茶屋街目当てで来た観光客も、ちょっと入っては“何もない”と分かってすぐに引き返していった。だから、軋轢なんか存在しなかった。
しかし……そんな状況も変わって来たのは、新幹線が開業するちょっと前からだ。
最初はお茶屋が集まる地域やそこに通ずる道で、普通の家がお土産屋や飲食を扱うお店に変わり始めた。観光客が殺到するようになると煩わしさや不便さを感じるようになった住民が他の地域へ引っ越すようになり、空いた家に商売目当ての外部の人間が入る、という事も珍しくなくなってきた。
変化の波は、貴子の住む二番丁でも現れ始めた。若い芸術家のワークショップが出来たり、観光客向けの商売屋さんが出来たり、“普通の住宅地”ではなくなりつつある。通りをレンタルサイクルで散策する外国人やガイドブック片手に歩く日本人も増えつつある。
実害が無いなら別に問題ないのだが……閑静な住宅街なのにボリューム大きめで会話する観光客、細い道なのに迷い込んだ県外ナンバーの車、明らかに地元の人は捨てないであろうタバコの吸い殻やゴミの数々。正直、弊害がないと言えば嘘になる。
変化を嫌うのは、自分が年老いたせいかしら。この町を愛しているものの、観光客がもたらす小さなストレスに、貴子は少なからず葛藤を抱えていた。まるで喉に刺さった小骨のように、貴子の心をモヤモヤとさせていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
トラットリア・ガット・ビアンカ ~勇気を分けるカボチャの冷製スープ~
佐倉伸哉
ライト文芸
6月第1週の土曜日。この日は金沢で年に一度開催される“金沢百万石まつり”のメインイベントである百万石行列が行われる。金沢市内の中心部は交通規制が行われ、武者行列や地元伝統の出し物、鼓笛隊の演奏などのパレードが執り行われる。4月から金沢で一人暮らしを始めた晴継は、バイト先の智美からお祭り当日のランチ営業に出てくれないかと頼まれ、快諾する。
一方、能登最北端の町出身の新垣恵里佳は、初めてのお祭りに気分が高揚したのもあり、思い切って外出してみる事にした。
しかし、恵里佳を待ち受けていたのは季節外れの暑さ。眩暈を起こした恵里佳の目に飛び込んできたのは、両眼の色が異なる一匹の白猫だった――。
※『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト』エントリー作品
◇当作品は『トラットリア・ガット・ビアンカ ~カポクオーカのお試しスコッチエッグ~(https://www.alphapolis.co.jp/novel/907568925/794623076)』の続編となります。◇
◇この作品は『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16816927860966738439)』『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4211hp/)』でも投稿しています。
トラットリア・ガット・ビアンカ ~カポクオーカのお試しスコッチエッグ~
佐倉伸哉
ライト文芸
金沢・ひがし茶屋街。兼六園・近江町市場と並び、金沢を代表する観光地の一つだ。
大学合格を機に金沢で一人暮らしを始める事になった新田晴継は、春休みに新生活の下見も兼ねて観光で訪れていた。
歴史ある街並みをスマホで撮影していると、晴継の前にオッドアイの白い三毛猫が現れた。珍しい猫を撮影しようとポケットからスマホを出した拍子に自宅のカギが落ちてしまい、白猫はカギを銜えて逃げ出してしまった。慌てて追いかけていくが、白猫は一軒の家の前で止まったかと思うと銜えていたカギを建物の中に放り投げてしまった!
入口には“Trattoria・Gatto・Bianca”と記されている看板が掛けられており、どうやら飲食店らしい。でも、見た感じ高級感溢れる内装で、敷居が高そう……。
晴継はカギを返してもらうべく、お店の中に足を踏み入れた――!!
※『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト』エントリー作品
◇この作品は『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16816927860798331832)』『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n3857hp/)』でも投稿しています。
白石マリアのまったり巫女さんの日々
凪崎凪
ライト文芸
若白石八幡宮の娘白石マリアが学校いったり巫女をしたりなんでもない日常を書いた物語。
妖怪、悪霊? 出てきません! 友情、恋愛? それなりにあったりなかったり?
巫女さんは特別な職業ではありません。 これを見て皆も巫女さんになろう!(そういう話ではない)
とりあえずこれをご覧になって神社や神職、巫女さんの事を知ってもらえたらうれしいです。
偶にフィンランド語講座がありますw
完結しました。
【随時更新】140字創作百合/CPなしツイノベログ
りつ
ライト文芸
ツイッターなどで書いた140字(前後)の創作百合/CPのないツイノベのログです。1本ずつに繋がりはないのでどこからでもお読み頂けます。ハッピーなものからビターなもの、SFチックなものまでいろいろ。じわじわ増えます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる