3 / 6
第2話 精霊の森
しおりを挟む
ふっと目が覚めた。まだ寝ぼけているのか、周りがよく見えなかった。
いつの間に寝ていたのだろうか。
それに、何故だか体がすごく重いし、地面に触れている背中やお尻が、ズキズキと痛む。
ーー何をしていたんだっけ…?
目を閉じて記憶を呼び起こすと、さっきの意味不明な事件を思い出した。
ーーそうだ!!変な穴に吸い込まれたんだ!
思わず目をカッと見開いて起きあがろうとすると、顔面にもふっとしたものが当たった。
突然の感覚に驚いて、また勢いよく体を戻すと、今度は後頭部に、柔らかくふにっとした何かにぶつかった。
とりあえず目の前にあるものを確かめようと目をこらすと、その塊は動き出し、さらに顔に近づいてきた。
「な、なんだ!?」
思わず身構えたが、特に何もしてこない。
よく見ると何かの生き物のようで、腹の上に鎮座しているようだった。
体が重いのは、こいつが原因だった。
一先ず害はなさそうであるが、ボケーとした顔をするその生物に、どこか見覚えがあった。
ーーなんだっけ?動物園によくいる…。ラマじゃなくって、えっと…。か…、カピバラだ!
多少違いはあるが、見た目はカピバラそっくりだった。しかし、なぜそれが自分の上に乗っているのかは、全く分からなかった。
さらに考えるべき謎が増え、ますます混乱する。
それをかき消すように、頭上から優しげな声がした。
「気がついたかしら?」
はっと上に目を向けると、長い髪をした女性の顔が見えた。
十人が十人美しいと言うだろう、優しげで綺麗なその顔に、思わず見惚れていると、さらに心配そうな声がかかる。
「大丈夫?こちらの言葉はわかるかしら?」
「は、はい!大丈夫です!」
「なら良かったわ。」
安心したように、女性はふわりと優しく微笑んだ。
これは一体どういう状況なのだろうか。
改めて辺りを見渡すと、空は暗く、まだ夜のようだった。
周りには木々が生い茂っており、どこかの森の中のようであった。
足元も、コンクリートの道ではなく、少し湿った土と草が広がっている。少なくとも、駅から自宅までの帰り道に、こんな場所はなかったはずである。
突然の状況についていけないが、とりあえず、腹の上に我が物顔で座っている巨体のせいで、そろそろ体が悲鳴を上げていた。
「おい、俺の上からどいてくれないか。さすがに重いし、苦しい…。そろそろ限界だ…。」
「あらあら。カイ、こちらにおいで。」
渋々といった様子で、カピバラもどきは女性の隣にぴょんっと移動した。
途端に圧迫感が消え、大きく息を吸い込んだ。まだズキズキとする体を起こして立ち上がり、辺りを見渡すも、やはり見覚えのない場所である。
ーー一体ここはどこなんだ?
改めて女性の方を見る。
地べたに正座で座り込み、足元には先ほどの生物と、おしゃれキャンパーが使うような、電気ではなく火が付くタイプのランプが置かれ、彼女の姿を照らし出していた。
黒っぽい髪と、青か紺のような、少なくとも日本人にはいないような色の目をした美しい女性は、もふもふと隣にいる毛玉を撫で回している。
女性は、こちらが落ち着くのを待っていたのか、もふもふから手を離して、声をかけてきた。
「気分はどう?」
「あ、はい。大丈夫です。あの、ここは一体…?」
「ここは、精霊の森。バーレント帝国の東端に位置するわ。」
「精霊…?バーレント?」
「この場所に見覚えは?」
「い、いいえ。」
「そう…。ラーシュ王国は知ってるかしら?」
「いいえ…。」
「やっぱりね…。」
そういうと、女性は立ち上がり、パンパンとスカートについた汚れを叩いた。
「あの、どういうことなんですか?ここは一体、どこなんですか?」
「さっきも言ったように、ここは精霊の森。人の理では計りきれない、様々な意思が絡み合う、魅惑の土地。…分かりやすいようにいうと、ここは、あなたがいた世界とは全く違う世界よ。」
サーと風が吹き、女性の長い髪を撫でる。
ーー違う世界?どういうことだ?それって最近よく聞く、異世界ってやつなのか?ということは、俺は異世界トリップをしてしまったってことか…?
予想だにしない言葉に固まった。
そんな、まるで漫画やアニメみたいな展開に、自分が巻き込まれるなんて思いもしない。
皆、一度は異世界に行ってみたいだなんて妄想するけれど、実際に行けるだなんて、誰も思ってはいないのだ。
そんなことを信じているのは、現実逃避して未だに夢みがちな奴らだけである。
そうだ、これは夢、夢なんだ。こんな夢を見るなんて、よっぽど疲れているらしい。やっぱり、人間、働きすぎると碌なことがないのだ。
「夢ではないわ。残念だけれど…。」
まるで、こちらを見透かしたように、真剣な眼差しで女性は言う。
夢ではない?じゃあなんだと言うのか?こんな現実があるはずがない。
「いや、これは夢だ。夢に違いない。それか、俺の頭がおかしくなったのか。いや…」
ブツブツと呟く俺に向かって、ドシンと凄まじい勢いで何かが足元にぶつかった。
思わず尻餅をついた俺の前には、先ほどのカピバラが座っていた。さっきの衝撃は、こいつのせいのようだ。
「さっきからなんなんだ!?痛いじゃないか!痛い…」
そう、痛いのだ。地面についた手に感じる土の感触も、さっきの衝撃の痛みも、夢にしてはあまりにもリアルすぎる。
それに、夢では痛みなんて感じるはずがない。
ーー夢じゃないのか…?本当に異世界に来てしまったのか…?
放心して固まる俺に、カピバラもどきは、ふんっと息を吐く。まるで、ようやく分かったのかとでも言いたげだった。
思考をまとめようとするも、想像の範疇を超えていて、何も考えがまとまらない。
改めて、女性に質問するため、立ちあがろうとしたところで、間の抜けた音が響き鳴った。
「グーーーー」
俺の腹の虫が鳴いた音だった。こんな状況でも腹は減るらしい。あまりも恥ずかしい状況に、思わず赤面して下を向いた。
そんな俺に、女性は近づいてきて柔らかな笑顔でこう言った。
「とりあえず、私の家においでなさい。」
全く状況はわからなかったが、この人に付いていけば、全てが解決する。
なぜかそう思わせるような、心に染みわたる笑みだった。
いつの間に寝ていたのだろうか。
それに、何故だか体がすごく重いし、地面に触れている背中やお尻が、ズキズキと痛む。
ーー何をしていたんだっけ…?
目を閉じて記憶を呼び起こすと、さっきの意味不明な事件を思い出した。
ーーそうだ!!変な穴に吸い込まれたんだ!
思わず目をカッと見開いて起きあがろうとすると、顔面にもふっとしたものが当たった。
突然の感覚に驚いて、また勢いよく体を戻すと、今度は後頭部に、柔らかくふにっとした何かにぶつかった。
とりあえず目の前にあるものを確かめようと目をこらすと、その塊は動き出し、さらに顔に近づいてきた。
「な、なんだ!?」
思わず身構えたが、特に何もしてこない。
よく見ると何かの生き物のようで、腹の上に鎮座しているようだった。
体が重いのは、こいつが原因だった。
一先ず害はなさそうであるが、ボケーとした顔をするその生物に、どこか見覚えがあった。
ーーなんだっけ?動物園によくいる…。ラマじゃなくって、えっと…。か…、カピバラだ!
多少違いはあるが、見た目はカピバラそっくりだった。しかし、なぜそれが自分の上に乗っているのかは、全く分からなかった。
さらに考えるべき謎が増え、ますます混乱する。
それをかき消すように、頭上から優しげな声がした。
「気がついたかしら?」
はっと上に目を向けると、長い髪をした女性の顔が見えた。
十人が十人美しいと言うだろう、優しげで綺麗なその顔に、思わず見惚れていると、さらに心配そうな声がかかる。
「大丈夫?こちらの言葉はわかるかしら?」
「は、はい!大丈夫です!」
「なら良かったわ。」
安心したように、女性はふわりと優しく微笑んだ。
これは一体どういう状況なのだろうか。
改めて辺りを見渡すと、空は暗く、まだ夜のようだった。
周りには木々が生い茂っており、どこかの森の中のようであった。
足元も、コンクリートの道ではなく、少し湿った土と草が広がっている。少なくとも、駅から自宅までの帰り道に、こんな場所はなかったはずである。
突然の状況についていけないが、とりあえず、腹の上に我が物顔で座っている巨体のせいで、そろそろ体が悲鳴を上げていた。
「おい、俺の上からどいてくれないか。さすがに重いし、苦しい…。そろそろ限界だ…。」
「あらあら。カイ、こちらにおいで。」
渋々といった様子で、カピバラもどきは女性の隣にぴょんっと移動した。
途端に圧迫感が消え、大きく息を吸い込んだ。まだズキズキとする体を起こして立ち上がり、辺りを見渡すも、やはり見覚えのない場所である。
ーー一体ここはどこなんだ?
改めて女性の方を見る。
地べたに正座で座り込み、足元には先ほどの生物と、おしゃれキャンパーが使うような、電気ではなく火が付くタイプのランプが置かれ、彼女の姿を照らし出していた。
黒っぽい髪と、青か紺のような、少なくとも日本人にはいないような色の目をした美しい女性は、もふもふと隣にいる毛玉を撫で回している。
女性は、こちらが落ち着くのを待っていたのか、もふもふから手を離して、声をかけてきた。
「気分はどう?」
「あ、はい。大丈夫です。あの、ここは一体…?」
「ここは、精霊の森。バーレント帝国の東端に位置するわ。」
「精霊…?バーレント?」
「この場所に見覚えは?」
「い、いいえ。」
「そう…。ラーシュ王国は知ってるかしら?」
「いいえ…。」
「やっぱりね…。」
そういうと、女性は立ち上がり、パンパンとスカートについた汚れを叩いた。
「あの、どういうことなんですか?ここは一体、どこなんですか?」
「さっきも言ったように、ここは精霊の森。人の理では計りきれない、様々な意思が絡み合う、魅惑の土地。…分かりやすいようにいうと、ここは、あなたがいた世界とは全く違う世界よ。」
サーと風が吹き、女性の長い髪を撫でる。
ーー違う世界?どういうことだ?それって最近よく聞く、異世界ってやつなのか?ということは、俺は異世界トリップをしてしまったってことか…?
予想だにしない言葉に固まった。
そんな、まるで漫画やアニメみたいな展開に、自分が巻き込まれるなんて思いもしない。
皆、一度は異世界に行ってみたいだなんて妄想するけれど、実際に行けるだなんて、誰も思ってはいないのだ。
そんなことを信じているのは、現実逃避して未だに夢みがちな奴らだけである。
そうだ、これは夢、夢なんだ。こんな夢を見るなんて、よっぽど疲れているらしい。やっぱり、人間、働きすぎると碌なことがないのだ。
「夢ではないわ。残念だけれど…。」
まるで、こちらを見透かしたように、真剣な眼差しで女性は言う。
夢ではない?じゃあなんだと言うのか?こんな現実があるはずがない。
「いや、これは夢だ。夢に違いない。それか、俺の頭がおかしくなったのか。いや…」
ブツブツと呟く俺に向かって、ドシンと凄まじい勢いで何かが足元にぶつかった。
思わず尻餅をついた俺の前には、先ほどのカピバラが座っていた。さっきの衝撃は、こいつのせいのようだ。
「さっきからなんなんだ!?痛いじゃないか!痛い…」
そう、痛いのだ。地面についた手に感じる土の感触も、さっきの衝撃の痛みも、夢にしてはあまりにもリアルすぎる。
それに、夢では痛みなんて感じるはずがない。
ーー夢じゃないのか…?本当に異世界に来てしまったのか…?
放心して固まる俺に、カピバラもどきは、ふんっと息を吐く。まるで、ようやく分かったのかとでも言いたげだった。
思考をまとめようとするも、想像の範疇を超えていて、何も考えがまとまらない。
改めて、女性に質問するため、立ちあがろうとしたところで、間の抜けた音が響き鳴った。
「グーーーー」
俺の腹の虫が鳴いた音だった。こんな状況でも腹は減るらしい。あまりも恥ずかしい状況に、思わず赤面して下を向いた。
そんな俺に、女性は近づいてきて柔らかな笑顔でこう言った。
「とりあえず、私の家においでなさい。」
全く状況はわからなかったが、この人に付いていけば、全てが解決する。
なぜかそう思わせるような、心に染みわたる笑みだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
甘い吐息で深呼吸
天乃 彗
恋愛
鈴木絢。二十八歳。職業、漫画家。漫画を描くことに没頭すると他のことが何も手につかなくなってしまう。食生活も、部屋の掃除も……。そんな汚部屋女子・アヤと、アヤのお隣さん・ミカゲさんが織り成す、とことん甘やかし年の差スローラブ。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
妖精王オベロンの異世界生活
悠十
ファンタジー
ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。
それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。
お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。
彼女は、異世界の女神様だったのだ。
女神様は良太に提案する。
「私の管理する世界に転生しませんか?」
そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。
そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる