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第五章
⑤
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目の前の男を倒して追いかけるのではなく、先に行かせた亮次には理由があった
この男に見覚えがある気がした。悠利のいる前で何者なのか問いたださなかったのは、もし彼が傷つくようなことがあってはいけないと思ったからで。
(なんて、過保護すぎか……)
「痛ってえ!」
男の叫び声とともに、彼の手から刃物が落ちて音を立てた。いつの間にか男の後ろに立っていた人物が彼の手を
ひねり上げている。
「お前」
亮次が思わず呟いた。
腕をつかんだまま男のみぞおちに拳を入れて廊下に倒したその人物は、あまりにも思いもよらない相手だった。
「おいおい、どういう風の吹き回しだ。誠二郎さん」
「今日は争いに来たわけじゃないよ。話をしに来たんだ」
「話?」
足音が聞こえて亮次がはっと振り返った。
騒ぎを聞きつけたのか、一人の職員がこちらへ向かってくるのが見えて、亮次はとっさに落ちているナイフを蹴った。
蹴られたナイフは床の上を滑って、ドアの下から貸金庫室の中へと入っていく。
「誠二郎さん」
亮次が貸金庫室のドアを開けた。二人が中に入って鍵を閉めると、倒れている男に声をかける職員の心配そうな声が聞こえてくる。
「こんなところに逃げ込んで、あとで困ることになるんじゃないのかい」
「あとのことはあとで考えりゃいい。で、まずお前さんはなんでここに?」
「私も一応は初音家の本家に近い人間だからね。ここの貸金庫に箱が預けられていることくらいは知っているよ」
「そりゃわかってるけど」
「先に事務所へ行ったんだが不在だったんでね。もしかしたらと思って足を運んだら案の定だったよ」
狭い部屋の中で、誠二郎が何かを仕掛けてくるような様子はなかった。それでも亮次の右足は床に落ちたナイフを踏みつけている。
「信用ないね」
「一度やられてるからな。で、話ってなんだ」
「ユキムラから聞いたんだよ。君たちは、箱を処分するつもりでいるらしいって」
「俺たちっていうか、悠利がな。俺や快に箱や中身をどうこうする権利はねえよ」
「私は、君は箱を保存していくつもりでいると思っていたんだよ」
「俺? なんでまた」
「君が貸金庫の鍵を隠し持っていると思っていたからね」
「まあ、確かに隠してたことに変わりはねえが」
箱を自分のものにするために隠し持っていたわけではない。持っていることを誰にも言えないままで時間が過ぎていった結果、隠し持っていたような結果になってしまっただけだ。
「妻や、利明さんが望んだとおり、箱を何としても処分しなければと思っていたからこそ過激な行動に出てしまったが……」
トントンと、誰かが外からドアをノックした。
職員か、それとも先ほどの男の仲間か。
どちらにしてものんびり話をしている場合ではない。
「とりあえずここから出たほうがよさそうだね」
誠二郎が手を差し出してくる。
「おい、力はあんまり使わねえほうがいいんじゃ」
「このくらいで寿命が縮んだりはしないよ。それよりここから出るほうが先だ」
再びノックする音が響いて、「すみません、外で倒れていた男性について何かご存知ないですか」などとドアの外から投げかけてくる。
どうやら外にいるのは職員らしい。
面倒なことになる前にと、亮次は誠二郎の手をつかんだ。
この男に見覚えがある気がした。悠利のいる前で何者なのか問いたださなかったのは、もし彼が傷つくようなことがあってはいけないと思ったからで。
(なんて、過保護すぎか……)
「痛ってえ!」
男の叫び声とともに、彼の手から刃物が落ちて音を立てた。いつの間にか男の後ろに立っていた人物が彼の手を
ひねり上げている。
「お前」
亮次が思わず呟いた。
腕をつかんだまま男のみぞおちに拳を入れて廊下に倒したその人物は、あまりにも思いもよらない相手だった。
「おいおい、どういう風の吹き回しだ。誠二郎さん」
「今日は争いに来たわけじゃないよ。話をしに来たんだ」
「話?」
足音が聞こえて亮次がはっと振り返った。
騒ぎを聞きつけたのか、一人の職員がこちらへ向かってくるのが見えて、亮次はとっさに落ちているナイフを蹴った。
蹴られたナイフは床の上を滑って、ドアの下から貸金庫室の中へと入っていく。
「誠二郎さん」
亮次が貸金庫室のドアを開けた。二人が中に入って鍵を閉めると、倒れている男に声をかける職員の心配そうな声が聞こえてくる。
「こんなところに逃げ込んで、あとで困ることになるんじゃないのかい」
「あとのことはあとで考えりゃいい。で、まずお前さんはなんでここに?」
「私も一応は初音家の本家に近い人間だからね。ここの貸金庫に箱が預けられていることくらいは知っているよ」
「そりゃわかってるけど」
「先に事務所へ行ったんだが不在だったんでね。もしかしたらと思って足を運んだら案の定だったよ」
狭い部屋の中で、誠二郎が何かを仕掛けてくるような様子はなかった。それでも亮次の右足は床に落ちたナイフを踏みつけている。
「信用ないね」
「一度やられてるからな。で、話ってなんだ」
「ユキムラから聞いたんだよ。君たちは、箱を処分するつもりでいるらしいって」
「俺たちっていうか、悠利がな。俺や快に箱や中身をどうこうする権利はねえよ」
「私は、君は箱を保存していくつもりでいると思っていたんだよ」
「俺? なんでまた」
「君が貸金庫の鍵を隠し持っていると思っていたからね」
「まあ、確かに隠してたことに変わりはねえが」
箱を自分のものにするために隠し持っていたわけではない。持っていることを誰にも言えないままで時間が過ぎていった結果、隠し持っていたような結果になってしまっただけだ。
「妻や、利明さんが望んだとおり、箱を何としても処分しなければと思っていたからこそ過激な行動に出てしまったが……」
トントンと、誰かが外からドアをノックした。
職員か、それとも先ほどの男の仲間か。
どちらにしてものんびり話をしている場合ではない。
「とりあえずここから出たほうがよさそうだね」
誠二郎が手を差し出してくる。
「おい、力はあんまり使わねえほうがいいんじゃ」
「このくらいで寿命が縮んだりはしないよ。それよりここから出るほうが先だ」
再びノックする音が響いて、「すみません、外で倒れていた男性について何かご存知ないですか」などとドアの外から投げかけてくる。
どうやら外にいるのは職員らしい。
面倒なことになる前にと、亮次は誠二郎の手をつかんだ。
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