ダブルボディガード

佐倉華月

文字の大きさ
上 下
37 / 40
第五章

しおりを挟む
目の前の男を倒して追いかけるのではなく、先に行かせた亮次には理由があった


 この男に見覚えがある気がした。悠利のいる前で何者なのか問いたださなかったのは、もし彼が傷つくようなことがあってはいけないと思ったからで。

(なんて、過保護すぎか……)

「痛ってえ!」

 男の叫び声とともに、彼の手から刃物が落ちて音を立てた。いつの間にか男の後ろに立っていた人物が彼の手を
ひねり上げている。
「お前」

 亮次が思わず呟いた。

 腕をつかんだまま男のみぞおちに拳を入れて廊下に倒したその人物は、あまりにも思いもよらない相手だった。

「おいおい、どういう風の吹き回しだ。誠二郎さん」

「今日は争いに来たわけじゃないよ。話をしに来たんだ」

「話?」

 足音が聞こえて亮次がはっと振り返った。

 騒ぎを聞きつけたのか、一人の職員がこちらへ向かってくるのが見えて、亮次はとっさに落ちているナイフを蹴った。

 蹴られたナイフは床の上を滑って、ドアの下から貸金庫室の中へと入っていく。

「誠二郎さん」

 亮次が貸金庫室のドアを開けた。二人が中に入って鍵を閉めると、倒れている男に声をかける職員の心配そうな声が聞こえてくる。

「こんなところに逃げ込んで、あとで困ることになるんじゃないのかい」

「あとのことはあとで考えりゃいい。で、まずお前さんはなんでここに?」

「私も一応は初音家の本家に近い人間だからね。ここの貸金庫に箱が預けられていることくらいは知っているよ」

「そりゃわかってるけど」

「先に事務所へ行ったんだが不在だったんでね。もしかしたらと思って足を運んだら案の定だったよ」

 狭い部屋の中で、誠二郎が何かを仕掛けてくるような様子はなかった。それでも亮次の右足は床に落ちたナイフを踏みつけている。

「信用ないね」

「一度やられてるからな。で、話ってなんだ」

「ユキムラから聞いたんだよ。君たちは、箱を処分するつもりでいるらしいって」

「俺たちっていうか、悠利がな。俺や快に箱や中身をどうこうする権利はねえよ」

「私は、君は箱を保存していくつもりでいると思っていたんだよ」

「俺? なんでまた」

「君が貸金庫の鍵を隠し持っていると思っていたからね」

「まあ、確かに隠してたことに変わりはねえが」

 箱を自分のものにするために隠し持っていたわけではない。持っていることを誰にも言えないままで時間が過ぎていった結果、隠し持っていたような結果になってしまっただけだ。

「妻や、利明さんが望んだとおり、箱を何としても処分しなければと思っていたからこそ過激な行動に出てしまったが……」

 トントンと、誰かが外からドアをノックした。

 職員か、それとも先ほどの男の仲間か。

 どちらにしてものんびり話をしている場合ではない。

「とりあえずここから出たほうがよさそうだね」

 誠二郎が手を差し出してくる。

「おい、力はあんまり使わねえほうがいいんじゃ」

「このくらいで寿命が縮んだりはしないよ。それよりここから出るほうが先だ」

 再びノックする音が響いて、「すみません、外で倒れていた男性について何かご存知ないですか」などとドアの外から投げかけてくる。

 どうやら外にいるのは職員らしい。

 面倒なことになる前にと、亮次は誠二郎の手をつかんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

処理中です...