15 / 40
第三章
①※
しおりを挟む
二人で過ごす時間は静かだった。
適当な番組が映っているテレビの音が流れる中で、互いに好きなことをして過ごしている。
悠利は本を読んでいることが多かった。読書が趣味らしく、たまに本屋へ寄っては快が絶対に読まないような活字の本を買っている。
快はといえば、こたつに入って寝転がりながら携帯電話を見ていたり、ぼんやりとテレビの画面を見ながらいつの間にか寝ていたりと、今までと変わらない毎日を送っている。
それなのに、同じ部屋に悠利がいるだけで気分が違う。
一人で過ごしていたときは、こんな自由な生活をいつまで続けていいのだろうかとか、これからの自分を漠然と不安に思うことがあったけれど、彼が来てからいつの間にかなくなっていた。
誰かがいるということはこんなにも安心感があるものなのだろうか。
それとも誰かじゃなくて、彼だからなのか。
悠利はベッドの上に座って本を読んでいる。
時計のないこの部屋で、快は携帯電話の中の時刻を確認した。もう午後四時を回っている。
窓の外には夕暮れが訪れている。
「そろそろ事務所行くか」
声をかけると、悠利が本を閉じて顔を上げた。
「夜の仕事がないから事務所へは行かないと思っていた」
「確かにやることないけど、一日に一度くらいは顔出さないとな」
もう少し早く行くつもりだったのに、途中でうとうとしていたら遅くなってしまった。
今日から三日間、ルミエールは休業する。
年に二度、店主の実華子は連休をつくっていて、その間にレイナやミユウは旅行へ出かけている。
今回は年末年始に休みがないので、その代わりということだろう。
今日の夕飯は何にしようか、などと考えながら、快は悠利とともに部屋を出た。ちなみに彼に聞いても、何でもいい、以外の言葉が返ってきたことはない。
二階から一階の事務所へ下りるだけの距離でも上着がないと厳しいほどに、冬の夕方の空気は冷え切っている。
事務所の冷蔵庫に何かあればそれで適当に作ればいいかと、快が事務所のドアを開けると振り返ったのは実華子だった。
「あれ、実華子さん。来てたんですか」
「こんばんは、快君、悠利君。今からちょうど準備をするところよ」
実華子は三段の重箱に詰まった料理を、来客用のテーブルに広げている。
「久々の出張ルミエールだ。どうだ、豪華だろ」
自分のデスクに頬杖をついて悠々とイスに座りながら、亮次がなぜか自慢げに言った。
「亮次さん、ちょっとは手伝おうっていう気にならないのかよ」
「俺が手伝ったところで邪魔になるだけだからな」
「そんなことないと思うけど」
料理や皿を並べることくらいなら誰だってできる。
だが亮次はまるでやる気はないらしい。
「お店がお休みの間は、私がお昼と夜ご飯を用意するからね」
「え、昼もですか」
「ええ。快君、いつもこの人の面倒見てるんでしょ? お店もお休みで送る仕事もないし、たまにはゆっくりしてもいいじゃない」
確かに、時々実華子が料理を作ってきてくれることがある以外は、食事はいつも快が用意している。
そうは言ってもいつも作っているというわけではなく、出来合いのものを買ってくることもよくあるし、作ったとしても適当だ。
「ばか言え。俺がこいつらの面倒見てやってるんだろが」
「そうね。一応保護者だものね」
軽く流して実華子がテーブルに瓶ビールを並べ始めると、イスに座っていた亮次がソファのほうへやってくる。
「まさかもう飲み始める気かよ」
「夜になるの待つ必要ねえだろ」
「だって亮次さん、飲み始めたら徹夜になるし」
「若者がなに弱気になってんだ。おい悠利、お前ビール飲めねえだろ。なんか好きなもん買ってこい」
そう言って亮次が悠利に渡した。
「ついでに氷も買ってきてくれ」
「それが目的だろ」
「まあな。快、お前も好きなもん買ってきていいから一緒に行ってこい」
「ああ、うん」
言われなくても行くつもりだったし、好きなものを買うつもりだったが言わないでおく。
すると悠利が受け取った財布を渡してきたので、快は上着のポケットにしまった。
適当な番組が映っているテレビの音が流れる中で、互いに好きなことをして過ごしている。
悠利は本を読んでいることが多かった。読書が趣味らしく、たまに本屋へ寄っては快が絶対に読まないような活字の本を買っている。
快はといえば、こたつに入って寝転がりながら携帯電話を見ていたり、ぼんやりとテレビの画面を見ながらいつの間にか寝ていたりと、今までと変わらない毎日を送っている。
それなのに、同じ部屋に悠利がいるだけで気分が違う。
一人で過ごしていたときは、こんな自由な生活をいつまで続けていいのだろうかとか、これからの自分を漠然と不安に思うことがあったけれど、彼が来てからいつの間にかなくなっていた。
誰かがいるということはこんなにも安心感があるものなのだろうか。
それとも誰かじゃなくて、彼だからなのか。
悠利はベッドの上に座って本を読んでいる。
時計のないこの部屋で、快は携帯電話の中の時刻を確認した。もう午後四時を回っている。
窓の外には夕暮れが訪れている。
「そろそろ事務所行くか」
声をかけると、悠利が本を閉じて顔を上げた。
「夜の仕事がないから事務所へは行かないと思っていた」
「確かにやることないけど、一日に一度くらいは顔出さないとな」
もう少し早く行くつもりだったのに、途中でうとうとしていたら遅くなってしまった。
今日から三日間、ルミエールは休業する。
年に二度、店主の実華子は連休をつくっていて、その間にレイナやミユウは旅行へ出かけている。
今回は年末年始に休みがないので、その代わりということだろう。
今日の夕飯は何にしようか、などと考えながら、快は悠利とともに部屋を出た。ちなみに彼に聞いても、何でもいい、以外の言葉が返ってきたことはない。
二階から一階の事務所へ下りるだけの距離でも上着がないと厳しいほどに、冬の夕方の空気は冷え切っている。
事務所の冷蔵庫に何かあればそれで適当に作ればいいかと、快が事務所のドアを開けると振り返ったのは実華子だった。
「あれ、実華子さん。来てたんですか」
「こんばんは、快君、悠利君。今からちょうど準備をするところよ」
実華子は三段の重箱に詰まった料理を、来客用のテーブルに広げている。
「久々の出張ルミエールだ。どうだ、豪華だろ」
自分のデスクに頬杖をついて悠々とイスに座りながら、亮次がなぜか自慢げに言った。
「亮次さん、ちょっとは手伝おうっていう気にならないのかよ」
「俺が手伝ったところで邪魔になるだけだからな」
「そんなことないと思うけど」
料理や皿を並べることくらいなら誰だってできる。
だが亮次はまるでやる気はないらしい。
「お店がお休みの間は、私がお昼と夜ご飯を用意するからね」
「え、昼もですか」
「ええ。快君、いつもこの人の面倒見てるんでしょ? お店もお休みで送る仕事もないし、たまにはゆっくりしてもいいじゃない」
確かに、時々実華子が料理を作ってきてくれることがある以外は、食事はいつも快が用意している。
そうは言ってもいつも作っているというわけではなく、出来合いのものを買ってくることもよくあるし、作ったとしても適当だ。
「ばか言え。俺がこいつらの面倒見てやってるんだろが」
「そうね。一応保護者だものね」
軽く流して実華子がテーブルに瓶ビールを並べ始めると、イスに座っていた亮次がソファのほうへやってくる。
「まさかもう飲み始める気かよ」
「夜になるの待つ必要ねえだろ」
「だって亮次さん、飲み始めたら徹夜になるし」
「若者がなに弱気になってんだ。おい悠利、お前ビール飲めねえだろ。なんか好きなもん買ってこい」
そう言って亮次が悠利に渡した。
「ついでに氷も買ってきてくれ」
「それが目的だろ」
「まあな。快、お前も好きなもん買ってきていいから一緒に行ってこい」
「ああ、うん」
言われなくても行くつもりだったし、好きなものを買うつもりだったが言わないでおく。
すると悠利が受け取った財布を渡してきたので、快は上着のポケットにしまった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】
あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。
【登場人物】
★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。
★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。
★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。
★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。
★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる