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本編
第八夜(Ⅱ)
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「どういう……どういうことだ、ユージン!」
「どうもこうもありませんよ。私は一度もユリアーナが死んだとは言っていませんから」
トバイアスは10日間の記憶を浚った。確かに、ユージンは一度も亡くなったユリアーナ、や、亡き王妃、と言っていない。
ただ、ユリアーナと呼んでいた。
「なんで兄さんがユリアーナに従うんだよ!」
「何故って、お前たちがグリーンハルシュ嬢に尽くすのと同じ理由だよ」
言って、ユージンはユリアーナに蕩けるような視線を向けた。嘘だろ、とジェレミーが呟く。
「その台詞は私のものじゃないかな。いくら妻以外の相手に想いを寄せているのだとしても、ユリアーナに対するお前たちの態度は度が過ぎている。ユリアーナが王妃であることを――自分達の頭に王冠を載せた存在であると、理解した態度とは思えない」
「……っ!」
「ねぇ、トバイアス。わたくしは沢山、あなたにヒントをあげたつもりよ」
謎かけも、フィーラン公のことも、消えたことも、北の離宮の管理人も、私の本のことも、全てはヒントとなったはず、とユリアーナは言う。
「どうして気付かなかったのかと考えてみたけれど、やっぱり行き着く先はいつも同じなのよね。あなたは、ずっとずっと、マーガレットしか見ていない。一年前のあの時も同じ。王妃のわたくしよりも、マーガレットの治療を優先した」
「あれは仕方がなかった! マーガレットは妊婦で」
ユリアーナはトバイアスの話を遮り淡々と続けた。
「あの時、他ならぬあなたたちが動いたことで、貴族の統率が取れなくなった。医師の殆どがマーガレットの治療に向かい、わたくしの治療は後回しにされた」
「だから、それはマーガレットが妊婦だったからで」
「――結果的に、わたくしは流産した」
その場のほぼ全員の瞳に、驚愕が浮かんだ。
「貴族の皆が知らぬのも無理はないこと。何しろ国王陛下は従妹姫の妊娠に浮かれ、わたくしと話す暇もなかったようだから。国王陛下が知らぬまま知らせることもできず、黙っていた」
「サザランドにいた我々は知っていたのだがね」
「ふふ、父上たちに知らせるのは別ですもの」
小さく笑みを浮かべてから、ユリアーナは貴族たちに視線を戻す。
「小さな命は生まれることなく散ってしまった。わたくしが死ぬのならばまだしも、子の命が散ってしまったことは、許せなかった」
「お姉様/ユーリが死ぬのも重罪でして/だよ」
オリヴィアとユージンが声をそろえた。両隣の妹と夫を見遣り、ユリアーナは微笑む。
「だからこそ、こうして場を整えた。裏切者を断罪するために」
紅の唇が弧を描く。笑みさえ浮かべて、ユリアーナは言い放った。
「先程から顔色が悪くてよ―――ウォルポール侯。そして、第三国王ジェレミー」
「どうもこうもありませんよ。私は一度もユリアーナが死んだとは言っていませんから」
トバイアスは10日間の記憶を浚った。確かに、ユージンは一度も亡くなったユリアーナ、や、亡き王妃、と言っていない。
ただ、ユリアーナと呼んでいた。
「なんで兄さんがユリアーナに従うんだよ!」
「何故って、お前たちがグリーンハルシュ嬢に尽くすのと同じ理由だよ」
言って、ユージンはユリアーナに蕩けるような視線を向けた。嘘だろ、とジェレミーが呟く。
「その台詞は私のものじゃないかな。いくら妻以外の相手に想いを寄せているのだとしても、ユリアーナに対するお前たちの態度は度が過ぎている。ユリアーナが王妃であることを――自分達の頭に王冠を載せた存在であると、理解した態度とは思えない」
「……っ!」
「ねぇ、トバイアス。わたくしは沢山、あなたにヒントをあげたつもりよ」
謎かけも、フィーラン公のことも、消えたことも、北の離宮の管理人も、私の本のことも、全てはヒントとなったはず、とユリアーナは言う。
「どうして気付かなかったのかと考えてみたけれど、やっぱり行き着く先はいつも同じなのよね。あなたは、ずっとずっと、マーガレットしか見ていない。一年前のあの時も同じ。王妃のわたくしよりも、マーガレットの治療を優先した」
「あれは仕方がなかった! マーガレットは妊婦で」
ユリアーナはトバイアスの話を遮り淡々と続けた。
「あの時、他ならぬあなたたちが動いたことで、貴族の統率が取れなくなった。医師の殆どがマーガレットの治療に向かい、わたくしの治療は後回しにされた」
「だから、それはマーガレットが妊婦だったからで」
「――結果的に、わたくしは流産した」
その場のほぼ全員の瞳に、驚愕が浮かんだ。
「貴族の皆が知らぬのも無理はないこと。何しろ国王陛下は従妹姫の妊娠に浮かれ、わたくしと話す暇もなかったようだから。国王陛下が知らぬまま知らせることもできず、黙っていた」
「サザランドにいた我々は知っていたのだがね」
「ふふ、父上たちに知らせるのは別ですもの」
小さく笑みを浮かべてから、ユリアーナは貴族たちに視線を戻す。
「小さな命は生まれることなく散ってしまった。わたくしが死ぬのならばまだしも、子の命が散ってしまったことは、許せなかった」
「お姉様/ユーリが死ぬのも重罪でして/だよ」
オリヴィアとユージンが声をそろえた。両隣の妹と夫を見遣り、ユリアーナは微笑む。
「だからこそ、こうして場を整えた。裏切者を断罪するために」
紅の唇が弧を描く。笑みさえ浮かべて、ユリアーナは言い放った。
「先程から顔色が悪くてよ―――ウォルポール侯。そして、第三国王ジェレミー」
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