王妃が死んだ日

神喰 夜

文字の大きさ
上 下
13 / 66
本編

第八夜(Ⅱ)

しおりを挟む
「どういう……どういうことだ、ユージン!」
「どうもこうもありませんよ。私は一度もユリアーナが死んだとは言っていませんから」

トバイアスは10日間の記憶を浚った。確かに、ユージンは一度も亡くなったユリアーナ、や、亡き王妃、と言っていない。
ただ、ユリアーナと呼んでいた。

「なんで兄さんがユリアーナに従うんだよ!」
「何故って、お前たちがグリーンハルシュ嬢に尽くすのと同じ理由だよ」

言って、ユージンはユリアーナに蕩けるような視線を向けた。嘘だろ、とジェレミーが呟く。

「その台詞は私のものじゃないかな。いくら妻以外の相手に想いを寄せているのだとしても、ユリアーナに対するお前たちの態度は度が過ぎている。ユリアーナが王妃であることを――自分達の頭に王冠を載せた存在であると、理解した態度とは思えない」
「……っ!」
「ねぇ、トバイアス。わたくしは沢山、あなたにヒントをあげたつもりよ」

謎かけも、フィーラン公のことも、消えたことも、北の離宮の管理人も、私の本のことも、全てはヒントとなったはず、とユリアーナは言う。

「どうして気付かなかったのかと考えてみたけれど、やっぱり行き着く先はいつも同じなのよね。あなたは、ずっとずっと、マーガレットしか見ていない。一年前のあの時も同じ。王妃のわたくしよりも、マーガレットの治療を優先した」
「あれは仕方がなかった! マーガレットは妊婦で」

ユリアーナはトバイアスの話を遮り淡々と続けた。

「あの時、他ならぬあなたたちが動いたことで、貴族の統率が取れなくなった。医師の殆どがマーガレットの治療に向かい、わたくしの治療は後回しにされた」
「だから、それはマーガレットが妊婦だったからで」
「――結果的に、わたくしは流産した」

その場のほぼ全員の瞳に、驚愕が浮かんだ。

「貴族の皆が知らぬのも無理はないこと。何しろ国王陛下は従妹姫の妊娠に浮かれ、わたくしと話す暇もなかったようだから。国王陛下が知らぬまま知らせることもできず、黙っていた」
「サザランドにいた我々は知っていたのだがね」
「ふふ、父上たちに知らせるのは別ですもの」

小さく笑みを浮かべてから、ユリアーナは貴族たちに視線を戻す。

「小さな命は生まれることなく散ってしまった。わたくしが死ぬのならばまだしも、子の命が散ってしまったことは、許せなかった」
「お姉様/ユーリが死ぬのも重罪でして/だよ」

オリヴィアとユージンが声をそろえた。両隣の妹と夫を見遣り、ユリアーナは微笑む。

「だからこそ、こうして場を整えた。裏切者を断罪するために」

紅の唇が弧を描く。笑みさえ浮かべて、ユリアーナは言い放った。

「先程から顔色が悪くてよ―――ウォルポール侯。そして、第三国王ジェレミー」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...