異世界の魔王を救う方法

神喰 夜

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第5話 マキナ、魔王と出会う

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勇者が真剣な顔をして人間界に戻るのを見送り、マキナはケイトリンと共に魔王城に帰還した。

「――ケイトリンから、勇者に会いに行ったと聞いた」
「うん」
「魔物が人間界に降りる理由を、話したと」
「うん」
「何故」
「――分かるよ。結界が緩むことが判明したら、人間の迷い人が増える。魔物を倒して儲ける人もいる」
「ならば――」
「私にとっては全部どうでもいいんだよ、アルヴィス。あなたが生きていてくれたら、他のことなんてどうでもいいの。世界が滅びようが、あなたさえ生きていてくれたら、それでいい」

魔王は目を見開いた。

「マキ――」
「あぁそうだ、そろそろ満月でしょう? ちゃんと帰るから、安心してね」
「マキナ」
「なあに、魔王さん」
「アマーリエ・クレア・ヴィッセナを、知っているか」

歪んだ口元が、答えを語っていた。

「お前、か」
「あぁ、追手がかかったかな?――そう。ファルメ家エルドレーダの娘、アマーリエ・クレア・ヴィッセナ。それが私の名だ」
「長い名だな」

今度はマキナが目を見開く番だった。

「......え? 気にするとこ、そこ?」
「ダメか?」
「いや、もっと突っ込むところあるでしょ。なんで追われてるのか、とか」
「余はそなたに常識を期待することを初日でやめたが、そなたは余の常識を期待していたのか」
「いやしてないけど」
「即答」

奇妙な沈黙が落ちる。

「――禁を犯したは、余のせいか。ヴィッセル」
「......黒歴史の一部を覚えられているとは。残念だ、思い出さぬまま終わると思ったのに」
「ドジで泣いてばかりだった少年が、グラマラスな美少女になって、しかも瞳の色と性別まで変わろうとはおもっていなかった」
「こちとら生まれた時から女じゃい」
「男の名を使うな紛らわしい」

べーと舌を出すと、魔王が変顔をしたので吹き出してしまった。

「先程の答えだが。私は誰のためにも動かない。私は私の為だけに生きている」

マキナは笑った。

「私はただ、あなたのいない世界を生きたくなかっただけだ」



***



「ぶえっくしぇい」

マキナは物陰の隅でひとつくしゃみをした。母と父の世界を越えた喧嘩により第二星雲は大惨事、急いで地図を片手に第八星雲に飛び出したのだが、間違って人間界ではなくて、魔界に落ちてしまった。森ではなかったのは幸い、けれど人ならざる姿かたちの魔族の輪に入る勇気も出なくて、物陰に蹲っていた。

「あー、さむ......」
「うちに来るか?」

再び己の体を抱いた瞬間、上から降ってきた声に、マキナは文字通り飛び上がった。

「だっ、だだだだ、誰だ!」

降りてきたのは、同じくらいの年の少年だ。黒い髪に赤い瞳。くるりと巻かれた白い角。

「俺はアルヴィスだ。今日は極夜だから寒いぞ。外に居たら凍え死んでしまう」
「む」

それは、困る。

「うちに来ればいい。うちはとっても広いんだ」
「......じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん。お前、名前は?」
「マ――ヴィ。ヴィッセルだ」
「ヴィッセルか。よろしく頼む」

にこりと微笑んだアルヴィスは、次の瞬間背中から漆黒の羽を生やした。

「うわあ......かっこいい!」
「そうだろうそうだろう。俺はとっても格好いいのだ!」

どや顔をするアルヴィスに連れていかれたのは、とても大きな屋敷だった。しかも魔物とか呪文とかがある。大変怖い。

「アルヴィス」
「なんだヴィッセル」
「わた、俺、アルヴィスから離れない」
「あ、あああ、愛の告白か!?」
「はあ?」

通された部屋には書類が山盛りだった。

「......君、もしかして、幼く見える魔法とか」
「んなわけなかろう! 俺、あ、違った、余はな、魔王様なのだぞ!」
「へー」
「いや反応雑っ!」
「だってよくわかんないんだもん」

魔王ってあれだろうか。世界をわが手に、とか言ってガハガハ笑って勇者に倒されるやつだろうか。

「んなわきゃなかろう! 世界は平穏に守るし、勇者に倒されたりもせんわ!」
「あれ全部口から出てた」

アルヴィスはふん、と掛け声をかけて椅子に飛び乗った。

「余はな、偉いのだ。だから、頑張れるのだ」
「ふぅん」
「だから反応がざつっっっ!!!」
「あはは」

こうして、マキナと魔王・アルヴィスは出会った。
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