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第3話 マキナ、魔王とお出かけする
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「わー可愛い! 魔法ってすごいね!」
「はしゃぐな離れるな」
「ごめんごめん」
マキナの髪の上には、魔王と同じような角がついていた。魔王が魔法で生やしたのだ。魔力があるように見せかける魔法もかけてくれた魔王本人は、茶色の髪に瞳の地味な姿に大変身だ。
月が煌々と輝く、いい夜である。
「今更だが、夜に活動するばかりで大丈夫か。日の光を浴びていないが」
「んー、だいじょぶだいじょぶ。もともと夜型だし――ねぇ、あれおいしそう! 食べたい!」
「待て、落ち着け」
「安心して、お金はケイトリンさんにもらってるから!」
「何!?」
「だって、まおうーえー、マオはいきなり金貨とか出しそうだし。ほら、この通り、銅貨を入れてもらったんだよ」
誇らしげにマキナは財布の中身を魔王に見せる。咄嗟にマオと呼べたのも、マキナにしてはよくやった、と内心鼻高々だ。
「おっちゃん、串ふたつ!」
「あいよ! カップルで都見物かい?」
「あ、わかっちゃった? えへ、いい男でしょ」
「はは、ちげえねえ! 楽しみなよ!」
魔王に串焼きを渡しながら、マキナはもう一本の串焼きに噛り付く。
「おいしいよ、マオも食べなよ」
「......いつの間にカップルになったのだ」
「聞かれた時はノルのがベストだよ! ってことで今日はよろしくね、私の彼氏!」
「カレシ」
「恋人ってこと!」
「んぐえ」
「大丈夫マオ、のどに詰まった?」
「そなたが変なことを言うからだ」
「失敬な」
差し出された水を飲み、落ち着いたところで、魔王は言った。
「......アルヴィス」
「ふえ?」
「余の名前。魔王になるとき、捨てた名だ」
この名を知っているのは、数少ない魔王の側近だけだ。例外と言えるのは、幼い頃に一度だけ会った少年。不思議な瞳を持つ彼は、当時人の怨嗟に耐え切れずにいた魔王を救ってくれた。――元気だろうか。彼は。ヴィッセルという名前しか教えてくれなかった、不思議な少年は。
「マオという友人がいるのだろう」
魔王はマキナを見てぎょっとした。マキナは泣きそうな顔をしていた。けれどその顔の訳を問う前に、マキナはまた笑う。
「アルヴィスか! いい名前だね!」
「......ああ」
「じゃ、行きましょ、旦那さま!」
「待て、いつの間に昇格した」
「あははー」
大道芸を見て、屋台で買い食いして。変顔グランプリに出たマキナを見て笑ったり。
魔王にとって、玉座に座ってから一番と言えるほど、その夜は笑い転げた。
さてそろそろ夜も明けるから帰ろうか、という時だ。トイレと言って建物内に入っていったマキナを待っていた魔王は、声をかけられた。
「すまない、ちょっとお尋ねしたいのだが」
「なんだろうか」
魔王は、男の目に既視感を覚えた。複数の色が混じった瞳。マキナとどこか似ていた。髪の色は銀で、傍目にも美しい――が、魔力を殆ど感じない。
「この辺で、アマーリエ・クレア・ヴィッセナという女を見なかったか。金の髪に赤い瞳、中肉中背の女だ」
長い名前だな、と思いつつ、魔王は首を横に振る。
「いや、生憎と知らん名前だ」
「そうか。失礼した」
探し人だろうか。男は他にも声をかけながら雑踏に姿を消した。後ろ姿を目で追っていると、後ろから激突された。
「ばーん!」
「んぐえ」
「えへへ、びっくりした?」
「驚かせるな」
アルヴィスはマキナの瞳を見つめた。赤一色の瞳の中に、時折金色が見え隠れする。
「ん、なに? マキナに惚れちゃった?」
「いや。きれいだな、そなたの瞳」
「そう? ありがとう」
「......嬉しくなさそうだが」
「赤の瞳は、罪人の証だからね。私の目は、もう美しくはないんだ」
魔王は目を見開いた。
「あ、罪人と言っても、そんなに重い罪を犯した訳じゃないよ? 私は渡ってはいけない世界に渡ってしまったんだ。これはその咎......アルヴィスが気にするなら、出てくけど」
魔王は笑うマキナの手を取った。
「城に、帰るぞ」
マキナは目を見開き、嬉しそうに笑った。
「はしゃぐな離れるな」
「ごめんごめん」
マキナの髪の上には、魔王と同じような角がついていた。魔王が魔法で生やしたのだ。魔力があるように見せかける魔法もかけてくれた魔王本人は、茶色の髪に瞳の地味な姿に大変身だ。
月が煌々と輝く、いい夜である。
「今更だが、夜に活動するばかりで大丈夫か。日の光を浴びていないが」
「んー、だいじょぶだいじょぶ。もともと夜型だし――ねぇ、あれおいしそう! 食べたい!」
「待て、落ち着け」
「安心して、お金はケイトリンさんにもらってるから!」
「何!?」
「だって、まおうーえー、マオはいきなり金貨とか出しそうだし。ほら、この通り、銅貨を入れてもらったんだよ」
誇らしげにマキナは財布の中身を魔王に見せる。咄嗟にマオと呼べたのも、マキナにしてはよくやった、と内心鼻高々だ。
「おっちゃん、串ふたつ!」
「あいよ! カップルで都見物かい?」
「あ、わかっちゃった? えへ、いい男でしょ」
「はは、ちげえねえ! 楽しみなよ!」
魔王に串焼きを渡しながら、マキナはもう一本の串焼きに噛り付く。
「おいしいよ、マオも食べなよ」
「......いつの間にカップルになったのだ」
「聞かれた時はノルのがベストだよ! ってことで今日はよろしくね、私の彼氏!」
「カレシ」
「恋人ってこと!」
「んぐえ」
「大丈夫マオ、のどに詰まった?」
「そなたが変なことを言うからだ」
「失敬な」
差し出された水を飲み、落ち着いたところで、魔王は言った。
「......アルヴィス」
「ふえ?」
「余の名前。魔王になるとき、捨てた名だ」
この名を知っているのは、数少ない魔王の側近だけだ。例外と言えるのは、幼い頃に一度だけ会った少年。不思議な瞳を持つ彼は、当時人の怨嗟に耐え切れずにいた魔王を救ってくれた。――元気だろうか。彼は。ヴィッセルという名前しか教えてくれなかった、不思議な少年は。
「マオという友人がいるのだろう」
魔王はマキナを見てぎょっとした。マキナは泣きそうな顔をしていた。けれどその顔の訳を問う前に、マキナはまた笑う。
「アルヴィスか! いい名前だね!」
「......ああ」
「じゃ、行きましょ、旦那さま!」
「待て、いつの間に昇格した」
「あははー」
大道芸を見て、屋台で買い食いして。変顔グランプリに出たマキナを見て笑ったり。
魔王にとって、玉座に座ってから一番と言えるほど、その夜は笑い転げた。
さてそろそろ夜も明けるから帰ろうか、という時だ。トイレと言って建物内に入っていったマキナを待っていた魔王は、声をかけられた。
「すまない、ちょっとお尋ねしたいのだが」
「なんだろうか」
魔王は、男の目に既視感を覚えた。複数の色が混じった瞳。マキナとどこか似ていた。髪の色は銀で、傍目にも美しい――が、魔力を殆ど感じない。
「この辺で、アマーリエ・クレア・ヴィッセナという女を見なかったか。金の髪に赤い瞳、中肉中背の女だ」
長い名前だな、と思いつつ、魔王は首を横に振る。
「いや、生憎と知らん名前だ」
「そうか。失礼した」
探し人だろうか。男は他にも声をかけながら雑踏に姿を消した。後ろ姿を目で追っていると、後ろから激突された。
「ばーん!」
「んぐえ」
「えへへ、びっくりした?」
「驚かせるな」
アルヴィスはマキナの瞳を見つめた。赤一色の瞳の中に、時折金色が見え隠れする。
「ん、なに? マキナに惚れちゃった?」
「いや。きれいだな、そなたの瞳」
「そう? ありがとう」
「......嬉しくなさそうだが」
「赤の瞳は、罪人の証だからね。私の目は、もう美しくはないんだ」
魔王は目を見開いた。
「あ、罪人と言っても、そんなに重い罪を犯した訳じゃないよ? 私は渡ってはいけない世界に渡ってしまったんだ。これはその咎......アルヴィスが気にするなら、出てくけど」
魔王は笑うマキナの手を取った。
「城に、帰るぞ」
マキナは目を見開き、嬉しそうに笑った。
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