私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
59 / 60
番外編 新盆

妙に性に合ってるんだよね

しおりを挟む

 この世界にも、ブラック、またの名を社畜が存在することを知った、享年十六歳の元JKです。

 まぁ思い返してみたら、納得だわ。

 私が寝てる時以外はほぼ、ラキさんと一緒だった。

 現時点で、二十四時間労働の日もザラだからね。労基なんてないない。死んでるから肉体的疲れはないから平気だけど、気持ち的にね……

「新盆は一人で大丈夫だから、行って来い」

 だいぶん、砕けた話し方をしてくれるようになったラキさんが言ってくれた。

 先輩を差し置いて、後輩が休みを取ることに抵抗があると思った、ラキさんの配慮だね。四か月と少し一緒に行動したけど、ほんとラキさんって真面目で優しい。あまり表情筋が働いてないから、生前は冷たいって誤解されたと思う。話してみれば、すぐに温かい人だってわかるのに……なんか、勿体ない。

 そもそも、一緒に休みが取れるはずだったのに、予定外の仕事が入ってきたのが悪いのよ。

「そういうわけにはいかないわ。ちゃんと、仕事はしないとね。それに盆は4日あるんだから、ギリギリ間に合うわよ」

「たが……」

 ラキさんはとても不服そう。でも、強くは言えないんだよね。

 私たちがそんな会話をしていると、私の肩に乗っていた小さな魂が、私の回りをクルクルと回りだした。

「どこにも行かないから安心して。最後の日まで一緒にいるから」

 私がそう答えると、魂が一段と輝いた。可愛いな。私は魂を人差し指の腹で撫でてあげる。さらに、魂は輝いた。

 これが、ラキさんが強く言えない理由。

 この魂は生まれてこれなかった赤ちゃんなの。だから、人の形を取ることはできない。でも、四十九日間現世に留まるのは変わらないから、その間魂を保護する必要があるの。無垢な魂は餌にもなるし、下手したら、最強の化け物に変貌する可能性が高いからね。

 始めは違う人が保護してたんだけど、段々輝きが失われて、動きも鈍くなっていったの。理由を聞こうにも、言語を話せない魂だからね……ほとほと困っていた所に、私とラキさんが通り掛かったの。

 そしたら、その魂が急に動いて私の頭に乗ったのよ。で、喜んでた。感情は伝わるからね。

 それで、急遽、私とラキさんが、この魂の保護をすることになったの。

 資料によると、この魂の四十九日目は八月十五日だった。

 新盆と丸かぶりだよね。でも、こればっかりはしょうがないよね。この小さな魂はラキさんのことは嫌ってはないけど、好きじゃない。そう言えば、前任者も男だったよね。

 なにかあったのかもしれない。生まれてはいなかったとはいえ、感情は伝わるものだから。

「すまない、俺が不甲斐ないばかりに」

「構わないって。最悪、この子も一緒に新盆帰るのもありでは?」

 冗談半分に言って、ハタッて気付いたよ。

 そうだよ、その手があったよ!!

「さすがに、それは……」

 ラキさん渋ってる。

「どうせ相手には見えないし、端のほうで参加する分にはいいのでは? 元々、私余所者よそものだし」

 盆には、ご先祖様があの世から帰ってくるの。なので、私の大切な人たちのご先祖様も当然帰って来る。血の繋がらない私は、完全に余所者よそものだよね。

 それに、元々、長居はするつもりはなかったし。邪魔はしなくなかったから。

 元気な顔が見たいだけ。

 それさえ見れれば、安心だから。

「しょうがない。なら、着替えないと。さすがに、この衣装だと場が凍り付く」

「ですよね~」

 取り締まる側の登場は、悪いことをしていなくても、間違いなく宴会に水をさすよね。できれは来ないでほしいと、言われてもしかたないよ。大事な仕事だけど、嫌われてる仕事なんだよ。悲しいけどね。

 でも私は、この仕事が妙に性に合ってるだよね。

 小さな魂は嬉しそうに、私の頬をスリスリしてくる。慰めてくれてるのかな、ほんと、可愛い。

「君に見せてあげる。とっても綺麗で温かい景色を」

 生まれてこれなかった小さな魂。

 悲しくて、とても哀れな魂。

 だからこそ、幸せをその魂に焼き付けて欲しいの。

 長い旅路の前に――


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...