53 / 60
残り二日
しおりを挟む強面なのに、超不機嫌なせいか、さらに険悪なものになってるよ、蓮君。纏っている空気も超ピリピリしてる……目が合った子供が急に泣き出すのってよっぽどだよ。それで、さらに落ち込んでるし……そういう所、可愛いんだよね。
蓮君の不機嫌な理由、それは私の家が急に売り出されて、私がいなくなったこと。
ちなみに、連絡も一切取れていない。
売り出された時、私はもう幽霊になってたし。一応、スマホは持ってはいるんだけど、何故か操作できないんだよ。ほんと、持ってるだけ。それでも、無理に操作しようとしたら、クラッと目眩がしたの。精神エネルギーをやたら使うかららしい。何度も何度も、ラインと電話来てるのに……既読無視って最低じゃん。
スマホを見て落ち込んでいる蓮君を見ていると、私は「ここにいるよ」って、何度も叫びたくなる。抱き付きたくなる。
だけど、それはできない。君は私が死んでいることを知らないから――
あれ? 電車に乗ってどこに行くのかな? 反対方向だよね。駅前で待ち合わせ、誰と? 誰にライン送ってるの?
覗き込んだけど、確認する前に画面が待ち受けになった。
『えっ……これ、映画館の』
思わず、声に出ちゃった。蓮君には届かない。
カップルシートで一緒に撮った写真が待ち受けになっていたの。
どうしても、見せてくれなかったんだよね。「ブレた」とか言って。ちゃんと撮れてるじゃない。そっかぁ……私、こんな顔してたんだ。モロバレだね。私は顔を赤らめながら、すっごく幸せそうに笑ってる。蓮君もそう。照れて目付きがさらに悪くなってるけど、それでも赤い顔をして楽しそうに笑ってる。
この一枚で、蓮君の気持ちが痛いほどひしひしと伝わって来るよ。
いつも、大事に大事にしてくれた。
私のことを好きになってくれた。
私の一方的な想いじゃなかった。
嬉しいよ、嬉しいけど悲しい。胸の奥が、心が痛くて痛くて悲鳴を上げる。
その時、ふと……蓮君が私の方を見た。でも視線は私を通り越して、私の後ろの誰かに向いている。
「「お待たせしました、北林さん」」
よく知っている声が聞こえた。反射的に振り返ると、そこにいたのは、亮君と立花ちゃんだった。
ええ~!! いつの間に、ライン交換したの!?
驚いている私を無視して、サクサクと進んで行く。
「お前ら、春休み早すぎだろ、全く……」
「私立なんだから、仕方ないですよ」
文句を言う蓮君に、亮君が苦笑しながら答えた。立花ちゃんは亮君の隣で黙って立っている。
「時間が惜しい。早速だが、聞かせてもらうぞ、三奈は何処にいる?」
蓮君の質問に、私は完全に固まった。身体だけでなく思考も。
「その前に付き合ってくれませんか?」
思ってもいなかった答えが聞こえてきた。私は亮君に視線を向ける。
「あぁ!? ふざけるな!!」
亮君の言葉に、瞬時にキレ掛ける蓮君。
「いいんですか? 付き合ってくれないと、教えてあげませんよ」
亮君、超メンタル強い。
蓮君はチッと舌打ちすると、渋々付き合うことにしたようだ。
「何処に行くんだ?」
不機嫌な様子を隠すことなく訊いてくる。
「ホームセンターです。どうしても買いたいものがあるので」
「はぁ!?」
納得がいかなさそうだったけど、蓮君は我慢し亮君と立花ちゃんの後ろを歩く。私はドキドキしながら、蓮君の隣にいた。
39
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる