私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
51 / 60

残り三日

しおりを挟む

 突風が吹いたあと、自分の身体に違和感を感じて見てみたら、着ている服ごと全身透けていた。思わず、ポツリと呟いたよ。

「……完全に、幽霊になっちゃったんだね」と。

 いや、そもそも私死んでるんだけどね。

 それにしても、徐々にじゃなく、いきなり来たわね。まぁ想像はしていたし、ある程度覚悟もしていたから、さほど、取り乱さないでいられるんだけど……

 取り乱しているのは、亮君と立花ちゃんたち。

 幽霊になってしまった私は、亮君と立花ちゃんの目には映っていないし、声も届かない。そのせいで、双子ちゃんたちはパニックを起こしてる。あ……とうとう、立花ちゃんが私に文句を言いながら泣き出したよ。涙を拭いてあげたいけど、頬を通り抜けてしまって無理だった。

 なのに、ココアの缶とスマホは持ててるんだよね。不思議だと思わない? これも一種のポルターガイストかな? 取り敢えず、私はここにいるよって缶を持った手で振ってみたけど、双子ちゃんたち気付かない。どうやら、缶も見えなくなってるみたいね。ほんと、不思議だよね。

「そもそも、幽霊ですよ」

 色んな確認をしていると、ラキさんがいつの間にか私の隣に立っていた。

「あれ? なんか、ラキさんの声がクリアに聞こえるよ」

 今までは、何かのフィルター越しのような聞こえ方だった。放送を聞いているような感じが近いかな。それがなくなった気がする。

「同じ次元で話してますからね」

「そっかぁ~初めて会った時はもこんな感じだったね」

 懐かしい。いつしか、フィルター越しの方に慣れてたよ。クスリと笑う私に、ラキさんが神妙な顔をして訊いてきた。

「……それで、どうしますか?」

 それね……訊かれると思った。

 あと残り三日か――

 それをどう過ごすか、ラキさんは確認しておきたいのね。決まってるのは、最後の日だけだから。でもその確認をする前に、少し懸念に思っていたことを改めて訊いておこうと思ったの。

「そうね……これは確認だけど、四十九日まではここに留まれるんだよね」

 途中で強制送還は絶対嫌だからね。

「大丈夫ですよ。四十九日の権利は絶対ですから、何人なんびとも侵すことはできません」

 ラキさんに胸張って言われたよ。

「それ、どこかの政治家や評論家の台詞だよね……そっかぁ~残れるんだね。なら、蓮君と立木さん家を行き来したいかな」

 そう答えると、ラキさんに驚かれたよ。

「二日とも、北林君の所に行くとばかり考えていました」

 そうだよね、今までの行動から見てそれが自然だよね。会えて離れていたのは、墓穴を掘らないためだから。その心配がなくなったら、飛んで行くと思うわね。

「そのつもりだったんだけど、突然目の前で姿を消しちゃったからな、立木さん家が気になるのよ。なんにもできないけど」

「そうですか……」

 そう答えるラキさんの目は優しかった。

「で、訊きたいんだけど、やっぱり移動って電車なの?」

 特に私の時間は有限なんだから、スムーズに行き来したいんだよね。

「その必要はありませんよ。私が運びましょう」

 私の意図に気付いたラキさんは、小さく溜め息を吐くと答えた。

「えっ!? ほんと、ラッキー!! ありがとう、ラキさん」

 言ってみるもんね。私はラキさんに飛び付いて、ギューッと抱き締めた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイスター

イヲイ
青春
生れつき無表情で、感情が極端に乏しい光。そんな彼女は、ある一人の少女と一人の少年によって変わってゆく。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

処理中です...