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届けばいいなって願う
しおりを挟む昼前に家に着いた。幸いにも、まだ鍵は変えられてはなかったようで、ホッと胸を撫で下ろしたよ。骨壺を投げ捨てるくらい私のことが憎いのだから、四十九日待たずに、とっととこの家を売りに出すと考えたの。
正解だったみたいね。
鍵を開け中に入ろうとしたら、人の気配と声がしたの。慌てて私たちは鍵を抜き、身を隠した。見付かったら後々面倒くさいことになるからね。
どうやら、声の主は不動屋さんみたい。漏れ聞こえる内容でわかった。不動屋さんは庭で立ち止まり、電話で誰かと話し込んでいる。話している相手は、たぶんお母さんよね。すぐに売りに出すと、不動屋さん言ってるし、間違いないわ。
やっぱりね……
特にショックは感じてないよ。痩せ我慢もしていないよ。
取り敢えず、不動屋さんが帰るのを待たないと持ち帰れないよね。なので、近くにあるファミレスで、私たちは仲良く、少し早いご飯を食べることにした。
デザートまで堪能した私たちが戻って来ると、不動屋さんは帰ったあとだった。
私は立花ちゃんと亮君を庭で待たせてる間に、パパッと荷物を持参した紙袋に入れ持って来る。
本当に大事なものは、数点しかないの。そのほとんどが、蓮君と遊びに行った時に出た思い出の品ばかり。例えば、水族館のチケットや映画の半券と、ゲーセンで取ったぬいぐるみとか、あとはココアの缶とかね。お母さんにとったら、それらは全部ゴミになるわね。
でも私にとって、それは全部宝物。
だから、他の人の手を借りずに、私自身の手で処分したかったの。
立木さんの家に戻った私たちは、家主に許可をもらい、駐車スペースに空の一斗缶を置く。その中に、丸めた新聞紙と、ココア以外の思い出の品々を全部入れた。
「……本当に焼くの?」
立花ちゃんが尋ねてくる。
「せめて、ぬいぐるみとかは残しても構わないんじゃ」
立花ちゃんと亮君は反対してきた。
たぶん、私がいなくなった後も大事にしてくれると思う。だからじゃないよ。双子ちゃんに会わなくても、私は最初から燃やそうと決めていたの。
「中途半端に残すわけにはいかないでしょ」
私の遺骨は散骨してもらうようにお願いしている。それだけでも、かなり立木一家に甘えているのに、これ以上は甘えられないよ……それに、元々燃やす気だったし、今は赤の他人の遺物を置いとくのも、正直どうかと思うからね。でもそれを口にすると、二人は絶対落ち込むから言わない。
「「だけど……」」
ほんと、立花ちゃんと亮君は仲がいいよね。たまに、きれいにハモるのいいな。なんか、幸せな気分になるよ。
私は双子ちゃんを見て微笑む。
「これは私のためだよ。昔からよく言うじゃない、燃やせばあっちの世界に届けられるって。ほら、船賃の六文銭と同じだよ」
実際、届くかどうかなんてわかんないけどね。立花ちゃんと亮君を悲しませないための口実だったとしても、心の片隅では、届けばいいなって願うの。
大切な宝物であり、私の生きた証だから――
私はチャッカマンで新聞紙に火を点ける。火は瞬く間に引火し燃えていく。
同時に、白い煙が天に向かって登っていった。私たちは黙って、火が消えるまで、それをじっと眺めていた。
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