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私はね、欲張りなんだよ
しおりを挟む断られるのを覚悟して、私は口を開く。
「この奇跡が続くのは、四十九日の間だけです。その奇跡も、もうすぐ終わります。そしたら、私は逝かなくてはいけません。だから、厚かましいお願いだと思うんですが、私が逝ったあと、私の遺骨を海に散骨してほしいんです」
頼めるとしたら、立木さんしかいない。
お母さんは論外だしね。せめて、永代供養ぐらいしてもらえるかなって考えていたから、なんの対処もしていなかった。正直甘かったわ。
立木さんが絡んでいるから、お母さんはあんな行動に出たかもしれないけど、それを抜きにしても、あの葬式をした人の一人だからね……そう考えたら、お父さんにも頼めないわ。っていうか、娘の四十九日がいつまでか知らないでしょ。そもそも、一度もこの家に来てないし。手も合わせてもいない。たぶん、お母さんがしてくれるから大丈夫とか思っているかもね。どちらにせよ、私の存在ごと忘れてる可能性が大きいわ。
厳しいけど、それが現実なんだよね……
「……永代供養しなくていいのかい?」
少し間が空いたあと、立木さんが確認してきた。私は首を軽く横に振り答える。
「お年玉や難病の手当とかで、多少の貯金はあるけど、さすがに永代供養し続けるだけの預金はないから」
本当は、ちゃんと供養して欲しいよ。だけど、それは言えない。それに、いやいやお金だけ出されて、文句言われるのも嫌だからね。そういう気持ちって、ダイレクトに伝わるから、特にね……
なら、優しい人たちに見送られる方が断然マシだよ。
「そうか……なら、三奈さんが旅立ったあと、責任もって僕が預かろう」
「宜しくお願いします」
私は立木家の皆に頭を下げた。
これで、私の憂いは一つ消えたよ。お母さんの件は大人の問題。私はこれ以上関わるつもりはないよ。勿論、夢枕に立つ気も失せたよ。そんなことよりも、今はこの時間を大切にしていたいからね。
家族ってものを楽しみたいの。
輪の中に入ろうとは思わないよ。ただ、温かくて優しくて、心地よい立木家の皆の傍で、家族体験をしたいの。疑似家族体験っていうのかな……家族の一員であった時の自分を妄想していたいのよ。不毛かな? それとも、虚しい? 悲しく映るのかな? でも、幸せなんだよね、私は。
だけど、このままでは逝けないよね。
遺骨の件は、立木さんなら安心して任せられる。家はどうでもいい。残りは……蓮君の件だよね。
会える可能性はまだ少しあるけど、遊びに行く約束はもう叶わないだろう。
このまま、何も言わずに消える――
それが一番、私の望む結果に繋がると思う。
蓮君にとって、私は一つの通過点でいてほしいの。これは、亮君と立花ちゃんにも言えるんだけどね。私という存在に囚われてほしくはないかな。
覚えていて欲しいのなら、囚われるように持って行くのが正解だよね。事実を話して告白でもする? それとも、告白した流れで最後まで行っちゃう。そしたら、ずっとじゃなくても、私のことを覚えてくれるよね。心に刻み込まれるから。
でも――
そこにいる私は、綺麗なままの姿なの?
記憶って曖昧だよ。その時の気持ちや思い込みで、簡単に変貌しちゃう。最悪、最低な女として覚えられるかもね。まぁ、最低な女なんだけど。
私はね、すっごく欲張りで、身勝手な女なの。
だから望むのは、綺麗なままで残ること。そのまま忘れ去られてもいい。不意に思い出してくれたらいいの。楽しくて、幸せな気持ちと、少しの悲しさを――
そしたら、思い出の中の私は一番になれるでしょ。
ほらやっばり、私って欲張りだよね。
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