私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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こういう親子関係憧れるよね

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 立木さんが我が家を訪れたのは、八時を少しすぎた頃だった。これでも早い方なんだって。

 双子ちゃんたちから話を聞いているとはいえ、死者である私が出迎えていいか一瞬悩んだけど、出迎えることにした。見えるか見えないかは、あまり気にしてなかったよ。正直、どっちでもよかった。通訳が大変になるかなってぐらいしか、心配していなかったの。

 私の顔を見た瞬間、立木さんは身体を強張らせている。だよね~やっばり、彼は私のお葬式に参列してくれた人だった。

「お手数を掛けてしまいすみません。どうぞ、上がってください、立木さん」

 私の声に立木さんの強張りは解け、ちょっと焦りながら靴を脱いで上がってきた。「情けねー」とぼやきながら、亮君が後ろで溜め息を吐いている。

 いやいや、悲鳴を上げないだけ、肝が座ってると思うけどね。並大抵の包容力じゃないよ。お母さんが惚れたのわかるわ~

「お邪魔します」

「どうぞ、あまり片付いてませんが。立花ちゃんが夕食用意してくれたので、一緒に食べませんか?」

「よろしいんですか?」

「全然、構いません。こちらから、お願いしたいくらいです」

 そう言いながら、私は立木さんをリビングに案内した。

 テーブルに並んでいる料理、全部立花ちゃんが作ってくれたものばかり。私に料理スキルは皆無だからね。まともに包丁握れないし。包丁持つと、皆に怖がられて禁止されちゃった。

「では、失礼します」

 微笑みながら、立木さんは腰を下ろした。親子だね。笑い方、双子ちゃんとそっくり。

 立木さんと私が腰を下ろした時、立花ちゃんがタイミングよくお茶が入った湯呑みをテーブルに置く。

「……立木さん、今回はわざわざ来て頂き、本当にすみません。それと、亮君と立花ちゃんを私の我儘に付き合わせてしまい、本当にすみませんでした」

 そもそも、私は人と話すことが苦手。特に、大人には。どう切り出したらいいかわかんないけど、それでも、きちんと自分の口で言うべきだと思ったの。

 亮君と立花ちゃんが何か言おうとしていたのを、立木さんは視線で止めると、私に改めて向き合う。

「正直、今この場に来るまで、僕は半身半疑でした。あまりにも、子供たちの言うことが滑稽無形で。でも、君に会って、子供たちが言っていることが真実だと知ることができました。君は我儘だと言ったが、気にしなくていい。中学生にもなった子供たちが、自分で決めて行動しているのだから」

「信じてなかったのかよ……」

 ぽつりと亮君がぼやいている。

「いや、普通無理だろ」

 ごもっともです。なのに、自由にさせてくれた立木さんって、やっぱり、凄い人なんだと思う。信頼関係が築けてるからできる放任主義ってやつかな。なんか、こういう親子関係って憧れるわ。うん、これはモテるね。見てて楽しなる。それが顔に出てたのかな……

「三奈さん、なんか、楽しそう」

 立花ちゃんがテーブルにおかずを並べながら言う。

「うん、楽しい。良い家族だね、ほんと、羨ましい」

「「三奈さん……」」

 あっ、余計なこと言っちゃったね。慌てて取り繕う。

「……そんな顔しないで、ただの感想だから。皆と一緒にご飯食べるだけで、私は幸せだよ。あっ、食べる前に、動画と写真送りますね。亮君のスマホに送った方がいいですか?」

「いや……直接、僕に」

 立木さんはスマホを取り出す。そのままライン交換した。

「ですよね。あんな映像、情操教育に悪影響でますよね」

 大事な子供のスマホに残したくはないわ。

「……いいんですか? 僕は君のお母さんと完全に決別しようとしているんですよ」

 これは、立木さんなりの最終確認かな。

「構いません。妨害するのなら、骨壺の件、そもそも亮君と立花ちゃんに話していません」

「何故か訊いてもいいかな?」

 私は小さく頷くと話し出した。

「二人から聞いたかもしれませんが、実は私、あの葬式の場にいたんです。一番後ろで、座って見てました。最初から最後まで。誰一人泣きもせず、弔う意志もなく、ただ形だけの葬式を……」

「……あれは、葬式じゃない」

 悲痛な表情を浮かべる立木さんに、私は微笑む。あまりにも不自然だと思ったのかな、立木さんの表情に訝しげなものが混ざる。

「そうですね、あれは葬式じゃなかったですね。花も最低限、遺影もなく、小さな祭壇とあとはお棺だけ。湯かんの儀も省いてました。だから、すっごい不細工でしたね、私。でも……一人だけ、私を心から弔ってくれる人がいました。私が会ったことのない人。立木さんです。おかげで、私は人であり続ける事ができました。今の奇跡を体感できるのも、立木さんのおかげです。その貴方が決めたことです。私に異議はありません。それに、私が立木さんの立場なら同じ判断をしたと思います。実の子を捨ててる親に、大事な自分の子を託せることはできません。なので、このデーターを自由に使ってください」

「……わかった、大事に使わせてもらうよ」

 ぎこちないけど、立木さんも笑顔を返してくれた。亮君と立花ちゃんはまた泣きそうになってる。

「はい。あと……立木さんに頼みたいことがあるんです。他に頼める人がいなくて」

「なんだい?」

 その声が、あまりにも優しくて温かかったから、私は悩みながらも願いを口にすることができたの。



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