私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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久し振りに、ラキさんに怒られました

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 日曜日の夕方に、亮君と立花ちゃんが一旦家に帰った。さすがに、この家からの登校は駄目だからね。お父さんの好意にどっぷり甘えてるけど、ちゃんと節度は守らないといけないと思うから。

 久しぶりに、私以外誰もいないリビング。ちょっと寂しいと感じてしまう。前は一人で平気だったのに、すっごい変わりようだよね。自分のことなのに、苦笑が漏れる。

 そうそう、蓮君はまだ熱が引かないの。インフルじゃなかったけど、扁桃腺が真っ赤に腫れてるんだって。声が全く出ないって、ラインがきたよ。お見舞いに行こうと思ってラインしたら、速攻で断られた。身体が弱いのに移ったら困るっていう理由でね。ほんと、私って大事にされているよね。

 でも正直、心のどこかでホッとしている自分がいるの。マジ、最低だよね……こういう自分が心底嫌になるわ。でも心配だから、亮君にお願いしようかなって思ってる。女子中学生を行かせるわけにはいかないからね。

 でもその前に、問題はお母さんのことだよね。杞憂きゆうで終わってくれればいいんだけど。そんなことを考えていると、ラキさんが険しい表情をして、私を見ているのに気付いた。

「ラキさん、どうかしたの?」

『どうするつもりですか? 本気で母親の邪魔をしようと考えているのですか?』

 ラキさん自身、判子を取りに来たお母さんの態度に腹が立っていたはず。だからといって、これとそれは話が違う。あまり、褒められた行為じゃないもの。ていうか、やったらいけないことなんだよね。

「心は読めないはずなのに、ずばり的確に要点を突いてくるなんて、ラキさん、やっぱりとても有能なんだね」

『ちゃかしても、答えてもらいます』

 こうなったラキさんは無双だ。

「……わかってるわよ。やったらいけない行為だって」

『わかっていて邪魔をするつもりだと――』

 ラキさん怖い。本気で怒ってる。それだけ、私を心配してくれてるんだってわかってはいるけど……正直、心がモヤモヤする。

「邪魔をするって決めても、実際、どうしたらいいかわからないよ。お母さんは私の存在を感じることもできないし、見えもしないからね。それに、そもそも、私はお母さんが今どこで働いているのか、住んでいるのかも知らないのよ」

 血を分けた親子なのに、情けない話よね。

『知っていたら、邪魔をするのですね』

「……ラキさんに嘘は吐けないから、正直に言うけど、知っていたら警告くらいはしてたかな、夢の中とかで。まぁでも、居場所を知らないから無理だけど」

 枕元に立てないからね。

『三奈様の気持ちは理解できますが、死者が生者に何かしら悪意を持って行動することはタブーです』

 ラキさんが私を思って、強い口調で言ってくれてるってわかっているから、渋々でも頷くよ。

「わかってるって……」

 同じ言葉を何度も繰り返す。

『因みに、この家を売れなくすることもタブーですから、覚えておいてください』

 えっ!? マジ!? 先手打たれたわ……

 それ、考えていたんだよね。脅かすだけなら私でもできそうかなって。とはいえ、もしやれば、私のお父さんにも迷惑が掛かるけど。

「わかった、しない。でも、しない代わりに、亮君や立花ちゃんに言うのはいいよね」

 双子ちゃんを通して、お父さんに伝わればいい。今も大概たいがい似たことしてるし。

『全く……それは、ぎりぎりグレーですね。但し、嘘を織り交ぜてはいけません。誇張もです。あった事だけなら、大丈夫でしょう』

 嘘や誇張は悪意と取られるからだね。

「……気を付ける」

 まぁそれもこれも、お母さんが双子ちゃんのお父さんを諦めてくれればいい話なんだけど。こればっかりはね~

 私は別にお母さんが不幸になればいいなんて考えていないの。これ以上、私の大切な人たちに関わらないで欲しいだけ。ただそれだけなの。



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