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出会ったことに、心から感謝
しおりを挟む「……そっかぁ~葬式の時の、あれを見られてたんだね。なら、別れを切り出されても仕方ないわ」
さすがに、あれはない。人としてどうかしてると思う。情とかお金とか、全て削ぎ落とした式だったからね。娘なら尚更庇えないわ。
「そんなに酷かったの……? お父さん、言葉濁してて、詳しく教えてくれなかったから」
でしょうね。普通の神経なら言えないわね。私がお父さんの立場でも、同じ判断したよ。絶対、双子ちゃんに悪影響出そうだから。今は違っていても、以前はそれなりに慕ってたみたいだし。
立花ちゃんが泣きそうな表情で、私を見て俯く。亮君も心痛な表情で俯き呟いた。
「…………三奈さんは見てたんだ」
やっぱり、気になる所はそこね。
「見てたっていうより、参加してたわね。一番後ろで座ってたわ。あの時は、まだ自分の身に奇跡が起きてなかったから、まだ誰にも見えなかったけどね……あの男性が、亮君と立花ちゃんのお父さんなのね」
形だけ模した葬式の中で、唯一、私の死を悲しんでくれた男性がいた。会ったことがなかったから、私は不思議に思って観察していたの。よく見たら、二人に似てるわね。
「「……三奈さん」」
「お父さんに、ありがとうって伝えてくれる。私の死を悼んでくれて嬉しかったって。おかげで、道を踏み外さずにすんだよ。ほんとは、私の口から直接言うべきなんだけど……ちょっとね……」
死者からの電話って、ちょっとしたホラーだからね。
「わかった……」
「ありがとう、亮君」
ここで、その話は終わりだと思っていたら、立花ちゃんが躊躇いながら訊いてきた。
「……三奈さん、道を踏み外さずってどういうこと?」
立花ちゃん、それ訊きますか~まぁ、今更だけど。
一応、ラキさんの方に視線を向けると頷いたので、さわりだけ話すことにした。
「ラキさんに会って、奇跡の話は聞いたよね」
私の問いに、亮君と立花ちゃんは頷く。
「簡単に言えば、成仏できなくて、自分の自我も失って、佇むだけの存在にならなくてよかったって話かな」
ヘドロの話は止めて、そう告げると、立花ちゃんが抱きついてきた。温かいな……
ほんと、ヘドロコースに逝かなくてよかった……
たぶん、あの男性がいなかったら、私はヘドロコースに進路を再度変えてたよ。ラキさんにやりたいことを訊かれて答えた時は、ヘドロコースを回避できてた。だけど、奇跡が施行されるまでの間、一番危うい状態の中、自分の葬式を一番後ろで見ていたら、私の心は前と同じように麻痺していったからね……危なかったわ。精神体だったからかな、もろに、ダメージ食らったからね。
それにしても、この子たちに会えて、本当に私は幸せ者だよ。生きているうちじゃなかったことは残念だけど、出会えたことに心から感謝だね。引き合わせてくれたお父さんにも、感謝の気持ちでいっぱいだよ。
私は感謝の気持ちを込めて、立花ちゃんと亮君の頭をよしよしと撫でた。
お母さんと別れるつもりって言ってたけど、もしかしたら、そう簡単にいかないかも。お母さん、この家売るつもりだし、お父さんと分けるとはいえかなりの額だよね。それを持って復縁を迫るかもしれない。
この家に来た時のお母さんの様子を見たら、ふと、そんな考えが頭を過った。
もしそうなら、私はとことん邪魔をしよう。お母さんの幸せよりも、今はこの子たちの幸せの方が大事だから。それに、亮君と立花ちゃんのお父さんは、私の大恩人だからね。
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