上 下
34 / 60

キャンセルされた最後のデート

しおりを挟む

 蓮君と会うのは、デートはこれを最後にしよう――

 映画館でカップルシートに座ったりしたけど、引っ付いて写真を撮ったりもしたけど、はっきりと蓮君から告白されてもいないし、私も告白してもないから、一般に言うデートっていうのは少し違うかもしれない。やってる内容はちまたのデートと一緒でもね。

 だけど私は、デートだと思っていたし、そうあってほしいと願っていた。そのつもりで、蓮君と会っていた。自分の願いのためにね。ほんと、自分勝手で酷い女だよね。

 そんな私が、さらに自分勝手なことをしようとしている。自分の都合で最後にしようと決めた。

 もう、会わないと決めたの――

 蓮君の気持ちを無視して一方的に決めたのに、胸がギザギザのナイフでルえぐられたように痛かった。痛くて痛くて息もできない。血も止まらない。傷口を塞ぐ治療キットなんて持ってない。あっても使わない。タラタラと血を流しながら、それでも、そうするべきだと私は考え決めたの。

 そしてこの痛みは、私が背負うべきものであると思っている。

 この決断が正しいなんてわからないし、そもそも、正解なんてないんだと思う。もし正解を求めるのなら、切符売り場で会った時、蓮君の手を取るべきじゃなかった。それだけは、正しいと言えるのかな。

 色んな人がよく言っているけど、人生ってほんと、選択の連続だよね。一つとして、同じ道なんてない。

 個体が違うように、似た道を進んだとしても、それがレールに引かれたものだったとしても、全く同じなんてことはないんだよ。それが、今になってよくわかるよ。

 私だけじゃなく、皆、最終的には自己責任で選択して進んで行くけど、本当の意味で自己責任だと思っている人は少ないんだろうな。特に、私や双子ちゃん、そして蓮君の世代はそうだと思う。何か問題が起これば、親が弁護してくれるし、友だちも共感しフォローしてくれる。逃げ込める場所がある。それは、とても素晴らしいことだよ。

 だからといって、傷付けていい理由にはならないけどね。

 ならせめて……私の大切な人たちの傷が浅いようにしようと考えたの。そしたら、この選択肢しか思い浮かばなかった。

 まぁそれに、ここで理由をつけて離れないと、私がズルズルと蓮君に依存してしまいそうな気がしたしね。今も大概たいがいなのに、これ以上は、さすがにヤバイよ。それに、蓮君の前で消えるなんて醜態さらしたくはないし。

 最悪離れられなくなったら、ヘドロコース行きになるのが目に見えてるしね……直接向かうか、回り道して向かうかの差だけ。だってそうでしょ。誰の目にも映らず、大切な人が老いていき、やがて死んでも、現世に留まり続けないといけない。それって、地獄だよね。そして耐えきれなくて、全てを諦めてヘドロ行き。

 正直、今は、できればヘドロコースは回避したいの。昔より、かなり人間らしくなったよね。

 そう決めた矢先に、蓮君から今日は遊べなくなったとラインが届いた。

〈わるい、今日遊べなくなった。熱が下がらない〉

 こんなこと初めてだった。タイミングの悪さより蓮君の体調が心配で、すぐに返信する。

〈大丈夫!? 熱高いの!?〉

〈八度越えた。取り敢えず、今から病院に行く〉

〈わかった。ゆっくり休んでね〉

 心配だな。もうすぐ四月なのに、昨日の夕方から急に冷え込んだからね、風邪でも引いたのかな? インフルじゃなかったらいいけど。インフルじゃなくても、復活するには一週間は掛かるよね……微妙だな。

 会わないと決めたばっかりなのに、会えるかどうか、自然に考えている。それに気付いて、私は苦笑した。そして、ポツリと呟く。

「意思弱っ……ほんと、世の中上手くいかないことばかりね……」

 蓮君が来れないのなら、どうしようかな? 

 このまま日向ぼっこもいいけど、まずは、ストーカーしている亮君と立花ちゃんを、手招きしてから考えることにしようかな。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

処理中です...