私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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大事なことなのに忘れてたよ

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 亮君と立花ちゃんは、あれからかなりの頻度で私の家に遊びに来ている。泊まり掛けの時もあるかな。ましてや、今は中学生。当然、学校があるよね。となると、必然的にブッキングするわけで……

 双子ちゃんたちと夕食の買い物をして帰ったら、玄関前に蓮君が立っていた。そして私たちを見た途端目が座り、発した第一声がこれ。

「また、遊びに来てたのか? ガキども」

 蓮君、すっごい低い声だよ。表情も険しくて口がさらに悪くなってる。

 まぁ、二人のお出掛けがここ一週間、間接的に邪魔されてるからね……さすがの蓮君も、超不機嫌モードに突入してしまったみたい。今も、双子ちゃんたちと一触即発状態だよ。

 今の蓮君に一歩も引かない亮君と立花ちゃんって、メンタル強すぎでしょ。

「俺は、貴方に会いに来たわけではありません。三奈さんに会いに来たんです」

「そうです。私たち三奈さんに会いに来たんです」

 言い返せてる双子ちゃんたち凄っ。大抵の人なら、蓮君の迫力に押されて何も言い返せないのに。

「だから、何だ? 何回、俺たちの邪魔をする気だ? シスコンのクソガキが」

「シスコン? 俺は姉を大事に想っているだけですが。それに、人聞きの悪いこと言わないでくれますか? 今日は約束してなかったですよね。なら、邪魔をしているのは北林さんの方でしょ」

 ちょっと感動したよ。はっきりと姉って言ってくれて、すっごく嬉しい。

 一向に怯まない亮君の台詞に、蓮君は私に視線を向ける。亮君の言葉に喜んでいる私を見る、蓮君の目が怖い。

 あ~言いたいことわかるよ。と~ってもわかる。「何故、予定を話した」って言いたいんだよね。だって訊いてきた時は、こんなに頻繁に来るなんて思ってもいなかったの!! 不可抗力だよ、不可抗力。

 取り敢えずそれは横に置いといて、負ける劣らず、亮君の声も低いわね。年齢からすればかな。まだ中学生。少し、声変わりしてるかなって程度よね。なので、蓮君のような迫力は出せないけど、そこそこあるよね。お姉さん、少し心配。

 ついでに、立花ちゃんもほんの少し身体を竦めながらも、震えることなく二人を見ている。私もね。

「……まぁ確かに、今日は会う約束してなかったかな」

 ポツリと呟いてしまったのが悪かった。

「約束してないと、会ったらいけないのか?」

 蓮君の矛先が、完全に私に向いたよ。

「いや、そういうわけじゃないけど……でも、約束はしてなかったわけだし。先に予定を入れてきたのは、亮君と立花ちゃんたちだからね……」

 言葉を濁した私を蓮君は許してくれなかった。

「つまり」

 鋭い目で見下ろしながら追求してくるよ~緩める気なし!!

「……今日は、双子ちゃんたちと遊ぼうかな」

 悪いことしてないのに、蓮君を真っ直ぐ見れない。自然と目が泳いでしまう。そんな私を見る蓮君の視線が、今もグサグサっと突き刺し続けている。

 明日は土曜日で、蓮君と遊びに行く約束してたから、今日はいいかなと思っただけなのに。なんやかんやいっても、亮君や立花ちゃんが来てくれるの嬉しいんだよね。

「……そうか、わかった」

「えっ」

 とても冷たい声に、私は吃驚して蓮君に視線を合わせた。重なった視線。その冷たさに、私は息を飲む。

「じゃあ、明日な」

 さっきの声が嘘のような普通の声で蓮君は言うと、混乱する私の頭と頬を撫でた。そのまま踵を返して歩き出す。

「……三奈さん?」

 固まる私を心配して、立花ちゃんが顔を覗いてくる。

「立花ちゃん、これ。先に入ってて」

 私は家の鍵を立花ちゃんに渡すと、蓮君のあとを追い掛けた。

 そうしないと、駄目になりそうで――

「待って、蓮君!!」

 あともう少し、私の声が聞こえているのに、蓮君は振り返ってはくれない。曲がり角を曲がり、蓮君の姿が見えなくなる。自然と私の足が止まった。

 その時だった。

 急に胸が熱くなった。熱さは息苦しさを生み、私は立ち止まり膝を付く。冷や汗が止まらない。遠くで、亮君と立花ちゃんの声がした。

 途切れそうになる意識の中で、亮君と立花ちゃん、そしてラキさんの姿を見た。

 ラキさん、規定違反じゃないの? そう思った時、唐突に理解したの。

「……そっか~もうすぐなんだね」

 大事なことなのに忘れてたよ。もう三月の半ばすぎてたのに……楽しすぎたせいね。ほんと馬鹿だよね、私。なんか、笑ってしまう。苦しいのに。




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