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君がいてくれたから見れた世界

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「なるほどな……で、そいつらは、新しくできた姉を心配して、またストーカーしてるってわけか」

 呆れながらも、そう言う蓮君の目は優しくて柔らかい。ほんと、さらに惚れさせてどうするのよ。人たらしなんだから。

「……そうみたい。姉って思ってくれてるのかわかんないけど、心配はしてくれているみたいね。誰にも相談せずに、わざわざ訪ねてくるなんて、勇気がある子たちだよ」

 あのあと、昼ご飯を食べながらたくさん話して、私は双子を駅まで送った。送ったはずだったんだけどね……

 双子を送ったあと、いつもの公園で蓮君と待ち合わせしていると、時間より少し早く来た君にすぐに双子は発見されてしまった。私は全く気付かなかったよ。

 それで、双子ちゃんと一緒に蓮君に事情を説明してから、また駅まで送って、今度こそバイバイしたんだけどね……

「確かにな……まぁ、そのうち飽きるだろ」

 蓮君公認のストーカーに昇格したよ、亮君と立花ちゃん。

「そうだね」

「でも、腹立つな、お前の親」

 蓮君の声と様子から、かなりご立腹だってわかる。

 改めて端から見たら、私の両親は酷い親らしい。実情を知って、亮君も立花ちゃんも薄情だと相当怒っていた。双子ちゃんは実の父親にも怒っていたわね。私的には、そこまで怒らなくてもって思ったけどね。それを言ったら、私に怒りの矛先が向いちゃった。

 だけどね……最後まで治療を受けさせてくれたことに、心から感謝してるのよ。

 話を戻すけど、亮君と立花ちゃんが発見されたこともあって、私は正直に話すことにしたの。と言っても、私が死んでいることは話してはいない。そのことだけはしてる。双子ちゃんにも、私が死んでいることは絶対に言わないでとお願いした。

 話した内容は、私が死んでいること以外はほぼ全部かな。私の両親は離婚していて、今はお互いに家族があるってこと。どっちも私を引き取りたがらないこと(まぁ実際、遺骨は引き取らないようだし)

 そして今、あの家に私が一人で暮らしていること(一応、遺骨が鎮座してるわけだし)

 なので、話したことは嘘じゃない。

「私は感謝してるの……高かったはずだから、治療費」

「はぁ!? そんなの、親なら当然だろ!? 人が良すぎるぞ、三奈」

 怒ってくれる蓮君を見てると、自然と口元が緩んでくるよ。それを見て、蓮君の機嫌がさらに悪くなる。亮君も立花ちゃんも、蓮君と同じように怒ってくれた。

「……なんか、いいなぁ……私のために怒ってくれてるの、とっても幸せだよ、今」

 これは、私の正直な気持ち。心からそう思える。

「…………」

 なのに、蓮君はとても辛そうな表情をするのね。それを見て、私の胸がズキリと痛み出す。

「重い話だったね……ごめん」

 私のために、蓮君は苦しまなくていい。苦しんでほしくない。

 私は蓮君の頬に手を添えようと伸ばした。泣いてはいないのに、何故か、蓮君が泣きそうだって思ったの。でもその手は、蓮君にとられた。

「蓮君……?」

 驚いて、覗き込む私と蓮君の目が合った。

「撒くぞ」

 そう短く言うと、蓮君は走り出した。

「うん!!」

 私はそう答えると走り出す。

 蓮君と一緒に――

 手を引かれながら、蓮君の背中越しに夕日に染まる空が見えた。

 病室から見ていた夕日、死んでから一人で見た夕日、そして、蓮君の背中越しに見た夕日。

 同じ夕日で朱色なのに、どうして、こんなにも違って見えるの……

 夢にまでみた色鮮やかな世界。

 蓮君がいてくれたから見れた世界だと、改めて気付く。

「…………ありがとう、蓮君」

 私はその大きな背中に、小さな声で感謝の言葉を言った。



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