私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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日本語って難しいよね

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 今日は日曜日。一週間遅れでやって来ました、映画館。

 それで、完全に固まりました。

 人、人、人……ここって、千葉にあるテーマパークじゃないよね。ちょっと舐めてたよ。まさか、ここまで人が多いとは思わなかった。券売機まで辿り着けるかな? っていうか、チケット買い終わる頃には満席かも……

 でも、これはこれで楽しそうだよね。初めての経験って、どんな失敗でも楽しいって言うし。隣に蓮君がいてくれるだけで、この人混みも全然不快じゃないよ。全然ね。

 観に来たのは、アクション映画。シリーズ全部ヒット作で今回も評判がすっごくいいの。因みに、私は当然観てないから、直ぐに買いに行って学習したわよ。予習復習は大事だからね。

 まぁでも、さすがにこれに関しての予習はしてなかったわ。

「やっぱり、混んでるな……大丈夫か? はぐれたら困るから、もっと、こっちに来いよ」

 蓮君が私の腕を自分の方に引っ張る。こっちも、予習しとくべきだった? 一気に体温上がること止めて!!

「えっ!? チケット買いに並ばなきゃ」

 焦って抵抗する私を半ば抱えながら、蓮君は券売機の奥にあるスペースへと私を誘導する。

「買う必要ねーよ。事前に、購入済みだ。……ん? どうした?」

「いやね……さすが、蓮君。色々慣れてきたな~と思って」

 そう素直に言ったら、蓮君の眉間の皺がとても深くなった。混んでるのに、空きスペースができたよ……あ~完全に怒らせたみたい。

「あぁ!? どういう意味だ?」

 まるで、ドーベルマンが威嚇している感じだね。

「女の子に凄むのは止めようね、蓮君」

 さらに、空きスペースは広がっていく。迫力はあるけど、そんなに怖くないのに。

「どういう意味だって訊いている?」

 これ、答えるまで許されないパターンだ!! ちょっと、面倒くさいな。

「えっ!? それ、私に言わせるつもり。……だって、前から蓮君って、完璧にエスコートしてくれるじゃない。だから、今回も色々リサーチしてくれたんだなって、嬉しく思ったの!! 悪い!?」

 顔を真っ赤にしながら答える。

「誤魔化すな。慣れてるって言ったじゃねーか!!」

 疑われた。マジでショック。こんなに恥ずかしい思いをして告白したのに。

「違う!! 慣れてきたねって言ったの」

 慣れてると慣れてきたって、時間軸が違うよね。そもそも、なんでそんなに怒ってるかわかんない。

「……慣れてきた? マジか……こういうことが慣れてきたって意味か?」

「それ以外に、なんの意味があるのよ」

 今度は、蓮君が答える番。素直に吐いてもらうからね。

「いや……てっきり、他に女がいるでしょ的なこと言われて、カッとなった」

「どこが?」

 全然、わかんない。だから、詳しい説明求む。

 私はガシッと蓮君の腕を掴んで見上げた。

「……女に慣れてるって、言われたと思ったんだ!!」

 なんとなくだけど、蓮君が言いたいことが理解できた。どこに怒っていたのもね。

「でも、それって怒る箇所なの? 仮に、蓮君が女の人に慣れていても、私は別に怒らないけど。だって、今の蓮君があるのは、その女の人の影響もあるんだよね、なら、怒る必要どこにあるの? そうだね、蓮君が二股や三股掛けてるのなら、怒るけど」

 前半、呆気にとられていた蓮君だったけど、後半の台詞に関しては断固として否定した。

「掛けてねーよ!!」

 つまり、今は好きな子はいないってことだよね。うん、嬉しい。

「なら、いい」

 私はにっこりと微笑む。

 蓮君は息を飲むと、それ以上何も言わずに、離した私の手を掴むと歩き出す。

 めっちゃ、耳真っ赤だね、蓮君。

 肩肘張っちゃったな。本当は、蓮君が女の人に慣れてたら、絶対ショックだよ。だって、蓮君の優しさと男らしさ、包容力を、他の女の人が知っているってことだからね。独り占めしたい気持ちになる。なんか、胸の奥がモヤモヤするよ。

 本音はそうだとしても、私は何も言えない。そんな資格、始めからないもの。

 蓮君と私が一緒に歩める未来は、決して手には入らないのだから――

 私が蓮君の隣にいれるのは、今この瞬間だけなの。




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