私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
24 / 60

日本語って難しいよね

しおりを挟む

 今日は日曜日。一週間遅れでやって来ました、映画館。

 それで、完全に固まりました。

 人、人、人……ここって、千葉にあるテーマパークじゃないよね。ちょっと舐めてたよ。まさか、ここまで人が多いとは思わなかった。券売機まで辿り着けるかな? っていうか、チケット買い終わる頃には満席かも……

 でも、これはこれで楽しそうだよね。初めての経験って、どんな失敗でも楽しいって言うし。隣に蓮君がいてくれるだけで、この人混みも全然不快じゃないよ。全然ね。

 観に来たのは、アクション映画。シリーズ全部ヒット作で今回も評判がすっごくいいの。因みに、私は当然観てないから、直ぐに買いに行って学習したわよ。予習復習は大事だからね。

 まぁでも、さすがにこれに関しての予習はしてなかったわ。

「やっぱり、混んでるな……大丈夫か? はぐれたら困るから、もっと、こっちに来いよ」

 蓮君が私の腕を自分の方に引っ張る。こっちも、予習しとくべきだった? 一気に体温上がること止めて!!

「えっ!? チケット買いに並ばなきゃ」

 焦って抵抗する私を半ば抱えながら、蓮君は券売機の奥にあるスペースへと私を誘導する。

「買う必要ねーよ。事前に、購入済みだ。……ん? どうした?」

「いやね……さすが、蓮君。色々慣れてきたな~と思って」

 そう素直に言ったら、蓮君の眉間の皺がとても深くなった。混んでるのに、空きスペースができたよ……あ~完全に怒らせたみたい。

「あぁ!? どういう意味だ?」

 まるで、ドーベルマンが威嚇している感じだね。

「女の子に凄むのは止めようね、蓮君」

 さらに、空きスペースは広がっていく。迫力はあるけど、そんなに怖くないのに。

「どういう意味だって訊いている?」

 これ、答えるまで許されないパターンだ!! ちょっと、面倒くさいな。

「えっ!? それ、私に言わせるつもり。……だって、前から蓮君って、完璧にエスコートしてくれるじゃない。だから、今回も色々リサーチしてくれたんだなって、嬉しく思ったの!! 悪い!?」

 顔を真っ赤にしながら答える。

「誤魔化すな。慣れてるって言ったじゃねーか!!」

 疑われた。マジでショック。こんなに恥ずかしい思いをして告白したのに。

「違う!! 慣れてきたねって言ったの」

 慣れてると慣れてきたって、時間軸が違うよね。そもそも、なんでそんなに怒ってるかわかんない。

「……慣れてきた? マジか……こういうことが慣れてきたって意味か?」

「それ以外に、なんの意味があるのよ」

 今度は、蓮君が答える番。素直に吐いてもらうからね。

「いや……てっきり、他に女がいるでしょ的なこと言われて、カッとなった」

「どこが?」

 全然、わかんない。だから、詳しい説明求む。

 私はガシッと蓮君の腕を掴んで見上げた。

「……女に慣れてるって、言われたと思ったんだ!!」

 なんとなくだけど、蓮君が言いたいことが理解できた。どこに怒っていたのもね。

「でも、それって怒る箇所なの? 仮に、蓮君が女の人に慣れていても、私は別に怒らないけど。だって、今の蓮君があるのは、その女の人の影響もあるんだよね、なら、怒る必要どこにあるの? そうだね、蓮君が二股や三股掛けてるのなら、怒るけど」

 前半、呆気にとられていた蓮君だったけど、後半の台詞に関しては断固として否定した。

「掛けてねーよ!!」

 つまり、今は好きな子はいないってことだよね。うん、嬉しい。

「なら、いい」

 私はにっこりと微笑む。

 蓮君は息を飲むと、それ以上何も言わずに、離した私の手を掴むと歩き出す。

 めっちゃ、耳真っ赤だね、蓮君。

 肩肘張っちゃったな。本当は、蓮君が女の人に慣れてたら、絶対ショックだよ。だって、蓮君の優しさと男らしさ、包容力を、他の女の人が知っているってことだからね。独り占めしたい気持ちになる。なんか、胸の奥がモヤモヤするよ。

 本音はそうだとしても、私は何も言えない。そんな資格、始めからないもの。

 蓮君と私が一緒に歩める未来は、決して手には入らないのだから――

 私が蓮君の隣にいれるのは、今この瞬間だけなの。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

処理中です...