私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
19 / 60

嫌いになれたら、色々楽なのにね

しおりを挟む

 蓮君を見送り、玄関を開けると、小さく「ただいま」と声を掛けてからダイニングに向かった。電気を点けて、私はテーブルに袋を二つ置く。

 蓮君には内緒だけど、私が買ってきた買い物袋の中には、同じ商品が二つづつ入っているの。いつから二つづつ買い始めたかは忘れたけど、私が家に戻ってから、あまり日は経ってなかったかな。

 あまりにも、寂しくてね。置物のように無機質すぎたの。だからつい、買うようになったんだよね。私じゃあ、なんの慰めにもならないけど。しないよりはマシ。少なくとも、無機質なのが嫌だったの。

 無機質すぎたのって、実は仏壇なんだよね……

 仏壇といっても、骨壺と位牌、あと百均で売っているような写真立てだけ。

 そこに写っているのは、身体中に機械がついたやつれた少女。

 遺影なんてない。

 そう言えば、葬式の時にもなかったわね。虚しさで、笑いそうになる。笑ってる写真がなかったかららしいけど、探せばあるはずなのにね。私は持ってるもの。最初から探す気がなかったみたい。それとも、捨てたの? もう、今となってはどっちでもいいけどね。だって、娘の葬式から早く開放されたい感アリアリって、もう終わりでしょ。表面上だけは悲しんでる風だったけどね。

 それぐらいの気持ちしかないから、仏花を飾る白い花瓶はないわ。線香を立てる壺みたいなものは一応あるけど、ほぼサラ。あまりにも即席で、簡易的な仏壇の線香をあげるのは、私以外いないからね、なおさら汚れないわ。

 そもそも、この家に帰ってこない人間があげるわけないしね。

 少なくとも、ちょっとでも気に掛けるのなら、惜しんでくれるのなら、この期間は我が子の死を悼み線香をあげに来るでしょ。この家で過ごしてくれるはず。たくさん、話をしてくれるよね。……こんなにも綺麗なわけないもの。遺影や葬式の件といい、赤裸々すぎるよ。

 ほんと、現実は時に非情すぎるものだね。

 嫌いになれたら、色々楽になるのかな……でも、私は両親を嫌いにはなれないんだよ。諦めてはいるけど。嫌いになった方が、ずいぶん楽なのにね。無関心にもなれない。楽しい記憶がいつも邪魔をする。

 考えるのも、無駄だよね……

 いつもなら、私が買ってきたものを供えるんだけど、今日は蓮君が買ってきてくれたものをあげることにした。

 いつも、私からばっかりだからね。たまには、別の人からのものがいいよね。同じものだけど。特に、蓮君の気持ちを裏切ることもないし、大丈夫。

 私は主に供えるだけ。それ以上は、何もしない。当然、手も合わせない。合わせる意味がないからね。必要ないって言った方が正解かも。

 供え終えると、肉うどんとペットボトル一本以外は、前に備えていたお菓子と一緒に冷蔵庫に入れる。ゼリーとチョコだから大丈夫だよね。ちゃんと後でいただきます。

 肉うどんをレンチンしている間、私はテレビを付けた。

 あまりに代わり映えしないニュースばっかり。

 お笑いもよくわかんない。なんていうか……笑いのツボがよくわかんないのよ。ノリについていけないっていうか。楽しめるのはアニメと動物の特番ぐらいかな。なんか、浦島感が拭えない。

 蓮君と会っている時もそう。

 嘘じゃないけど、長い間入院していたからだって思われてるから、そこは隠さないでいる。下手に隠すとボロが出るからね。

 真実を織り交ぜた嘘を、私は今日も君に吐いている。

 そして、君という存在に今日も癒やされるの。

 どうしてかな? 写真の中にいる少女が笑ったように見えたの。たぶん、私が笑っているからね。あれ……? なんで、涙が出るのかな? 胸が痛くて苦しいよ……




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

処理中です...