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君は本当に優しいんだよ
しおりを挟む曲がり角で、蓮君の姿が消えるのを見るのは、ちょっと淋しいかな。普通のカップルでも、ずっとは一緒にはいられないのにね。う~ん、ちょっと依存気味なのかな私。気を付けないと、蓮君に嫌われちゃうね。ウザい女認定されたらマジ泣くよ。そういえば、
「……蓮君、何くれたのかな」
私は強引に渡されたビニール袋の中身を見る。自然と口元が緩んだよ。
やっぱり、蓮君はすごいな。
そして、私を大事に思ってくれてる。だって、蓮君が買ってくれたの、今、私の買い物袋にまんま入ってるからね。あと、温めるだけで食べれる肉うどんも追加で入ってる。
「ほんと……蓮君は優しすぎるよ」
目頭と鼻の奥がキンと痛む。胸が熱くて、こんな往来で泣きそうになった。
蓮君は自分が優しい人だって思ってもいない。その証拠に、私がそう言うと、いつも眉間に皺を寄せる。何度も言うけど、君は本当に優しいんだよ。全然、信じてくれないけどね。
たぶん……これは私の想像だけど、蓮君は優しさを少し履き違えている気がするの。君のその優しさが、蓮君の周りの人にしか発揮されていないから、優しくないとでも思っているのかな? だったら、違うと思う。
今でこそ、遊びに行ったりしてるけど、蓮君と私は、あの瞬間まで全く接点がなかったんだよ。一度も会ったことがなかったんだよ。
なのに、蓮君は私に手を差し伸べてくれた。
本当の優しさって、本当に困っている時に手を差し伸べられる人のことを言うんだよ。それに、周りの人にだけだとしても、その人をちゃんと見てないとできないことだよね。
誰も望んでいない一方通行の行為は、優しさではなくて、ただの自己満の押し付けだと思うの。そういう人って、やってあげた感が出てるんだよね。それに、見返りを求めたりするの。
蓮君にはそれが全く感じないし、求めてもこない。
自然に、呼吸するように、君は私に見返りを求めず、今も手を差し伸べてくれる。
こんな、嘘つきな女にね。
私は全然優しくないのに、身勝手で酷い女なのに、蓮君の優しさを求め縋り付いてる。その温かさに、心が救われている。
ほんとに、君はすごい人なんだよ。
義務感ばかりの私の両親とは違ってね。
私気付いてたの。蓮君が私の家のリビングに目をやるのを。電気が付いてないのを不審に思ったのかな。だから、見舞いに肉うどんをくれたのね。
まぁ、そう思われても仕方ないよね。頻繁に送ってくれてるのに、一度も電気が点いてなければそう思うかな。多額の医療費を払うために、病気が治ったばかりの子を置いて働いている。嘘は言ってない。蓮君はそれを不思議に思って、少し腹を立ててくれてる。
私の両親は優しかったんだよ。昔はね……でも、優しさを維持するのに疲れたみたい。そして、疲れはいざこざと激しい罵りを生み、それぞれ外に癒やしと居場所を求めたの。
結果、お金さえ出しとけばいいという結論に至ったみたい。多少の罪悪感はそれで埋めれるからね。
そんな二人だから、ここには帰っては来ない。様子も見に帰るなんてないの。帰る場所があるからね。それでも、多少の愛情が残っていれば、この間だけは帰って来てくれるはずだけどね。
義務が終わった瞬間、両親は、親であることを完全に辞めたの。
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