私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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神様が存在するのなら

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「なに、必死になってるんだ?」

 蓮君の問い掛けに、私の身体は素直だった。身体を強張らせて固まるなんて、肯定していることと同じじゃない。

「……別に、必死になんてなってない」

 無駄な足掻きだよ。今更否定しても信用されないのに、心は必死で隠そうとしている。

「必死になってるだろ、どうみても。映画なんていつでも行けるんだから、今日は止めとくか? 無理していくことでもねーだろ」

 軽く溜め息を吐きながら、蓮君は呆れていた。

 これは、蓮君の優しさだ。たぶん、蓮君は私の体調が悪いと思ってる。だから、これは私を気遣ってのセリフ。怒りも不快にも思っていない。

 ベストな返答は、「ありがとう」って言って、この日は諦めること。そもそも私が、自分の心の整理が付いていなくて、割り切れなくて、黙り込んでしまったからいけないの。

 そんなのわかってる!!

 わかってるけど、それでも私は――

「……蓮君と一緒に映画に行きたかった」

 俯いたまま、私は望みを口にする。声が震えた。泣きそうになった。

 駄目!! 泣いたらいけない。絶対に!! これ以上、醜態をさらしたら駄目。

 さらしたら、さらに疑問を抱かせることになる!!

 私はギュッと唇を一回噛み締めてから、顔をゆっくりと上げた。私の目に、戸惑う蓮君の顔が映っている。そりゃあ、戸惑うよね。優しいから私を気遣って、言葉を選んでる。

「ごめん。やりたいことが多くて、ちょっとハイテンションになってたよ。今日は帰るね。せっかく、一日開けてくれたのに、行けなくてごめん。この埋め合わせは絶対するから、今日は帰るね」

 安心させるように微笑んでから、私は踵を返した。

「送る」

 当たり前のように、蓮君は言った。

 いつもなら嬉しくて、笑って送ってもらうけど、今日は笑えない。だから、断った。

「今日はいいよ。一人で帰る。蓮君、カイロありがとうね」

 口調は柔らかいけど、きっぱりと拒絶した。蓮君はあとを追っては来なかった。

 ちゃんと拒絶したのが伝わったのね、よかった。去り際の蓮君の顔、なにか言いたそうにしていた。でも、答える気はない。だって、答えようにも、できないことだからね……

 ラキさんのような存在がいるのなら、当然神様も存在するよね。

 心から切に願います。

 お願いします。

 あともう少し、蓮君と一緒にいさせてください。嘘を突き通せる強さをください。

 お願い!! 私から、光を奪わないで。

 蓮君の隣で笑って、馬鹿話がしたいです。

 約束は必ず守りますから。どうか、神様、その間は私の細やかな願いを叶えてください。

 私は蓮君から貰ったカイロを強く両手で握りしめながら、帰途に付くまでの間、ずっと強く願っていた。

 


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