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私はまた君に叶わない嘘を吐く
しおりを挟む私は蓮君がくれたココアを飲みながら、学校のことを訊いた。それなら、口下手の蓮君でも話しやすいし、私も興味があったからね。だって、ほぼ通ったことがなかったから特にね。
「高校って学食があるんでしょ。なにが美味しいの?」
目、キラッキラにして訊いた。蓮君はすっごく呆れてたな。
「あのな~一番に訊く内容がそれか?」
「え~だって、これ重要だよ。不味かったら、近くのコンビニでパン買わなくちゃいけないし、それに、数えるくらいしか外食したことないから、興味あるんだよね」
「外食と学食は違うだろ?」
蓮君の呆れ具合が増していく。同時に、またしても馬鹿にされた。
「まぁ、そうだけど、やっぱり定番の唐揚げ定食が人気なのかな?」
定食と言えば、唐揚げだよね。これも、テレビとかで知ったことだけど。
「いや、唐揚げも美味しいけど、俺的にはラーメンだな」
「ラーメン? 三分待つのじゃなくて」
「はぁ!? 学校でカップラーメンは出さねーよ」
「でも、ラーメンを食べれるのは、ラーメン屋さんか中華屋さんだよね。学食で何時間も骨を煮込むの!?」
なんか、私の知識は偏ってるみたい。雑誌とかテレビでたまにするラーメン特集で、そんなことを話していたのを覚えている。
「詳しくは知らねーけど、カップラーメンじゃない。入学したら食えるだろ」
入学したらね……
蓮君は私が入学するって信じてる。私の嘘を信じてる。
半分は本当で、半分は嘘。
入学しようとしていたのは事実。でも、私は入学することはない。できないの……
自分で吐いた嘘なのに、胸がすごく痛いな。私の我儘に付き合わせてるのも、苦しい。だからといって、蓮君の前から消えることもできない。
私の初めての恋が、私をさらに我儘にする。
わかっているのに、私は限られた時間を蓮君と一緒にいたいと貪欲に願う――
願ってしまう。
「そうだね。一緒に食べようね、蓮君」
私は明るい声で微笑みながら約束する。叶わない約束を平気でしてしまう。
私はとても、業が深い人間なんだよ。
「しょうがないな、付き合ってやる」
どうしようもない感ありありだけど、その言葉嬉しいな。未来があって。私には眩しすぎるよ。
「ありがとう……」
「大丈夫か? 少し寒くなってきたな?」
ほんと、優しいね。
「大丈夫。見て、ちゃんとカイロ貼ってきたから」
そう言って、セーターを少し捲ろうとしたら、すっごい勢いで止められた。
「馬鹿が!! 高校の前に常識を習え!!」
「痛っ!!」
少し遊んだのは悪かったけど、頭叩くことないよね。女の子の扱いじゃないよね。ココアの件で、女の子の扱いされたと思ったのに、直ぐに降格って、なくない!?
「他の誰にもするなよ!!」
「カイロを貼ってるのを見せること?」
「違う!! いや、違わないか、とりあえず、セーターを捲ることだ!!」
「見せてもいいアンダーなのに? 駄目なんだ~」
もしかして、降格ではなく昇格していたのかな?
ニヤリと笑う私にムカついたのか、「その顔止めろ」って低い声で言われて、また叩かれた。
「女の子に手を出すなんて、最低~」
「教育的指導だ」
大きな溜め息を吐きながら、蓮君は言った。
蓮君の手、大きくて温かかったな。ちゃんと、生きている人の手だね。
「……蓮君だから、話せるのかもしれないね」
曲がり角に消える蓮君を見ながら、私はポツリと呟く。
今までの私は苦しくて、言葉一つ発するのも難しかった。話し方を忘れてしまうほど、私は誰とも話せなかった。
ましてや、身体中にたくさんのチューブに繋がれてて、指一本動かすのもしんどくて苦痛だった。でも、色んな話し声や音は聞こえてたよ。心地良いのや違うものとか色々ね……
蓮君の声は、今まで聞いていた中で一番心地良いの。
だから、ずっと話していたいと思う。
聞いていたいと思う。
あれから公園で話し込んじゃったよね。蓮君が家まで送ろうと言ってくれたのは嬉しかった。家の前まできた時、思わず言っちゃった、「あがる?」って。すると、蓮君は焦ったように帰って行ったね。
あの時、本当は内心ホッとしたの。
だって、もし蓮君が私の家にあがったら、直ぐに私の秘密に気付いたはずだからね。私が吐いていた嘘もバレてたよ。
どうして、私はあんなことを口にしてしまったんだろうね?
バレてほしくはないのに……
「ただいま」
私は玄関で、そう声をかけてから二階に上がる。返事はかえってこない。
リビングは今日も真っ暗。二人とも仕事で毎日帰りが遅い。帰るだけまだマシかな。私の医療費のせいで借金してるから、両親は忙しいの。寂しいけど我慢。
私は蓮君から貰ったココアの缶をベッドのサイドテーブルにソッと置く。そのまま、ベッドに座った時だった。
『人間って、つくづく矛盾した生き物ですね』
まるで、私の心を見透かしたかのように、アイツは突然現れ、私にそう話しかけてきたの。
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