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君がくれた宝物
しおりを挟むちゃんと来てくれた……
誠実な蓮君が、一度した約束を反故にするとは考えてなかったけど、来てくれるまでは心配で胸が張り裂けそうで苦しかった。この苦しさって、私が蓮君に恋してるからだよね。恋って……こんなに苦しいものだって初めて知ったよ。ベッドの上で読んでいた恋愛小説と全然違う。これが、リアルな世界なんだね。
でもね、不思議と、蓮君の姿と声を聞いた瞬間、その痛みが嘘のようにサーと消えたの。それには、ちょっとビックリしたかな。
ずっと自信がなかったの。だって……かなり強引で、面倒くさい女だよ、私。顔も平凡だし、身体も痩せて棒だし。そんな私の約束を守ってくれただけでも嬉しいのに、蓮君はココア買ってきてくれたの。優しすぎるよ。私が甘いもの好きって会話の中でしか出てこなかったのを、覚えてくれてたんだよ、嬉しくて泣きそう。
「嫌いだったか?」
ココアの缶を持ったまま感動している私に、隣に座った蓮君が少し眉をしかめながら訊いてくる。
「ううん!! 嫌いじゃない!! ココア大好きだよ、ありがとう」
もし苦手だったとしても、好きになるよ!!
「だったら、飲めば」
蓮君はブラック。大人だね~私は苦くて飲めない。コーヒーには砂糖とミルクは必須だよ。
両手の中にあるココアの缶に目を落とす。
なんか、開けるのやだな……
飲んだら、空き缶はゴミ箱の中。蓮君が私のために買ってくれたものを、空き缶とはいえ、ゴミ箱には捨てたくはなかった。
だから、私は蓮君に尋ねる。
「……このまま持って帰っていい?」
「はぁ!? なんで?」
すっごく、変な顔をされた。声も低い。
「記念にとか……」
訊かれたら答えるしかないよね。でもさすがに、蓮君が買ってくれたからとは言えない、恥ずかしくて。なので、自然と小さな声になる。
「ココアの缶がか?」
世間知らずの子だと思われてたけど、さらに、可哀想な子だって思われたみたい。なにげに、その視線は傷付く。それでも、持って帰りたい。なんか……蓮君の気持ちが形になった気がして、残したいの。大事にしたいの。
「駄目かな? 気悪くした?」
気悪くしたよね、蓮君固まってるし。
「しょうがねーな、ちょっとそのまま待ってろ」
蓮君は小さな溜め息を吐くと、立ち上がってどこかに行ってしまった。
絶対、怒ったよね。せっかくの好意を無下にしちゃったんだから、いい気しないよね。そのまま待ってろって言ってたから、戻って来るとは思うけど……鞄もあるし。
謝ろう。でも、どう言えば許してくれるかな。焦って頭の中がグルグルとなっていると、蓮君が走って戻ってきた。
「ほら」
えっ!?
渡されたものを見て、私はまたビックリしたよ。胸が熱くなる。蓮君は私に切符を渡してくれたように、ココアの缶を渡してくれたんだ。
「いいの? ありがとう……」
ずるいよ、蓮君。優しすぎるよ。こんなことをさらっとされたら、もっと好きになっちゃうじゃない。
大好き、蓮君。
心の中で告白しながら、先にくれたココアの缶を、私はハンカチに包んでソッと鞄に入れた。
世界に一つしかない私の宝物だから、傷一つ付けたくないの。
残された時間、私はいくつ宝物ができるのかな? 胸が痛むけど、楽しみなの。
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