私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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俺が完全敗北した日

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 俺は小さい頃から、異常に怖がられていた。

 タッパもあるが、原因はこの目のせいだ。切れ長で三白眼のせいで、なんにも怒ってないのに怒ってるって言われたり、睨んでるって言われた。生意気だと言われて絡まれることなんか日常茶飯事だ。

 反対に、笑ったら、なにを企んでるって言われる始末。先生たちにも問題児扱いされてるな、現在進行系で。

 ましてや、普通に歩いているだけなのに、乱暴者と罵られた時には色々と諦めたよ。俺はなにもしてねーのに、噂だけが先行して、俺は周囲から怖がられ、高校に進学する頃には完全なボッチになった。まぁ、一人は苦にならないタイプだから、ボッチになろうが全然構わない。むしろ、人を見た目しか判断しない奴らとつるまなくていいのは気が楽だ。

 そんな俺の目を、三奈は真っ直ぐに見てくる。

 自然に視線を合わせて笑う。

 衝撃だった。衝撃すぎて、一瞬、息をするのを忘れてしまうほどだった。

「怖くないのか」と訊いたら、三奈は俺を「優しい人」だと言った。「怖くない」と言った。普通に、「どこに行く?」と訊いてきた。その目に嘘や同情は一切見えない。

 この俺を怖がらないのか……ありえねーだろ!! そんな奇跡、起きるはずねーだろ!!

 急に鼻の奥と目頭が熱くなった。泣きそうになった。この俺が、今日会ったばかりの世間知らずの女に、完全に負けてしまった。この女のせいで、信じたくなかった奇跡ってやつを、もう一度信じたくなった。

 必死に涙を堪え、俺は伝票を持ってレジに向かう。

 三奈は文句を言いながら、俺の後ろをちょこちょこと付いてくる。あいつがしんどくない程度で、俺は先を歩く。

 それだけなのに、俺の心は温かくなって笑っていたんだ。それを水槽のガラスで見た時、自分もこんな顔ができるのかって思った。

 あ~完敗だな。素直に負けを認める。

 長い間入院していたせいか、三奈は世間にかなり疎い。だからか、なんでも興味を持って楽しそうだ。美味しそうに食べるしな。俺はそんな三奈を見て、色んな場所に連れて行ってやりたいと心から思った。

 ずっと、この笑顔を独り占めにしたいとも思った。

 高校も、大学も、その先も――

 なら、まずは俺のもんにしないとな。

 幸いにも高校は同じだし、家も徒歩圏内。どうにかなるだろ。ならなかったら、どうにかするだけだ。お前は俺を負かしたんだ、その責任はきっちりととってもらうつもりだからな。

 そうと決まれば、まずは、ラインの交換からか。

 三奈も交換したそうだな。だったら、少し焦らしてやるか。俺を真っ直ぐに見る目を見たいから。なんか……俺、歪んでないか。

 でも、あの必死な顔を見たら、止められねーんだよな。好きな子をいじめたくなるって、ガキかよ。あ~嫌われたくないから、ほどほどにしないとな。

 家に帰って風呂から出たら、三奈からラインがきていた。超嬉しい。

 嬉しいけど、なんて返事を返したらいいんだ? 絵文字? スタンプ、この俺が!? 悩んだあげく返したのは素っ気ない言葉。それでも、アイツは気にしない。

 スマホなのに騒がしいやつ……

 待ち合わせは月曜日の放課後。甘いものが好きって言っていたから、ココアでも買って行ってやろう。

 

 
 
 
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