私は最後まで嘘を吐く。そして君は、優しい嘘を吐く

井藤 美樹

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君と初めての待ち合わせ

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「来てくれるかな~来てくれるよね……」

 待ち合わせ場所の公園で、ずっと私は、ブツブツ呟きながらスマホとにらみっこしている。

 実は、水族館の帰りに蓮君とライン交換したんだ。

 すっごく勇気だしたよ、私。どもらないように必死でお願いしたの。結局、どもったけどね。

 だって、せっかくできた細い繋がりがバッサリ切れちゃうんだよ、このままバイバイしたら。もう会えないかもって思ったら、必死になるしかないじゃない? これで無理なら、最悪、校門で待ち伏せしようかと、チラリと脳裏を過ぎったけどね。でも、それをしたら、痛い女確定でしょ。ウザがられて、嫌われる可能性大だよね。だから、もうほんとなりふり構わず、必死ですがったよ。

 そもそもさ~蓮君が、少しでもいてくれる素振りを見せてくれたら、よかったんだよ。なのに、そんな素振り全くなし。かえって必死になりすぎてる私を見て、蓮君はめっちゃ笑っていた。意地悪だよね、ほんと。でも、すっごく好きなんだよね……まぁ、ゲットできたからいいんだけど。

 早速さっそく家に帰った後、今日のお礼と、近いうちに会えないかって送ってみた。さり気なくね。ランチおごってくれたから、今度こそ私が奢ろうと思ってね。直ぐに既読になって、返信がきたよ。

〈わかった〉

 蓮君らしい短い返事だったけど、顔がにやけて止まらない。返事が返ってきたことが、すっごく嬉しい。

 ランチの件は建前で、私が蓮君に会いたかっただけだって、たぶん、蓮君にはお見通しだよね。

 あ~恥ずかしいな、もう!!

 君は今、どんな顔でスマホを見ているの? ちょっとは、嬉しそうな顔をしてくれてるのかな? ドキドキしてる? それとも、迷惑だって思ってるのかな?

 迷惑と思っていたとしても、ほんの少しだけ、少しだけでいいから、蓮君の時間が欲しいの。蓮君の生活を乱したりはしないから……君の心に踏み込まないように注意するから、毎日じゃなくていい、一週間に一回でいいから、ほんの一、二時間だけでいいの、私に君の時間をくれないかな。

 そう願ってしまう私は、十分、ままで自分勝手な女だと思う。

 この恋が叶う未来なんて、どこを探してもありはしないのに。

 そもそも、私に未来なんてないのに。

 そんな私が、スタートラインなんて立てないんだよ。

 ううん、違う。

 スタートライン、そのものの位置が違うの。私と蓮君はね。どんなに進んでも、決して交わりはしない。

 だって私は―― 

 考えても仕方ないこと。私は目をつむり、開く。

 約束した時間は四時。今は十五分前。なのに、一時間早く来て蓮君を待っている。普通の女子高生のようにね。

 この公園は、城東高校と最寄り駅の中間ぐらいにあって、そこそこ広いから、待ち合わせにちょうといいと思ったの。私と蓮君の家も徒歩圏内だし、いいかなって。小さな児童公園ならちょっと考えたけどね。だって、蓮君にいらない噂が立つのは可哀想でしょ。校門の前で待ち伏せしようと考えてた私が言うのは、おかしいって。別にいいじゃない。

 時間と場所を決めたのは私。

 君の返事は〈わかった〉だけ。スタンプさえない。

 素っ気ない短い返事でも、貰えるだけで幸せ。私は君と繋がっていると実感できるから。それだけで、心がとても満たされて温かいの。

「なに、スマホ睨んでるんだ? 待ったか? ほら、やる」

 不意にかけられる低い声。

 間抜けな顔をして見上げる私に、蓮君はホットの缶のココアをくれた。

 泣きそうになったよ。来てくれてありがとう、蓮君。

 
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