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君に初めて嘘を吐いた日
しおりを挟むイルカショーの次はこれって決めてたんだよね。
「蓮君、昼ご飯食べない? 色々教えてくれたお礼に奢らせてよ」
さすがに、大好きな人だけど、今日会った男子の腕を掴んで引っ張る勇気はないからね、私は蓮君の先を歩いて誘導することにしたの。渋々感満載だったけど、着いてきてくれるって確信してたからね。
イルカショーも見たかったけど、この水族館のご飯、海鮮が新鮮で美味しいって雑誌に載ってたの。
ホタテのバター焼きとか、海鮮丼とか、よだれが出そう。ダメダメ、そんな姿、もし蓮君に見られたら、引かれはしないけど、絶対馬鹿にされる。
「……別に、奢ってもらわなくてもいい」
蓮君って意外と頑固だよね。こういうの、硬派っていうのかな?
「もしかして、蓮君って、女子に奢ってもらうのが嫌なタイプ?」
もしそうなら、無理矢理押し付けるのって嫌だよね。さっきみたいな雰囲気になるの嫌だし……でも、絶対奢る。
「別に……理由があるならな」
蓮君の中では、私を助けたことは理由にならないんだ。当たり前のことだからかな。
ほんと、私、とっても幸運だよね。蓮君に会えたんだから。自然と、笑みが浮かぶ。
「なら、理由があるよね。私は蓮君に助けられた、そのお礼がしたいの」
満面な笑みを浮かべてそうお願いすると、すっごく渋々納得してくれた。折れてくれた感じ。
店員に案内されて店内に入ると、ランチ時間がズレていたおかげで、窓際の席に案内されたの。超ラッキー!! 海が見えて最高!! 海面がキラキラ光ってて綺麗。五月だったら、砂浜裸足で歩けたのに残念。
店員さんがメニューを持ってきてくれた。店員さんから見たら、私たちってカップルに見えるのかな……だったら、嬉しいな。なんか、緊張してきたよ。落ち着け~私。
蓮君はサクサクと決めてオーダーしてる。私も慌ててオーダーした。食べたいの決めてたからね。
蓮君って、こういうの慣れてるのかな?
私と違って、全然緊張しているように見えないし、反対にリラックスしてるように見える。病気のせいで、年齢よりは幼く見えるけどさ、一応、女子と二人っきりでランチ食べるんだよ、少しは緊張してよ。地味に傷付くから。
「春休みあけから、高校に通うのか?」
ちょっと、テンションが下がりかけていた私に、蓮君が訊いてきた。
「うん、そのつもり。一月の下旬に退院したけど、二月に遅れて登校って、なんか嫌じゃない。すぐに春休み入るし。一応、一年間休学の届け出してるから、一年遅れるけど、新入生として入学する方が断然、気持ち的に楽かな」
「そうか……」
それだけ? 短っ!? 高校名とか訊いてこないの? そんなに興味ない? なら、私から訊いてやる。
「蓮君って、どこの高校なの? 私は城東なんだけど」
「俺も、城東」
ボソリと蓮君は教えてくれた。
「……じゃあ、私の先輩になるんだね」
「やめろ」
露骨に嫌な顔をされたよ。地味に堪えるから止めてね。
そっか……城東なんだ。通うはずだった高校。一緒に通いたかったな。始めは友だちでいいから、隣に並んで歩きたかった。絶対叶わない夢だけど。
「しんどいのか?」
急に黙り込んだ私を心配してくれた。
なに、欲張ってるのよ。今、一緒にいられるだけで幸せなのに――
「大丈夫。ちょっと、疲れただけ。ご飯食べて休んだら元に戻るよ。だから、安心して」
なんとか、気持ちを切り替える。
ご飯食べて「帰ろう」って言われたら嫌。ほんの少しでも、蓮君と一緒にいたい。我儘で自分勝手な願いだってわかってる。それでも、願ってしまう。
「無理だけはするな。しんどかったら言え」
ぶっきらぼうな言い方だけど、ちゃんと心配してくれてるのが伝わってくるよ。
その度に、私の心がズキッと痛む。
「うん、わかった。ありがとうね、蓮君」
痛みを悟られないように微笑む。
ここで終わりにならなくて、本当によかった……
蓮君、君は私の身体を心配してくれるけど、その必要はいらないんだよ。私はどんなに動いても疲れたりしないから。
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