私は最後まで君に嘘をつく

井藤 美樹

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君と初めて会った日

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 蓮君が私の保護者なのには理由があるんだよね。あんまりにも、その時のインパクトが強過ぎて、今だに卒業できないのが悲しい。

 まぁ、無理もないかな。

 はっきり覚えてるよ、私が蓮君と出会った時のこと。それは、二月の終わり、初めて私が一人で外出した日だったの。

 雑誌を見て、チェックしていた水族館に行きたくて駅に来たのはいいけど、私、切符の買い方知らなかったんだよね。色んな路線があって、プチパニック。一人困っていると、呆れたように声をかけてきてくれたのが、蓮君だったの。他の人は、皆見て見ぬ振りをして避けてたのに。

「もしかして、あんた、切符の買い方わかんねーの?」

 強面の目付きの悪い男子に後ろから声をかけられて、ビックリしてビクついてる私に、少し苛つきながら、さらに彼は訊いてきたの。

「どこまで行くんだ?」

「……水族館に行きたくて」

 声、震えなくてよかった。

「あぁ、新しくリニューアルしたあの水族館か? なら、この駅だな。で、あんた一人で行くつもりなのか?」

「うん……」

 小さく頷くと、蓮君は大きな溜め息を吐いた。

「切符一枚買えない世間知らずが、一人で水族館に行くって、無謀すぎるだろ。乗り換えあるし」

 蓮君は心底馬鹿にした口調で言ってきた。新鮮で、嬉しい。さすがに、これ以上変な子って思われたくないから口にはしなかったよ。反論もね。蓮君の立ち位置だったら、同じこと思ったし。

 それでも、私は行きたかったの、どうしても!! だから、切符の買い方だけ教えてもらった。

「ご親切に、ありがとうございます」

 私は蓮君に軽く頭を下げてから、再度切符を買おとしたら、蓮君が隣で買ってくれて渡してくれたの。「ほら」ってね。

 ほんと、その時の蓮君って、やけにキラキラして見えてね、すっごく格好良かったの。私が君を好きになったのは、たぶん、この瞬間かな。

「ありがとう、切符代「いい」

 血液が一気に顔に集まるの自分でもわかったよ。真っ赤になりながらも、切符代を払おうとしたら、なんと蓮君が遮ったの。

「俺も一緒に行くからいい」

「えっ!?」
 
 耳を疑ったね。一気に、顔に集まっていた血液が戻ったよ。

 どういうこと!? 

 普通戸惑うよね、初対面だよ私たち。
 
 戸惑う私を無視して、蓮君はイラッとしながら怒鳴ってきた。まぁ実際は怒鳴ってはいないんだけど、私にはそれくらいのインパクトがあったの。

「グスグスするな、早く来い」

 口調は厳しいけど、それでも私が来るのを待ってる蓮君。付いて行くの一択しかないでしょ。

 当時の私はとても大胆だったと思うよ。初めての一人のお出かけで、かなりテンションが高くておかしくなっていたんだよね。警戒心皆無だと、後で蓮君に怒られたよ。いや、来いって言ったの君だよね。

「……連れて行ってくれるの?」

 人一人分開けて座る、私と蓮君。

「ああ。前から、俺も行きたかったからな。それに、今日暇だし」

 ほんとかな、でも隣に誰かいるのは嬉しい。

「ありがとう」

 少し緊張が取れて微笑む私に、蓮君は呆れながら睨んできたんだよね。普通、睨む?

「お前、どっかのお嬢様? 普通、切符の買い方ぐらい知ってるだろ?」

 当然の疑問だよね。

「……実は、今日、初めて一人で外に出たんだよね。ずっと入院してたから、電車に乗るのも初めてなの。移動は、いつも父さんの車だったから」

 同情されるの嫌だなって思っていたら、特に表情も口調も変えずに蓮君は言ったの。

「ふ~ん、なら、今日は楽しまないといけないな」

 恋に落ちたのは、君が切符を渡してくれた時。それが錯覚じゃないって思ったのは、この瞬間だった。

「イルカのショー見たい!!」

 ちょっとだけ、願望を口にしてみる。
 
「はいはい、わかったよ」

 乱暴な言い方だったけど、承諾してくれた。この時、私はとても嬉しかったんだよ、蓮君。



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