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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
歴史から消された姫聖女
しおりを挟む『エレーナ王女殿下は俺の姫聖女の生まれ変わりだ』
大狼様が告げた言葉に驚いたけど、ストンと私の中に落ちた。疑う余地なんてなかったよ。
「……だとしたら、王女殿下はこの屋敷を訪れ、隠れ家のように使用していたのは偶然とは言えないかも……過去世の記憶が残っているとは考えにくいけど、魂の記憶は残っていて、導かれるようにこの屋敷にきたのかもしれませんね」
そうでなければ、この場所に辿り着けないと思う。
『魂の記憶か……』
大狼様は寂し気な声でポツリと呟いた。そして、少し間を空けてから言葉を綴る。
『俺の姫聖女もエレーナと同じように薬草の研究を深夜までしていた。昔は今以上に治癒師に頼っていたからな。俺はそんな彼女の横で見守る時間が、なによりも幸せで掛け替えのない時間だった』
「とても大事になさっていたのですね……」
大狼様の姫聖女がいなくなっても、彼女が大事にしていた場所を護り続けるほどにーー
セシリアが隣で鼻をすすってるよ。王子様がだいなしだね。そういう私も目頭が熱くなってきたけど。
『大事にしていた。とてもな……でも、この国の民はシアの働きが当然だと受け止めていた』
シア? 大狼様の姫聖女の名前ね。
慈しんでいた声が次第に怒りを含んでいくのがわかった。
「どういうことですか?」
私の声も自然と低くなる。
『シアが発明した薬のおかげで、治癒師に診てもらえない国民が大勢助かった。聖女でありながらも、シアは治療師として活躍していたのだ。必死でシアは働いた。国民が少しでも幸せになるようにとーー初めは、国民たちはシアに感謝の気持ちを述べていた。しかし、年月が経つにつれて感謝する気持ちは薄れ、最後には、それが当然だと捉えるようになった』
大狼様から語られる言葉は、深い悲しみと怒りで満ちていた。
「……慣れてしまったのですね」
私にはわかる。というか、慣れてしまった人を村で見たことがあるの。その人は立て続けに不幸が襲い、最後はなにもしなくなった。諦めたというよりは慣れた感じだった。それが当たり前のように。モノを与えられ続けるのも同じことが起きるんだね。
そしてそのあとは……悲劇しかない。
『そう……慣れたんだ。慣れはさらなる欲求に繋がった。シアも一人のか弱い女だと、誰もが忘れてしまった。高熱を出して休めば非難の声が上がり、休憩をとればまた非難の声が出る。そんな状態が長く続くはずがない。シアは糸が切れたように倒れ亡くなった……俺は何度も、シアをそんな国民たちから隠そうとした!! だがシアは、悲しそうな顔で微笑みながら断ったんだ』
今でも悔しいんだろう。そうだよね、大切な人が傷付き苦しんで亡くなったんだから。大狼様の怒りは国民よりも自分に対してなのかもしれない。
『……本来なら、代替わりはもう少し先だったんだ。早まったのは、聖獣が祝福を与えられなくなったからだよ。幸せよりも憎しみの気持ちが勝ってしまったんだ。結果、十年、この国は災厄に見舞われ続けることになったんだよ』
ハクアの言葉が胸に刺さった。
災厄の十年ーー
それは、この国の歴史を勉強したら必ず習うこと。
なぜ災厄が訪れたのか、その原因は一切記されてはいない。ただ……その時に起きた事柄だけを淡々と記されていた。だから、私はそういう時期があったんだという思いしかなかった。セシリアもそう。
シアという女性が命をかけて、この国の国民を想い助け、頑張ってきたことは一切記されていない。だってそれを記せば、自分たちの非を公表することになるから。
涙が止まらなかった。ボロボロと泣きながら、私は溢れる言葉を口にした。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。なにも知らなくてごめんなさい。そして、護ってくれてありがとうございます」
私は何度も同じ言葉を繰り返しながら泣いた。
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