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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
抜け殻の正体
しおりを挟む本と紙が古くない……ペンもインクも…………
建物には歴史を感じるのに、テーブルの上に置かれている物からは感じない。生活感がしないから、誰かが住んでるようには見えないけど、誰かが利用しているようには見えたの。
たぶん……王女殿下だと思う。
王宮内だけど、この場所は離れた場所に建っている。隠れて実験するにはちょうどいい場所だよね。
「……よく、エレーナ王女殿下が薬草の改良と効能の効果を確かめる実験をしていました。あの椅子に座って、夜遅くまで」
女性は特に隠さずに答えてくれた。
夜遅くまでって……どうして、誰も気付かなかったの? 今も不思議だよ。侍女や近衛騎士とかが普通付いてるよね。
もしかして、付いてなかったの?
そういえば、侍女の姿は見たことがあるけど、近衛騎士の姿を見たことはなかった。
「……夜中まで作業をしてて、どうして誰一人知らなかったの? もしかして、近衛騎士が付いてないの?」
それっておかしなことぐらい私でもわかるわ。
付いてないんじゃない、付けられてないのよ!!
付けられてたら、王女殿下がどこでなにをしていたか報告されるよね。家族誰一人知らないってことは、つまりそういうことだよね。第二王位継承者だよ!! それっておかしくない?
『エレーナはいずれ、王位継承権を返上することになるんじゃないかな』
「聖女になるから?」
『聖女にならなくても、治療師として生きていくことになるから同じだよ』
いずれ王族から離れるから必要ないの!? 護る必要もないの? 聖女のスキルを持っているから? 誰よりも民の幸せを思う人なのに。
「そんなのおかしくない?」
私が不満を口にした時だった。
『俺もおかしいと思う。だが、それがこの王族の掟みたいなものだからどうしようもない。それに、今の俺にはなにもできないからな』
その声とともに登場したのは、銀色の大きな狼だった。女性が頭を軽く下げている。
つまりこの銀色の狼さんが、女性が言う主ってことよね……あれ? ハクアとよく似てる気がするんだけど……でも、聖獣様は一国一柱だよね。
『似て当然だよ。あれは元僕の抜け殻だから。正確に言うと、残留思念ってやつだよ』
「残留思念?」
『そう……この場に残ったただの残留思念だよ。そもそも、聖獣としての力は持ってないよ』
「どういうこと?」
さっきから訊いてばかりだね、私。
『ユーリアは聖獣のことをどこまで知っているんだ?』
大狼様がハクアに代わって尋ねてきた。
「聖獣様の役目は、世界が滅ばないように恩恵を国に与え続けること。でもそれには限りがあって、力が弱まってきたら、まだ国が恩恵に満ちている時に新しく生まれ変わると聞きました」
大狼様から視線を外さずに答えた。
『だいたいあってる……謂わば俺は先代だな』
「でも、それじゃあおかしくはありませんか? 聖獣様は国に一柱、先代がいるはずーー」
そこまで言って言葉が切れる。
ハクアはどう言ってた? 確か……抜け殻、残留思念だって言ってたよね。だとしたら、
『気付いたか? 今度の姫聖女は頭が切れるな』
『当然だろ、僕が選んだんだから。ユーリアの魂はとても綺麗だった。聖獣である僕が見惚れるくらいにね。だから、生まれ変わる前の魂に印を付けたんだ』
ドヤ顔で言ってるけど、結構、とんでもないことを言ってる自覚ある? あとで話し合いが必要だね。でも今は、大狼さんの目的を知ることかな。
「……大狼様は、この屋敷に残った思い出。そして、エレーナ王女殿下をそのまま大人にした女性は、大狼さんの姫聖女だったのではありませんか? 本人かどうかはわかりませんが……」
『ほぼ正解だ。彼女は姫聖女だった。でも、この場にいる彼女とは違う』
「その女性も思い出なのですね」
女性は小さく頷いた。
大狼様と白いローブの女性は、この屋敷に刻まれた記憶ーー
大狼様が認めてるし、ハクアの反応から見ても間違いない。だとしたら、残留思念が屋敷を離れて活動的になれるものかな?
『切っ掛けがあったからだよ』
ハクアの言葉に、私は王女殿下の顔が浮んだ。
「「エレーナ王女殿下」」
私とセシリアが同時に友人の名前を口にした。
まさかーー
『エレーナ王女殿下は俺の姫聖女の生まれ変わりだ』
大狼様は迷うことなく、キッパリとそう宣言した。
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