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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました

家族と幼馴染

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 私と王女殿下が盛り上がっていると、「……エレーナ」と呼ぶ声がした。

 声がした方に視線を向けると、王族御一家がそろってました。その様子を見て、バッチリ聞かれていたってわかったよ。正直、追いかけてきてくれて聞いてくれたらいいのにって思ってはいたけどね。

 王女殿下は、まさか聞かれてるとは考えてなかったみたいで、真っ赤な顔をして固まってるよ。誤解していたのは腹が立つけど、家族としての愛情はあるんだもの、追いかけてくるかもと、途中から期待していたけどね。ほんと良かった。

 確かに、一度付いたイメージはなかなか消えないけど、ボタンの掛け違いはなおすことはできるでしょ。

 私は固まってる王女殿下の背中を押してあげた。物理的にね。そうでもしないと、また逃げ出しそうだったから。王女殿下、意外と足速いから。

 ここからは家族の時間。

 私はソッとこの場から離れることにした。いつの間にか、セシリアが隣に立っている。目が合ったセシリアが微笑む。私も微笑み返した。

 黙って帰るわけにはいかないから、どこかで時間潰さないとね。そんなことを考えていると、建物の角で長い銀色の髪が視界に入った。

 私が知っている長い銀色の髪の人は一人しかいない。ましてや、ここは王宮内でもかなり奥。なら、必然的に可能性が縮まるよね。だとしたら、追いかける一択しかないわ。セシリアは渋々だったけど。

 視界に、銀髪の少女の背中が入る。私はその背中に向かって叫んだ。

「待ってください!! レイティア様!! レイティア様!!」

 何度か叫ぶと、ようやくレイティア様は止まってくれた。そして振り返ると小さな声で呟いた。

「……まだ、私をレイティアって名前で呼んでくれるのですね」

 やっぱり、レイティア様だった。

 レイティア様の声は少し震えていた。うつむいているのと日が暮れているせいで、表情がまったく読めない。

「私にとっては、レイティア様ですから」

 答えにはなってないわね。

「……私は貴女に酷いことを、最低なことを言ったわ。現実を放棄して、悪いことすべてを貴女のせいにした。勝手にパニックを起こして、貴女を責め立てた。あの状況で、冷静に判断できる貴女が怖いと思った……だから、拒絶してしまった。皆に軽蔑されて当然ですわ」

 もしかして、泣いてるのかな? これ以上近付いたら、絶対逃げられるよね。

「私は別に軽蔑はしていません。傷付きはしましたけど……それに、私の代わりに王女殿下とセシリアが怒ってくれたので、もういいです」

「……私は知らなかった。知ろうとも思わなかった。私の中でエレーナは、いつも問題児だったから。それにーー」

「自分の方が優秀だと思っていた」

 レイティア様の台詞を遮るようにセシリアが言った。

「…………ええ」

 消え入りそうな声でレイティア様は認めた。

「確かに、貴女は冷静な判断をするユーリアが怖いと思ったのかもしれない。でも、それだけですか? あの時、気付いたのではないですか? 本当は、自分よりエレーナ王女殿下が優れていると。すべてにおいて、圧倒的に自分が負けていると。それを認めたくなかったから、一番弱いユーリアを攻撃したのではないですか?」

 容赦ないセシリアの台詞に、レイティア様は黙り込む。さらにセシリアは続けようとしたけど、私は彼女の袖口を引っ張り止めた。代わりに、私が口を開く。

「……エレーナ王女殿下が優れているのは当たり前ですよ、レイティア様。私たちが束になっても超えれません。それほど、エレーナ王女殿下は優秀なんです。当然ですよ、彼女は私たちが現実しか見ていないなかで、常に未来を見ていたのだから。そして考え、学び、実践した。し続けた。ただ一人で……そんな人に勝てますか?」

「…………」

 レイティア様は答えない。私は続けた。

「今は勝てなくても、未来は勝てるかもしれませんよ。少なくとも、近付けるかもしれない。良い機会ではありませんか、未来を考えてみるのも」

 これは私自身にも言えることだよね。そんなことを考えていると、レイティア様はさっきまでの弱々しい声でなく訊いてきた。

「……貴女、本当に七歳なの?」

「同じようなことを今まで何度か訊かれましたが、私は正真正銘、七歳ですけど」

「大人と話しているみたいですわ」

 一応褒められてるのかな……なんか複雑。

「そうですか?」

 そう答えると、レイティア様は私たちに背を向けた。

「今ここで話したこと、そして、エレーナが中庭で言ったこと、よく考えてみますわ」

 硬い声でそう告げると、レイティア様は走り出した。

 私はレイティア様と少しでも腹を割って話せてよかったと思ってたのだけど、セシリアは違ったみたい。プンプンと怒っている。

「最後まで謝らなかった」

 それが理由らしい。

 確かに、レイティア様は私に対して謝罪はしなかったし頭も下げなかったけど、自分の非をちゃんと認めてくれた。私はそれだけでよかったんだけどね。セシリアは納得してないみたい。

 でもまぁこの件がきっかけで、王女殿下とレイティア様が一度でも向きあって話せたらいいなぁって、心から思ったんだ。レイティア様次第しだいだけどね。


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