68 / 74
第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
家族と幼馴染
しおりを挟む私と王女殿下が盛り上がっていると、「……エレーナ」と呼ぶ声がした。
声がした方に視線を向けると、王族御一家が揃ってました。その様子を見て、バッチリ聞かれていたってわかったよ。正直、追いかけてきてくれて聞いてくれたらいいのにって思ってはいたけどね。
王女殿下は、まさか聞かれてるとは考えてなかったみたいで、真っ赤な顔をして固まってるよ。誤解していたのは腹が立つけど、家族としての愛情はあるんだもの、追いかけてくるかもと、途中から期待していたけどね。ほんと良かった。
確かに、一度付いたイメージはなかなか消えないけど、ボタンの掛け違いはなおすことはできるでしょ。
私は固まってる王女殿下の背中を押してあげた。物理的にね。そうでもしないと、また逃げ出しそうだったから。王女殿下、意外と足速いから。
ここからは家族の時間。
私はソッとこの場から離れることにした。いつの間にか、セシリアが隣に立っている。目が合ったセシリアが微笑む。私も微笑み返した。
黙って帰るわけにはいかないから、どこかで時間潰さないとね。そんなことを考えていると、建物の角で長い銀色の髪が視界に入った。
私が知っている長い銀色の髪の人は一人しかいない。ましてや、ここは王宮内でもかなり奥。なら、必然的に可能性が縮まるよね。だとしたら、追いかける一択しかないわ。セシリアは渋々だったけど。
視界に、銀髪の少女の背中が入る。私はその背中に向かって叫んだ。
「待ってください!! レイティア様!! レイティア様!!」
何度か叫ぶと、ようやくレイティア様は止まってくれた。そして振り返ると小さな声で呟いた。
「……まだ、私をレイティアって名前で呼んでくれるのですね」
やっぱり、レイティア様だった。
レイティア様の声は少し震えていた。俯いているのと日が暮れているせいで、表情がまったく読めない。
「私にとっては、レイティア様ですから」
答えにはなってないわね。
「……私は貴女に酷いことを、最低なことを言ったわ。現実を放棄して、悪いことすべてを貴女のせいにした。勝手にパニックを起こして、貴女を責め立てた。あの状況で、冷静に判断できる貴女が怖いと思った……だから、拒絶してしまった。皆に軽蔑されて当然ですわ」
もしかして、泣いてるのかな? これ以上近付いたら、絶対逃げられるよね。
「私は別に軽蔑はしていません。傷付きはしましたけど……それに、私の代わりに王女殿下とセシリアが怒ってくれたので、もういいです」
「……私は知らなかった。知ろうとも思わなかった。私の中でエレーナは、いつも問題児だったから。それにーー」
「自分の方が優秀だと思っていた」
レイティア様の台詞を遮るようにセシリアが言った。
「…………ええ」
消え入りそうな声でレイティア様は認めた。
「確かに、貴女は冷静な判断をするユーリアが怖いと思ったのかもしれない。でも、それだけですか? あの時、気付いたのではないですか? 本当は、自分よりエレーナ王女殿下が優れていると。すべてにおいて、圧倒的に自分が負けていると。それを認めたくなかったから、一番弱いユーリアを攻撃したのではないですか?」
容赦ないセシリアの台詞に、レイティア様は黙り込む。さらにセシリアは続けようとしたけど、私は彼女の袖口を引っ張り止めた。代わりに、私が口を開く。
「……エレーナ王女殿下が優れているのは当たり前ですよ、レイティア様。私たちが束になっても超えれません。それほど、エレーナ王女殿下は優秀なんです。当然ですよ、彼女は私たちが現実しか見ていないなかで、常に未来を見ていたのだから。そして考え、学び、実践した。し続けた。ただ一人で……そんな人に勝てますか?」
「…………」
レイティア様は答えない。私は続けた。
「今は勝てなくても、未来は勝てるかもしれませんよ。少なくとも、近付けるかもしれない。良い機会ではありませんか、未来を考えてみるのも」
これは私自身にも言えることだよね。そんなことを考えていると、レイティア様はさっきまでの弱々しい声でなく訊いてきた。
「……貴女、本当に七歳なの?」
「同じようなことを今まで何度か訊かれましたが、私は正真正銘、七歳ですけど」
「大人と話しているみたいですわ」
一応褒められてるのかな……なんか複雑。
「そうですか?」
そう答えると、レイティア様は私たちに背を向けた。
「今ここで話したこと、そして、エレーナが中庭で言ったこと、よく考えてみますわ」
硬い声でそう告げると、レイティア様は走り出した。
私はレイティア様と少しでも腹を割って話せてよかったと思ってたのだけど、セシリアは違ったみたい。プンプンと怒っている。
「最後まで謝らなかった」
それが理由らしい。
確かに、レイティア様は私に対して謝罪はしなかったし頭も下げなかったけど、自分の非をちゃんと認めてくれた。私はそれだけでよかったんだけどね。セシリアは納得してないみたい。
でもまぁこの件がきっかけで、王女殿下とレイティア様が一度でも向きあって話せたらいいなぁって、心から思ったんだ。レイティア様次第だけどね。
30
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
聖女ウリヤナは聖なる力を失った。心当たりはなんとなくある。求められるがまま、婚約者でありイングラム国の王太子であるクロヴィスと肌を重ねてしまったからだ。
「聖なる力を失った君とは結婚できない」クロヴィスは静かに言い放つ。そんな彼の隣に寄り添うのは、ウリヤナの友人であるコリーン。
聖なる力を失った彼女は、その日、婚約者と友人を失った――。
※以前投稿した短編の長編です。予約投稿を失敗しないかぎり、完結まで毎日更新される予定。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる