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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました
我儘王女の想いと私の想い
しおりを挟む「家族に、レイティア様に誤解されたままでは辛くはありませんか?」
私がそう問いかけた言葉は、王女殿下から言葉を奪った。
「…………」
「私なら辛いです。一番、自分を見てくれているはずの人たちから誤解されたまま、酷いことを言われ続けるのは……」
私がそう言うと、王女殿下は私を抱き締めた。
「いいのよ、もう慣れたから。期待はしていないわ、するだけ無駄だから。確かに私は、昔から破天荒な所はあったわ。でもそれは、私なりに本で書いてあることを確かめたかったから。家庭教師はそれは必要ないって言ったから、認めてくれなかったのよ。でも、私は必要だと思った」
「……家族に相談しなかったのですか?」
「相談したわよ。でもね、大人は、私ではなくそれなりの地位がある者の言葉を信じるの。そして、一度付いたイメージはなかなか消せないのよ」
王女殿下が言ったことは、なんとなくだけど私でもわかった。結構、似たようなこと平民の世界でもあるからね。
学園内の私のイメージもかなり悪目立ちしてるし。でも私には、素の私を知っているセシリアが近くにいてくれた。ジュリアス様もライド様も素の私を知っている。
だけど、王女殿下には……
「……それでも、エレーナ王女殿下は続けたのですね」
「必要だと思っていたから。それにしても、よくわかったわね?」
とても強い人だと思った。信念っていうのかな、芯が一本通ってる。持続するだけですごいことだよ。
抱き締めていた王女殿下の手が緩んだ。私は抜け出すと答えた。
「さっきも話しましたが、話せばわかりますよ。だって、エレーナ王女殿下が発する言葉には重みがありますから」
「重み?」
今度は、王女殿下が首を傾げた。
「例えば、この前、かつて王国で流行った疫病の話が出ましたよね、その時、エレーナ王女殿下は本で書いてあること以外のことを教えてくれました。薬草をただ煮出すよりも、すり潰して撹拌しながら煮出す方が効能が高くなるって。それって、実際に試したからではありませんか?」
「まぁ……そうだけど」
やっぱり、そうだ。王女殿下は地道に研究してたんだ。
「それと、何度か学園内にある王女殿下の部屋にお邪魔した時、本が無造作に積み重なっていました。本棚に並ぶ本もです。たぶん、それを見て、レイティア様は勘違いされたのでしょうね。でも……よく見たら気付いたんです。本棚の本、タイトル順でも文献の種類でもなくて、過去に起きた疫病や特定の薬の効能によってまとめられてるって。それって、かなり文献を読みあさらないとできませんよね」
私がそう言うと、王女殿下はびっくりした顔をした。
「それがわかるユーリアも、相当なものだと思うわ。今まで誰一人も気付かなかったのに」
王女殿下の言葉に私は小さく首を横に振る。
「私は貴族ではありません。なので、皆様が幼い頃からする勉強をしてはいません。それを補うには、人より知識を得なければならない。幸い本が好きだから、苦には感じませんけど……気付いたのもたまたまです」
「それでも、気付いたのはユーリア一人」
王女殿下はとても嬉しそうに笑った。心からの笑顔が見れて嬉しくて私も笑った。ひとしきりに笑ったあと、王女殿下は言ったの。
「私ね……ずっと考えていたの。治療師だけを頼ってはいけないって。軽いものは自分で治すべきだってね。ユーリアには当たり前のことだけど、貴族やお金を持っている商人は違うわ」
そもそも、田舎の村に聖女、もしくは聖女のスキルを持った人はいないからね。医者もいないし。だから、自分たちでどうにかするしかない。
この王国に存在する聖女は、穢れを浄化するのが仕事。怪我を治したり病気を治したりはしていない。代わりに、聖女のスキルを持った人が治療師として活躍しているって習った。だから、聖女になれなかった者の大半は治療師になるって聞いたわ。
「それは治療師の数が少ないからですか? そうですよね……聖女のスキルを持った人自体少ないもの、当然、治療師の数も少ないですよね」
「そう!! なのに、馬鹿貴族や成金商人が数少ない治療師を何人も抱え込んでるのよ!! そのせいで、治療を受けるべき人が受けれない!! それって、おかしなことだと思わない!! まぁ……そういう私たち王族にも、お抱えの治療師が何人もいるのだから、私が言っても説得力はないのだけど……」
そこまで聞いて気付いたよ。
「だから、エレーナ王女殿下は研究してたのですね。治療が受けれない人のために」
「王族って言っても、私はただの我儘王女にすぎないわ。その発言に力なんてない。そんな私が貴族たちにいくら言っても鼻で笑われるだけ。そんなの時間の無駄でしょ」
不思議だよ。どうして、この人を我儘王女なんて皆思ったんだろう。こんなに王国の民のことを真摯に考えているのに。理不尽だよ。
「私も手伝います!! 民間療法なら私も知ってることありますし。あっでも、平日ならですけど」
「ほんと!!」
とても良い笑顔で王女殿下は笑う。今まで見た中で一番の笑顔だった。
休日は他の古竜様たちの所にいく用事があるから無理だけど、平日なら大丈夫。
素直に力になりたいと思ったの。そして、こんなに民を大事に思える王女殿下が護りたいものを、私も護りたいと心から思った。私の中で少しだけど、古竜様たちのこと、ハクアのことを考えるきっかけになったんだ。
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