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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました

カカの実

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「それにしても、あの宰相が笑うなんて……ありえないわ。見間違いでしょ」

 手をつないで連れてきてくるだけでも驚かれたよ。皆目が点になって、一時フリーズしてたからね。だからかな、笑った顔なんて想像できないって。王女殿下が言うには、産まれてから一度も笑顔を見たことがないらしい。なので、はなから信用してもらえないの。

「宰相様はあまり表情が変わらない方でしたが、ちゃんと微笑んでました。一瞬だったけど」

「見間違いじゃなくて?」

 まだ言うのね。

「見間違いじゃありません。ちゃんと二回微笑んでくれました!!」

 ムキになっちゃったよ。確かに、あまり表情が動く人じゃなかったし、眼力も強くて、近寄りがたい雰囲気がしてたけど、とても良い人だ。宰相様に良い人っていうのは、少しいけないかもしれないけど。

 興奮しながら王女殿下に抗議してると、隣に座っていたセシリアに両肩を掴まれた。

 えっ!? なに!?

「……さすがユーリア、難攻不落の宰相様を落としたんだね」

 セシリアがまた馬鹿なことを言ってきた。普段はしっかりして頼れるのに、たまにポンコツになるんだよね。王女殿下と親密になってから、その頻度ひんどが多くなった気がする。

「…………はぁ!?」

 呆れて、なにも言えないよ。落としたってなに? そもそも、なにを落とすの? それに、相手は宰相様だよ。意味わかんない。

「そうですわね……ユーリアの愛らしさと賢さを目の当たりにしたら、たいていの大人は簡単に落ちるわ」

 セシリアのポンコツさが感染ったの王女殿下。

「なに言ってんの? この人たちは?」

 完全に敬語忘れてわ。友だちだけど引く。その態度と言動に不敬って怒られちゃうかもしれないけど。

「わからないのは、ユーリアだけだよ」

 セシリアがそう言うと、王女殿下も頷きながら言った。

「……貴女たちの中で、私はいったいどう認識されてるのですか?」

 思わず、いちゃったよ。

「カカの実かしら」

 王女殿下の答えに私は首を傾げる。

 カカの実ってお菓子を作る原料の実だよね。そのまま食べたら苦すぎて無理だけど、加工したら、とても美味しくなるの。カカの実を粉にした飲み物は、冬場ホットミルクに入れて飲んだら甘くて最高なんだよ。お父さんやお母さんは、それにちょっとお酒を入れて飲んでいる。

「カカの実?」

「そう、カカの実。実を見ただけでは、食べ物だとわからない。ましてや、そのままだと苦くて食べれませんわ。だけど加工したら、様々なお菓子や飲み物、スパイスにもなります。そうね……ユーリアもそう。話さなければ、ユーリアが優秀で可愛い存在とは気付かない。深く付き合えば付き合うほど、ユーリアは私に様々な顔を見せてくれる。カカの実に似てるでしょ」

 ドヤ顔で言われてもわかんない。でも、認めてくれてるのだけはわかる。正直、微妙だけどね。だけど、それは私の感想。隣に座るセシリアと頭にいるハクアは違ったわ。目から鱗落ちたかのように、目をキラキラして大きく頷いてる。

 その説明でわかったの……?

 またしても若干引いてると、扉の方から笑い声が聞こえてきた。バッチリ、聞かれていたみたい。

「……カカの実ね……確かに、そうだね」

 ここにも、納得している人いたよ。

 王女殿下のお兄様王太子殿下だ。ここ王宮だもの、いて当然だよね。レイティア様のお兄様の件以来会ってなかったわ。あっでも、ちゃんと謝罪は受け取ったよ。手紙だったけど。添えられてたお菓子、すっごく美味しかったよ。なぜか次の茶会には、そのお菓子がテーブルに並べられていた。

「お兄様、ノックもなしに入ってくるなんて、マナー違反ですわ!!」

 王女殿下が王太子殿下に怒る。

「したよ、ノック。話に夢中で気付いてなかったみたいだけど。声もかけたからね」

「聞こえませんでした。それで、用件はなんです? 用もなしにきたわけじゃないでしょ」

 そう言われたら、王女殿下はなにも言い返せない。ムスッとした顔をする王女殿下に、王太子殿下は苦笑しながら言った。

「そう、じゃけにしなくてもいいだろ? 可愛い妹の友だちに会いにきたのが、そんなに悪いことかな?」

「お兄様は呼んではいませんわ」

 そう言ってるけど、王女殿下、王太子殿下のこと大好きなんだよね。絶対、悪口言わないもの。ツンデレだよね。そんな王女殿下のことを、王太子殿下はちゃんと可愛がってるし。ほんと、仲の良い兄妹だよね。

 私も会いたくなっちゃった。そろそろ産まれるはずだけど。産まれたら一度帰りたいな。学校が休みじゃないと無理だけどね。なんせ、片道だけで急いでも二週間かかるから……

「父上と母上からの伝言だよ、晩御飯、一緒に食べようって」

 両親のことを思い出してたから、一瞬、反応が遅れたよ。

 えっ!? えーー!!

「ば、晩御飯を一緒に……無理、無理です!!」

 理解した途端、速攻で断ったよ。だって付け焼き刃のマナーだし、そもそも私平民だよ。そんな私が、この国で教皇様に継ぐ偉い人とのご飯なんて、絶対無理!! どんな苦行よ。

「僕はあくまで、伝言を伝えにきただけだからね。それじゃあ、またあとで。セシリア嬢、ユーリア嬢」

 そうにこやかに微笑むと、王太子殿下は華麗に退場していった。

 私も退場していいかな? うん、ダメだよね……


 
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