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第六章 田舎娘なのに王城に招かれました

宰相様

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 ちょっと、お手洗いを借りただけなんだけど……ここはどこ? さっきまで、私たちがいた庭じゃないよね。似てるけど違う。植わっている花が違うもの……もしかして、迷った? そもそも、王宮って広すぎるのよ!! っていうか、なんで、お庭が何個もあるのよ!?

『ユーリアって、方向音痴だからね……』

 悟ったかのように呟くのは、聖獣ハクア様。

『頭の上でボヤくのなら、間違える前に教えてよ!!』

 王宮だからね、誰の目があるかわからないから、念のために念話で文句を言った。辺りを見渡すけど、誰もいない。どうしようかと悩んでいると、意外に早く助け舟が現れた。

「君は、第一王女殿下のご友人か?」

 とても渋い声で、そう話しかけられた。

 振り返ると、三十代前半ぐらいの偉いおじさんが立っていた。なぜ偉いって思ったのかって、しわ一つない私服を着て王宮内にいるんだもの、それなりの地位にいる人だよね。それ以外なら、皆制服を着てるはずだからね。だから、私は慣れないカーテシーをしてから答えた。

「はい、ユーリアと申します。第一王女殿下様にご招待をいただき遊びにきたのですが、道に迷ってしまい困っていました」

 なぜかおじさん、ジッと私を見てるし、視線が痛いよ~

「……なら、私が送ろう」

 少し考えてからおじさんは言った。さりげに、手を繋いでくれた。子供でもいるのかな。知らない人に手を繋がれたら普通なら嫌がるんだけど、なぜか振り払ったりはしなかった。なんとなく、親近感があるんだよね、このおじさん。

「ありがとうございます」

 私は素直にお礼を言った。ありがとうとごめんなさいはちゃんと言わなきゃね。

「……君は変わっている。私が怖くはないのか?」

 そう訊かれて私は見上げる。おじさんと目が合った。

 怖い? 特に、強面でもないよね。反対に、とても綺麗な顔してるけど。

「怖くはありません」

 素直にそう答えたよ。そしたら、おじさん、少しビックリしたようで目を見開いていた。

「……本当に変わっている。それに、無警戒すぎる」

「無警戒ですか?」

「そうだ。見知らぬ人の手を簡単に握るものではない」

 いや、掴んできたのは自分だよね。

「確かにそうですね。でも、おじさんは信用できます」

 要職のある人をおじさん呼びしてよかったのかな? 家名知らないからしかたないよね。

「私を信用すると……初めて会った人物なのにか?」

 感情がまったく見えないほど澄んだ目で、おじさんは尋ねる。怖いって言われてるのは、この目のせいかな? 私は綺麗だって思うけど。

「言われてみれば、そうですね。怖くないのは、私の知っている人に似ているからかもしれません。それに、この場で犯罪は犯せないでしょ」

 私がそう言うと、おじさんは笑った……かのように見えた。錯覚だと思えるほどの短い時間だったけどね。

「確かにそうだ。この場で犯罪は犯せない。君は本当に変な子だ。だが、いい」

 一応、褒められてるのかな? 

「ありがとうございます」
 
 とりあえずお礼を言ったら、おじさんは足を止め頭を下げた。

「礼と謝罪が遅くなった。我が娘を助けてくれて感謝する。そして、我が娘と嫡男の非礼、心から詫びよう」

 私が警戒しなかったのは、レイティア様のお父様だったからね……ということは、宰相様? なら、宰相様の登場タイミング良すぎるよね。たぶん、わざわざ私に会いにきたんだと思う。

「宰相様、礼も謝罪も必要ありません。私は怒ってはいませんから。だから、顔を上げてください。宰相様が平民に頭を下げてる場面、ほかの人に見られたら大変ですよ」

「礼と謝罪に身分は関係ない」

 宰相様ははっきりと断言する。

「…………」

 今度は私の方がビックリしたよ。とっさに言葉が出てこない。

「おかしなことを言ったか?」

「……いえ、ちょっとビックリしただけです」

 まさか、宰相様がそんなことを言うなんて想像してなかったよ。

 私の答えに、宰相様は苦笑する。

「我が娘も嫡男も、そのように育てたつもりだったのだが……」

 自嘲気味に呟く宰相様。この人は家族を愛せる人だと思った。私のような子供が言う言葉がなぐさめにはならないと思うけど、それでも、少しでもその気持ちが軽くなることを願って口を開く。

「……それは難しいと思います。この世界に、身分制度がある限り。理想を語ることができても、頭で理解していても、それを実践できる人は少ないのが現実でしょう。それは仕方ないことだと思います。その中で、宰相様や第一王女殿下様はとても珍しいです。それでも、そういう方が増えればいいなと、私は願ってます」

 レイティア様は王女殿下のように実践はできなかったけど、少なくとも、表面上では私を見下しはしなかった。お兄様はまた違うけどね。

「ならば、私はそのような国がくるよう頑張らなくてはならないな」

 私の気持ちが伝わったのか、フワッと宰相様が微笑む。すぐに真顔になるけど。

「宰相様ならできますよ」

「できるだろうか?」

 正直、難しいと思う。でも、しようとすることが大事なんだよ。

「もし、宰相様の時代でできなくても、宰相様の想いを引き継いだ方が次の宰相様になったら、いつかはできると思います」

 また、目を見開く宰相様。

「……ユーリアなら」

「私がなにか?」

 そう問いかけた時、宰相様を呼ぶ文官様の声が聞こえてきた。

 私を近衛騎士に預けてくれてくれてもよかったのに、責任感の強い宰相様は文官様を待たせて、約束通り私を送ってくれた。

 私と手を繋いだ宰相様との登場に、目をまん丸くした王女殿下とセシリアに尋問されたのは言うまでもないよね。

 

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