61 / 74
第五章 田舎娘が竜の愛し子になりました
この時点から始まるかもね
しおりを挟むようやく着いたよ……
あ~炎狼さんの出迎え可愛いなぁ。額に小さな青白い炎があるから、炎狼って言われてるんだね。頭撫でても大丈夫かな? ほんと、可愛い。自分から頭擦り寄せてきてくれた。でも、不思議と熱くないの。なので、じゅうぶんにモフらせてもらいました。一緒にいた小鳥さんの頭も。たぶん、この小鳥さんが火の精霊王なんだよね。流れ的に。
「ユーリア、そろそろ現実を見た方がよいぞ」
黒竜王様の言葉に、私は無理矢理に現実に引き戻された。あえて、視界にいれないようにしてたのに。
……これ進まなきゃいけないの? できれば進みたくないよ。人族には恐怖心があるんだよ。生存本能が進むのを拒否してるの。
「……俺の家、きてくれないだ~そっか、しかたないよな。場所が場所だし……せっかく、ユーリアが好きなお菓子用意したのに……」
赤竜王様、めちゃくちゃ落ち込んで地面にのの字書いている。結構な数になっていた。
皆責めるけどさ……私が二の足を踏むのもしかたないよ。だって、赤竜王様の家と庭の外堀には、ボコボコと泡を噴いてるマグマだよ。ましてや、その家に行くまで約一メートル幅の石の通路。今まで歩いてきた通路よりもかなり狭いよ。いくら、落ちても大丈夫って言われても、落ちたくないよね。
チラチラと赤竜王様が見てくる。黒竜王様とハクアの視線がグサグサと突き刺さるよ。
「わ、わかったわよ、いけばいいんでしょ」
もう、ヤケクソよ!! 落ちても大丈夫って言葉信じてるからね。
「ユーリア様」
腹を決めた私のすぐ側に、ライド様が立っていた。そして、短く「失礼します」とライド様は声をかけると、フワッと私の身体が宙に浮いた。なっ、なんと、ライド様に横抱きされたよ。
「ちょ、ちょっと、ライド様!!」
「お静かに、暴れると落ちます。このまま私がユーリア様を運びますから」
横抱きは恥ずかしいけど、助かったよ。正直、足が竦んでたから。
「それはならぬ」
黒竜王様が低い声で言い放った。ライド様の足が止まる。
『ここから先は、ユーリア一人でいかないとダメだよ。契約に必要なことだからね。黒竜王の時もそうだったでしょ』
ハクアが黒竜王様の代わりに教えてくれた。
思い返してみれば、色々おかしなことがあったよね。赤竜王様の加護で護ってくれてるからマグマの側を歩いても大丈夫だったこと。人がいることができない場所でも平気だったし。
でも一度も、赤竜王様も黒竜王様も契約を交わしたとは言わなかった。交わそうとも言わなかった。
契約と加護はセットじゃないかも。
さっきまで抱っこしてたのに、契約はかわされていない。額を合わせてないからかもしれないけど。黒竜王様やハクアの言う通りなら、契約条件があるって考えるのが自然だよね。
「……大丈夫。ライド様、下ろしてください」
私がそう言うと、ライド様は素直に下ろしてくれた。私は家のある方に視線を向けてから、赤竜王様に視線を向ける。
「赤竜王様、契約はあの家の中でないと交わせないんですね?」
確信を持って尋ねる。
「そう。そして、あの家に入れる人族は〈竜の愛し子〉だけ」
だったら、初めからそう言ってくれたらいいのに。そこが、黒竜王様や赤竜王様の優しさなんだけど。だから、黒竜王様も赤竜王様も、私を家に招くことに躍起になってたんだね。納得したわ。他で契約を交わせるなら、こんなまどろっこしいことしないよね。それに、契約のためだけに私を家に招いたとは思えないし。少なくとも、黒竜王様は違った。鈍感な私でもわかるよ。
私は軽く息を吐き出すと言った。
「わかりました……こうなったら、腹を決めるわよ!!」
ここで、ジュリアス様とライド様はお留守番。私は通路の前で足を一旦止める。
「下を見ないようにな」
「それ、高い場所で言うセリフ」
思わず、苦笑が漏れちゃったよ。
『ゆっくりでいいからね、頑張って』
ハクアが応援してくれたよ。
うん、頑張るね。
黒竜王様の時はなにも知らないで足を動かしていた。でも今回は、すべてを承知して足を動かす。本当の意味での、私の〈竜の愛し子〉生活はこの時点から始まるかもね。
20
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる