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第五章 田舎娘が竜の愛し子になりました
黒竜王様の恩情
しおりを挟む声がする方を見れば、赤い空飛ぶトカゲ、いや、赤い竜が腕を組んで私たちを見下ろしていた。なんか、不機嫌な感じ。でも、カッコよくて可愛い。身体の色が違うだけで黒竜王様とそっくりだね。
その行動もそっくりだよ。一週間前にも同じ経験したよね……場所違うけど。
「……赤竜王様ですか?」
念のために訊いておく。百パーセント赤竜王様だと思うけどね。
「なかなか、おもしろい娘だよね、今回の〈竜の愛し子〉ちゃんは。黒ちゃんに会ってるのに、この俺を赤いトカゲだってさ。ショックだな~」
古竜様の一柱なのに口調が軽っ。そういえば、こんな話し方をする人が村にもいたよね。確か……片っ端に女の人に声をかけていた。
「俺、軽くないからね。むしろ、ここに女の人いないからね」
あいかわらず、考えごとが筒抜けだよね。
「あっ、それはわかってます」
平然とそう答えたら、ライド様とジュリアス様に腕をガシッと掴まれ、数メートル後ろに下がった。えっ、なに!?
「ユーリア、も、もしかして、古竜様たちは私たちが考えていることを読めるのですか!?」
「ユーリア、古竜様をトカゲって、ましてや遊び人だって、失礼すぎる!?」
ジュリアス様に詰め寄られ、ライド様には怒られたよ。
「読めますよ。そんなに驚かなくても……ハクアも同じだし、特に珍しくはないのでは。ほかは第一印象ですね」
「……聖獣様も心を読む?」
ジュリアス様が呆然としながら訊いてきたので、教えてあげた。
「読みますよ。えっ!? 知らなかったんですか!?」
ほんと、これには驚いたよ。私よりも長くハクアと一緒にいたジュリアス様とライド様が知らないなんて……もしかして、わざと教えなかったの!?
『別に聞かれなかったし、わざわざ教えることでもないよね』
いや……それって、確信犯じゃない。可愛い姿して、ハクアって意外に腹黒なんだよね。
『その言い方は酷い!! ただ賢いだけだよ』
猛抗議する姿も可愛い。
「自分で言う? でもまぁ、ハクアって賢くて物知りだよね。いつも、私を助けてくれるし……話がそれましたけど、ジュリアス様、ライド様、ハクアは普段は読まないようにしていますけど、読めます。それよりいいんですか? 黒竜王様も赤竜王様も待ってますよ。あれ? いない」
前半はハクアに、後半はジュリアス様とライド様に向かって言った。
黒竜王様と赤竜王様の方に視線を向けるといなかった。怒って、先にいっちゃったのかな? でも、違ったみたい。
足元にいたハクアが口を開きかけたと同時に、ジュリアス様とライド様が飛び退いた。普段、冷静沈着な二人が焦る姿は結構新鮮だったよ。
「我を無視するではない」
「そうだよ。無視されると、俺悲しくなっちゃう」
黒竜王様と赤竜王様の声が耳元でした。
いきなり近くにこられたら焦るよね、ジュリアス様もライド様も。
「今回は、俺がここでいいよね」
黒竜王様とハクアに一方的にそう告げると、赤竜王様は私の腕の中にスッポリとおさまった。しっとりとくるこの肌触りも格別。
「しかたないの」
黒竜王様はそうボヤくと私の肩に乗った。まるで肩車しているように。椅子取りゲームに負けたハクアは、すっごく機嫌が悪くなってる。ガラが悪くなってるわ……目がすわって舌打ち打ってるし。一応、聖獣様だよね。普通、その顔も舌打ちもアウトだよ。
二人の古竜様に見下されて、ニヤリと笑われてハクアは完全にプチンと切れたみたい。無理矢理に背中から登ってくると、私の肩の上にしがみついている。
さすがに、重いんだけど……
「しょうがない。なら、これでどうだ?」
黒竜王様がなにかしてくれたみたい。身体が軽くなったよ。
「ユーリアの身体に強化魔法をかけた。これで、我らを楽に運べるはずだ」
抱っこのためだけに強化魔法かける!? どうしても、抱っこされたままがいいってことだよね。甘えただけど、可愛いから許す。
「そちらの無礼は許そう。我が愛し子が信頼している保護者だからな。だが、次はないぞ」
赤竜王様の寝床に向かう前に、ジュリアス様とライド様は黒竜王様からピシャリと怒られてた。
『ありがとうございます、黒竜王様』
ハクアに念話ができるんだったら、黒竜王様たちにもできるよね。
相手は古竜様。この世界で偉い神様だからね、怒られるだけですんだのは、黒竜王様の恩情だよ。最悪、死んでてもおかしくない。もちろんそのことは、ジュリアス様もライド様も気付いているはず。二人の空気が変わったからね。
「こっちだよ、ユーリア」
赤竜王様の道案内で、私たちは赤竜王様の寝床に向かうことになったよ。でも行き先は、火山の火口口だよね……大丈夫かな。
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