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第五章 田舎娘が竜の愛し子になりました

怒ってたからね

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「撤回ですか? 私は間違ったことは言ってはいませんが」

 レイティア様のお兄様、ヤル気満々だわ。

「そうですか……あの場でなにがあったかも知らないで、ユーリアに対し罵詈雑言ばりぞうごん、許すことはできませんわ」

 王女殿下、顔が変わってる。王太子殿下、完全にのまれてるよ。ここはしっかりしてよ!!

「どうせ、皆、レイティアに嫌な役目を負わせたのだろう。私の妹は優秀だから」

 ただのシスコンだったよ。

「……逆ですよ。ローベル侯爵令嬢様はなにもできませんでしたよ。自分の意見も述べず、ただ震えるばかり、あのオリエンテーションの場で、私たちに気を配り、かつ、安全に活路かつろを導き出し導いたのはユーリアですよ!! 自分も怖かったはずなのに。ユーリアがいなければ、今この場に私たちがいることができなかったかもしれない!! 確かに、ローベル侯爵令嬢は優秀でしょう。王太子殿下にも覚えがめでたい。でもそれは、学園内だから。誰も襲ってはこない世界だけで発揮されるもの。これから先の未来、もし魔物討伐に駆り出された時、私の背中を任せれるのは、ユーリアとエレーナ王女殿下です。ローベル侯爵令嬢様には預けられない!!」

 一気に、セシリアはそう言い放った。

 ゼイゼイと荒く呼吸をするセシリアの肩を、王女殿下はポンポンと叩くと口を開いた。私やセシリアに見せる表情は柔らかいけど、ローベル侯爵子息に見せる表情はとても怖い。王太子殿下、完全に迫力負けしてるよ。

「よく言ったわ、セシリア。教えてあげましょう、ローベル侯爵子息様、私がなぜローベル侯爵令嬢に見切りをつけたのか。……突然、あのような場に落とされて、混乱し、恐怖するのは理解できますわ。私たちは甘い場所で生きておりますもの。なので、それをとがめはいたしません。だけど、あろうことか、必死で私たちを護ろうとしたユーリアを、犯人だと決めつけ、平民だから金が欲しいために起した犯行だとののしさげすむ発言をしたことを、私は許しはしません!! そのような卑怯者、視界にも入れたくはありませんわ!! たとえそれが、長年一緒にいた幼馴染でも。わかっていただけたかしら、ローベル侯爵子息様」

 セシリアも王女殿下もローベル侯爵子息を睨み付けている。その迫力に、彼はなにも言えず、一歩後ずさった。

「……セシリア、エレーナ王女殿下、ありがとうございます」

 私は胸が熱くなって涙があふれそうになったよ。

「礼を言わればならないのは、私ですわ」

「そうだよ。ありがとう、ユーリア」

 王女殿下とセシリアが私の頭を撫でながら言ってくれた。

「それで、ローベル侯爵子息様、なにかユーリアに言うことはないのかしら」

 私をセシリアに預け、王女殿下はローベル侯爵子息に向き合うと、冷たい声で言った。

「…………すまなかった」

「それだけですか。自分の愛する妹を救った方に対し、頭を下げ、お礼の一つも口にできないのですか」

 頭も下げず、渋々口にしたローベル侯爵子息に、さらに冷たい声で王女殿下は言い放つ。私は王女殿下の制服の袖口を掴み軽く引っ張った。

「ユーリア?」

「私は大丈夫です」

「だけど!!」

 私は軽く首を横に振る。そして、微笑みながら言った。

「私のために怒ってくれたセシリアとエレーナ王女殿下の気持ちで、胸はいっぱいだからいいです」

「……ユーリア」

 私は王女殿下の隣に立ち、ローベル侯爵子息と向き合う。

「高位貴族である貴方様が、一平民である私に対し、仮だとしても謝罪の言葉を口にするのは屈辱的なものでしょう。なので、貴方様の謝罪は受け入れます……ローベル侯爵子息様、これから先、お父上と同じように宰相を目指すのなら、客観的な目を持つことが必要だと思いますよ。特に、愛する家族が関係しているのなら。平民にも、貴方様と同じ心があることを忘れないでください」

 セシリアと王女殿下の気持ちが嬉しかったけど、怒ってたからね。はっきりと言ってやった。さすがに言葉を選んだけどね。セシリアと王女殿下が、とっても満面な笑顔で迎えてくれたよ。うん、ちょっと怖い。

 あ~あ、せっかくのお茶会、台無しになっちゃったな。もっとお菓子食べたかったのに。



 
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