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第四章 田舎娘と古代竜
光があれば闇もある
しおりを挟む「……いいですよ。特別になにかすることがありますか?」
そう答えた途端、黒竜王様の顔がすっごく明るくなったんだよ。それを見たら、この選択間違いじゃないって思える。でもまぁ、肩書きに潰されそうだけどね。
ハクアは渋々認めたみたいで、気に入らないのか不貞腐れてるよ。その姿も可愛いんだけどね。
「ありがとう!! 恩にきる。さっそく、契約を交わそう!!」
いやいや、そんなに急かさなくても逃げないって。
「わかりました」
私は笑いながら言った。
「こっちに来てくれ」
黒竜王様に言われて、私は黒竜王様の隣に異動した。立ったままの私の目線まで身体を浮かすと、「前屈みになって額を合わせる」と言われたので、言う通りにしたら、ヒンヤリとしたものが額に触れた。なぜか、こういう時、自然と目を閉じちゃうもんだね。一瞬だけど、額が熱くなった。すぐに治まって、目を開けると、黒竜王様と目が合った。
「これで完了だ。あとは、我を抱っこしろ」
「はい。かしこまりました」
私はそう告げると椅子に座る。すると、黒竜王様が私の膝の上に座った。意外にも、羽は邪魔にならないみたい。
斜め向かいに座ってるハクアと睨み合ってるね。視線を合わせてるだけなのに、バチバチと音がするなんて、小説の話だけかと思ってたよ。部屋内の家具とか置物もカタカタ鳴ってるしね。
『……ユーリア、約束破った』
ハクア、拗ねる拗ねる。
確かに、破ったね。一時間もしないうちに。でも、私が悪いわけないよね。不可抗力だよね。
「器が小さいな、聖獣」
黒竜王様が拗ねてるハクアを、おもしろいのか煽る。さすがに可哀想になったから、助け舟を出した。
「黒竜王様」
「なんだ、愛し子」
「他の古竜様たちには、愛し子がいるんですか?」
私の質問に、黒竜王様は首を傾げる。
「なにを言ってる? いるわけないだろ。我らの愛し子はユーリアしかおらぬ」
しれっとそんなことを言ってくれた。
「はいーー!? いやいや、聞いてませんよ!!」
焦る焦る。だって、そうでしょ。普通、それぞれにいるって思うよね。
「言ってなかったか。それは、すまぬ。〈竜の愛し子〉は古竜の愛し子だ。つまり、我ら七体の竜王の愛し子になる。ゆえに、我の契約は一つに過ぎぬ。ユーリアはあと六体の竜王に会い契約を完了してほしい」
なに、サラッと爆弾発言してくれてるのよ。これって、絶対確信犯だよね。そうだよね。黒竜王様、超機嫌がいいのが腹が立つ。
『……腹が立つなら、膝から下ろせばいいのに』
ハクアがポツリと呟く。
それができたらしてるわよ!! 完全にモフモフ以外にも目覚めちゃったみたい。あっ、でも、蛇はダメだからね。
「そうだ。ユーリアに言ってなかったな、我と契約を交わしたから、闇魔法が使えるようになったぞ」
「えっ…………? 闇魔法?」
嘘でしょ……聖女の私が闇魔法!? そもそも、聖女のスキル持ちは聖魔法しか使えないんじゃなかったの!!
「我は黒竜だぞ。闇を司る竜王、我と契約を交わしたのだ当然だろう」
「理屈ではそうだよね!! だけどねーー」
「闇は嫌か……ユーリアも悪だと思うのか……」
私の言葉を遮るように、黒竜王様が小さな声で苦しげに言った。
私は自分の言動が、知らず知らずに黒竜王様を傷付けていたことに気付いた。
そうだよね。闇が悪いことなんて一つもないわ。闇イコール悪と連想されがちだけど、悪事を犯すのは人であって、闇のせいじゃない。心に闇を背負っている人はいるけど、その闇と黒竜王様の闇は違う。根本的にね。
「……ごめん。私は悪だなんて思ってはないよ。そんなふうに思わせてしまって、ごめんなさい」
私は膝の上に座る黒竜王様の頭を撫でながら言った。
「……心からそう思っているのか?」
口調のわりに、声には自信がなさそう。視線も外して俯いてるし。
「私、思うんです。光があれば闇もあるのは当然だって。陽がさす場所とささない場所。闇魔法って、日影みたいなものだと思います。悪い意味じゃなくて。この世界に当然のように存在して、必要不可欠なもの。だから、古竜様なんだって」
私がそう告げると、黒竜王様は小さな声で「……ありがとう」と言ったの。私はハクアにするように、その身体をギュッと抱き締めた。
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