両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます

井藤 美樹

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第四章 田舎娘と古代竜

黒竜王様登場

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 どんなに叫んでも、訴えても、ここからは逃げ出せない。そもそも、そんな恐ろしいことできないよ。

 行くしかないんだよね……

 私は立ち上がり、大人しく待っていてくれた狼さんの頭を撫でる。リスさんは私にドングリをくれたよ。ありがとう。ほんとカワイイよ。『さっさとすませよう』って言うハクアに比べてね。

 私は大きな溜め息を吐いてから立ち上がる。膝についた土を払い落とした。グズグズしてても仕方ないからね。行こうとしたら、今度はハクアが地面に伏せていた。

「待たせたね、狼さん、リスさん。ありがとう、行こう」

 そう声を掛けると、ハクアが固まっていた。ガーンという副音声が聞こえるほどにね。

 数歩歩いても、ハクアは固まったまま、私は小さく息を吐いてから言った。

「なにしてるの? ハクア。置いてくよ」

『いいの? 怒ってない? ユーリア、僕のこと嫌いになったの? もう、一番じゃないの?』

 涙目で途切れ途切れに言う姿は、超カワイイ!! 

「嫌いになったりはしないって、前に言ったよね。それに、ハクアは私の一番だって言ったはずだよ。でも、可愛さはどうかな~」

 意地悪そうに笑うと、ハクアはむきになって言った。

『僕の可愛さにメロメロにならない、ユーリアはおかしい!! 僕が一番可愛いんだから!!』

「わかってないわね、ハクアは。可愛さには色々な種類があるのよ」

『だとしても!!』

 ブーブーと文句を言うハクアを私は抱き上げる。

 ほんと、ハクアは焼き餅焼きだよね。道端で鳴いてる猫にも機嫌が悪くするし。リスさんからもらったドングリをポケットに入れてるのも嫌がるし、肩に乗ってるのも嫌がってる。狼さんを撫でたのもね。でもね、私はモフモフ大好きなんだよ。色んなモフモフが!!  ここは、ハクアにも我慢してもらわないと。共存関係っていうのかな?

「私の腕の中と頭の上は、ハクアの特等席だよね」

『……そこは、ゆずらないから』

「うん」

 そう約束したんだけどね……その約束も、わずか一時間後には反古ほごにされてしまった。完全に不可抗力なんだけどね。



 歩くこと数十分間、私は巨大な洞窟の入口に立っていた。

「この先に、黒竜王様が……」

 狼さん、私の言葉理解してるよね。軽く頭を上下に動かしたあと、洞窟に入っていった。

 大丈夫だって言われても、やっぱり少し怖い。でも、勇気を振り絞って私は狼さんのあとを付いていく。私が足を踏み入れた途端、洞窟内が明るくなった。

「……結構、広いんだね」

『一応、竜の寝床だから』

「でも、それにしたら狭くない?」

 大型の魔獣なら余裕の広さだけど。竜って、大型の魔獣の十倍以上の大きさだよね。見たことはないけど。

「本来はな。いつもその大きさなら、場所をとるではないか」

 やけに渋い大人の男性の声がした。私の右斜め上から。

 ビックリして、壁に張り付いてしまったよ。心底ビックリすると、声出ないんだね。

「驚かせてすまぬ。この場面でも、聖獣は離さないのだな。少し焼けるな」

 目の前に、黒い羽を生やした小さなトカゲが浮かんでいた。

「…………黒竜王様……?」

「そうだ、遅いから迎えに来た。羽が生えたトカゲって酷い表現ではないか。ユーリアが好きなモフモフではないが、我もなかなかの肌触りだぞ。触ってみるか?」

 いきなり、お触りの許可が下りました。世界を創生した一柱の御方に。

 いやいや、そう言われて、ありがとうございますって言って触れるわけないでしょ!!

「遠慮はしなくてよいぞ。ほら、触ってみるがよい」

 どうしても触って欲しそう。怒られないよね。触って、石にされたりしないよね。

「石にはせぬ。怒りもせぬよ」

『無理して、触らなくていいよ』

 腕の中でハクアが口調キツめで言ってくる。でも、興味あるんだよね。だって、黒竜王様の身体、つやがあって気持ちよさそう。

 私は手を伸ばし、黒竜王様の太ももあたりを触った。お腹は触れないし、頭や顔は論外でしょ。足や手を触られるの嫌な場合もあるし。

「……気持ちいい。ヒヤッとしてて手に馴染むよ。ずっと、撫でていられるよ」

 つい、ポロリと本音が口から出ちゃった。

「そうか、そうか。モフモフも良いが、我もなかなか良いものだろ」

 黒竜王様ご満悦。

 反対に、聖獣様超不機嫌。

『黒竜王、どうして、こんな真似をした!?』

 完全に威嚇モードで、ハクアはいきなり要点を口にした。

「そんなに怒るではない、聖獣。身体が小さいと心もまで小さくなったのか? 実は、このような手を使って呼び出したのにはわけがある。ここでは説明しにくい。奥に行こうか」

 そう告げると、黒竜王様は洞窟の奥へと進んでいく。私たちは黙って、その後ろを付いて行った。



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