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第四章 田舎娘と古代竜
狼さんとリスさん再登場
しおりを挟む狼さんは私の数歩先まで歩いて来ると、ちょこんと座る。私から視線を外さない。狼さんの頭の上にはリスさんがいた。うん、とっても可愛い光景だね。普段の私なら、狼さんの首に抱き付いて、グリグリと頭を擦り付けたくなるけど、グッと我慢した。
ハクアみたいに言葉は発しないけど、なんとなく、狼さんとリスさんがここに来た理由がわかった。
「……私を迎えに来たの?」
そう尋ねると、狼さんはリスさんを乗せたまま立ち上がると、クルリと身体の向きを変える。
『行くしかないようだね』
ハクアの言葉に私は小さく頷く。でも、皆のことが心配だよ。
『大丈夫。念のために結界を張っておくから、安心して』
「ハクアがそう言うなら……」
聖獣様の結界なら大丈夫だよね。私は後ろ髪を引かれながらも、狼さんのあとを付いて森の中に入って行った。
狼さんは私の歩調に合わせて歩いてくれた。リスさんは頬袋に入れていたドングリを食べている。あ~カワイイ!!
『僕よりもカワイイ?』
ハクアが頬を膨らませながら文句を言う。普段なら、あんまりそんなこと言わないのに。種類は違うけど、同じ狼だからかな。
「ハクアが一番だよ」
『ほんとに?』
「ほんとに。腹吸いをさせてくれる回数が増えたら、なおカワイイ」
ちょっとだけ、私の願望を言ってみる。なかなか、させてくれないんだよね。孤高の狼だからって。フェンリルだけどね。でもさ、ベッドで寝る姿は完全に孤高から掛け離れてるんだよ。ヘソ天でイビキかいてるから。じゃあ、その瞬間を狙えばって思うでしょ。でもね、ハクアのお腹にダイブしようとしたら、なぜか目を覚まして逃げられるんだよね。
『…………う~考えとく』
とっても嫌そう。口元に笑みが浮かぶ。
「ありがとう。で、こんな手の込んだことをしたのは誰なの? ハクア知ってるんでしょ」
『気付いてたの?』
おずおずとハクアが訊いてきた。
「途中からね。やけに、ハクア落ち着いてたからね。いくら危険な場所じゃないってわかっていても、見知らぬ場所なら、ハクア、もっと焦って、対処してたでしょ」
私が人攫いにさらわれそうになった時、ハクアの焦りようはすごかったからね。まぁあの時は、ハクアは一緒じゃなかったけど。
『……この森はアイツのテリトリーだから』
「アイツ?」
聖獣様の知り合いなら、普通の人間じゃないよね。そもそも、人間じゃないかも。少なくとも、この時点で人型だったとしても、普通の人間じゃないっていうのは間違いないよね……
『古代竜の一頭だよ』
…………ん? 今、ハクア、なんて言った?
ハクアの言葉が理解できた途端、私は大声で叫んでいた。
「えーーーー!! 古代竜って、この世界を創生した神の一柱だよね!?」
この世界は、創世神とその眷属の七体の竜神によって創られたの。その七体の竜神のことをまとめて、私たちは古代竜っていってる。
この世界に生きる者なら誰でも知っていることだよ。絵本にもなってるしね。言葉を話すよりも先に覚えるぐらい。教会や神殿には、必ず創生した瞬間を描いた壁画があるしね。
『うん、その古代竜。この気配は、黒竜王だね』
朗らかな声でハクアは言った。なに、その親戚に会う感じ。
「……嘘だよね」
『嘘じゃないよ……ユーリア、どうしたの?』
思わず立ち止まって、両膝地面に付いてしまったよ。
「…………マジ……聖獣様だけでもいっぱいいっぱいだったのに、今度は古代竜!? 完全に、キャパオーバーだよ!!」
私の心からの叫び声が、虚しく森に響いたのでした。
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