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第四章 田舎娘と古代竜
とても嬉しかったんです
しおりを挟む「…………ありがたいけど、これって……」
セシリアがすっごい複雑な顔をしてるよ。その気持ちわかるわ~。
「深く考えたらダメだよ。うん、ダメ」
まるで、自分に言い聞かせてるみたいね。まぁ、そうなんだけど。
「とりあえず、もらえるものはありがたくもらいましょ。皆で手分けして運ぶわよ」
王女殿下の掛け声で、私たちは分担して小枝を運んだ。三往復したよ。その間、リスさんは私たちをジッと見ていた。
三往復目、私は木の上にいるリスさんを見上げる。リスさんと目が合った。少し見詰め合ったあと、私はにっこりと微笑みながら言った。
「ありがとうございます。これで、無事夜を過ごせます。ただ……なぜ、このような込んだことをしているのか、必ず答えを聞かせてもらいますね」
不思議とスルリと言葉が出た。勘だけど、リスさんの目を通して見られてるような気がしたの。普通に考えて、そんなことあるはずないのにね。なぜか、そう思ったんだよ。
全て運び終えてから、私はマジックバックに入れてあった残りの果物を取り出した。
水はまだ水筒に残っていたのを飲む。それももうない。近くに水の気配は感じないから、レイティア様に水を出してほしいんだけど……うん、無理そうだね。私がリスさんに話し掛けてからさらに暗くなったよ。とてもだけど、頼める雰囲気じゃない。とはいえ、いつまでも、レイティア様に付き合うわけにはいかないし、命がかかってるんだから。今晩は、果物の果汁のおかげで喉の乾きと空腹は潤えるけど、明日は困る。
そんなことを考えてると、王女殿下が静かに話し出す。
「……このオリエンテーションに私たちを招待した者は、いったい、なんの目的があるのかしら?」
なんで、私を見ながら言ってるのかな、王女殿下。皆から誤解されるじゃない。
「さぁ、私にはわかりません。でも、わかることが二つあります。まずは敵意がないこと。そして、魔法にかなりせいつうしている点ですね」
「確かにユーリアの言う通りね。魔法にせいつうしていると、私も思う。あまりにも不自然だから」
「不自然ね……」
セシリアの台詞を難しい表情で聞く王女殿下。私はなんとなくだけど、セシリアが言おうってしていたことがわかる気がした。
「……これは、あくまで私個人の意見なんだけど……まるでこの森は、庭な気がします」
パチパチと小枝がなる音を聞きながら、私は小さな声で突拍子のないことを言った。
「庭? それは、私たちを誘拐した犯人のって言いたいのかしら?」
王女殿下の声は厳しい。
「そうなりますね」
私の声も自然と固くなった。皆、沈黙する。その沈黙を破ったのはレイティア様だった。
「……ユーリアさんは、その犯人を知っているのではありませんか?」
感情のこもらない声でレイティア様は言う。
「どういう意味ですか?」
「レイティア様、なにを言ってるのですか!?」
私とセシリアが同時に声を上げた。
「意味なんてわかりませんわ!! ただ、貴女おかしいのよ!! 七歳が誘拐されて、普通、こんなに落ち着いてます!? 狼もリスの時も、動揺しなかった!! ましてや、リスに対してはあんなこと言うし!! 貴女の目的はなに!? 私たちを誘拐して身代金でも取ろうとでも考えたの!? さすが、平ーー」
そこまで言った時だった。パシッと鋭い音がした。セシリアが止めるより先に、王女殿下がレイティア様の頬をぶったから。
「レイティア!! 貴女言っていいことと悪いことぐらいわからないの!? 情けない。貴女を心底軽蔑しますわ」
王女殿下の叱責の声が森に響いた。
レイティア様は打たれた頬を押さえながら俯いている。その身体は、小刻みに震えていた。
いきなり、こんな場所に放り込まれて、気持ちがいっぱいいっぱいなのはわかるよ。私もそうだし、皆もそうだから。私が疑われるのも、気持ち悪いと思われるのも、嫌だけどまだ我慢できるよ。ただ、最後、レイティア様が言おうしたことだけは我慢できない。どうしても。
「……レイティア様、貴女も平民を蔑んでいたんですね。平民だから、お金欲しさに、人の道を外れることを平気ですると。とても残念です。私は嬉しかったのに。初めて本を借りた時、レイティア様は嫌な顔をしなかった。普通に接してくれたことが、とても新鮮で嬉しかったんです」
怒りよりも悲しみが強かった。私は泣きそうになるのを必死で我慢して、微笑みながら言った。
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