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第四章 田舎娘と古代竜

今度はリスです

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「……この道でよかったのよね」

 王女殿下が訊いてきた。その声が不安から出たものじゃなくてホッとする。不安は伝染するからね。

「矢印通りに移動してますから、あってはいると思いますよ」

 私も不安な感じを見せずに、いつも通りに平然と答えた。最後に矢印を見てから十分は経ってるんだよね。まさか、迷子!? なんて言葉が頭を過ってしまう。こんな森の中で迷子って、完全にアウトだからね。

「見落とした覚えないわよね」
 
 王女殿下が思い返しているように、ポツリと呟く。自分一人なら、見落とした可能性はあるかもしれないけど、四人いるんだよ、さすがにそれはないと思う。絶対とはいえないけど。

「ないですよね、エレーナ王女殿下」

 そうあってほしいよ!!

「なら、もうすぐゴールかもしれないわ!!」

 王女殿下って、直感的に動くところがあるよね。深く考えてないっていうか……でも、考えるべきところは考えるタイプ。

 だから、この台詞も直感的なものなんだと思うけど、意外に当たってるかもしれない。第二課題がアレだったから、そんな気がする。といっても、気は抜けれないけど。

『だから、危険な獣や魔物はいないよ』

 ハクアがブツクサと言ってきた。

『そこは信用してるから。獣や魔物以外にも危険なことってあるじゃない』

『そうだけど……』

 やけに、安全だと言うハクアにちょっと引っ掛かる。それに、こんな状況下なのに、ハクア、全然慌てた様子を見せなかった。私を安心させるために、あえて慌てない振りをしたかもしれないけど。でもそれは考えにくいかな。あの大きな狼のことを考えると……少なくとも、このオリエンテーションに強制参加させた人は、私たちに敵対心は持っていない。食料くれたしね。

「その可能性はあるかもしれませんが、次に平たい場所に出たら、野営の用意をした方がいいと思います?」

 日が暮れてからの移動は危険だし、皆言葉にはしないけど、すごく疲れてると思う。少し早いけど、日が暮れる前に野営の準備を終わらせておきたいしね。

「そうだね、私もその方がいいと思う」

 先頭を歩くセシリアが賛同してくれた。

「仕方ありませんわね」

 そう答えたのは、王女殿下。少し、楽しそうな声。キャンプ感混じってない。反対に、レイティア様は休憩の時から、全く会話に入ってこようとはしなかった。今も俯き加減で黙ってる。頷きもしない。

 王女殿下のキツイ台詞が、よほど効いたのかな。遠慮なくえぐったからね。プライド傷付けれたよね……お目付け役が逆にさとされてるんだから。完膚なきまでに。それはわかるんだけど、だんまりは……ずっと、この状態はダメだよね。とはいえ、切り出し方がわかんない。

 そんなことを考えて歩いていると、五分くらいで平たい場所に出た。そのことに、私はちょっとした違和感を感じていた。口には出さない。まだ曖昧あいまいだから。

「まずは、小枝拾ってこないと」

 日が暮れたら、火を絶やさないようにしないといけないよね。

「この辺りに、乾いた枝が落ちてたらいいけど」

「あまり、遠くに行くのは危険だよね」

 セシリアの台詞に付け足すように答える。

「道すがら、少しは拾いながら来たけど、一晩持たすには全然足りない量だよね」

 そんな会話をしていたら、頭上からキッキッという鳴き声が聞こえた。私が鳴き声がした方に視線を向けると、一匹のリスが私たちを見下ろしていた。

 あっ、可愛い!!

 リスが木から降りてくる。私はそのリスを目で追う。リスは、そのまま私たちの足元を横切り、森の中に入ろうとしたところで止まり、振り返ると私を見上げた。

「……もしかして、ついてこいって言ってます?」

 まさかよね……私もかなり疲れてたみたい。

 リスは私の問い掛けに答えるみたいに、キッキッと鳴くと頷いた気がした。私はリスに近付く。

「「ユーリア!?」」

 セシリアと王女殿下がビックリして、私の名前を呼んだ。

「……もしかして、狼さんと同じように、小枝があったりして」

「そんなこと、あるかもしれないわね」

 おずおず言ったら、意外にも王女殿下が賛同してくれた。セシリアは呆れた表情で私と王女殿下を見ている。まぁ、それが普通の反応だよね。レイティア様は私たちから目をそらしていた。

 私がリスに付いて行こうとしたら、セシリアも王女殿下も当然のように後ろをついてくる。だけど、レイティア様は立ち止まったまま動かない。

 私はレイティア様のところに行くと、その手を握った。その手を振り払うレイティア様。空気がピンと張り詰める。振り払ってしまったレイティア様自身が一番驚いていた。私はにっこりと微笑むと、もう一度レイティア様の手を握った。今度は振り払われなかったよ。

「ほら、行きますよ、レイティア様」

 私はレイティア様を引っ張って、リスのあとを追った。

 小枝があったかどうかって? ありましたよ、小枝。それも小山になるくらいに。



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