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第四章 田舎娘と古代竜

王女殿下の謝罪

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 食べてくれたなら大丈夫。気持ち悪そうにしてないし。私はホッと胸を撫で下ろす。身体も心も、とっても疲れきった時は、ご飯を受け付けなくなるからね。

 二年前、二つ離れた村が野盗におそわれた事件が起きたの。生き残った家族が親戚を頼って、私の村に来たんだけど、家族を失ったショックが大き過ぎてご飯が食べれなくなったの。その時、お父さんが言ったんだ。「身体が疲れた時もご飯が食べれなく時があるだろ。それは、心が疲れて傷付いて悲鳴を上げてる時も同じなんだよ」ってね。

「食べ終わったら、出発するわよ」

 王女殿下が告げる。

「もう少し、休憩した方が……」

 私はレイティア様を背に庇いながら言った。本音を言えば、王女殿下と同じ。でも、今の状態のレイティア様に無理はさせられない。

「なぜ? 誰も怪我をしてはいないのに。……レイティア、自分より四歳下の子供に庇われてどうなの?」

 王女殿下は厳しい口調でレイティア様に尋ねる。その台詞に、レイティア様が小さく息を飲んだ音が聞こえた。

「王女殿下!! 私は平民だから、打たれ強いだけです」

「私は第一王女だけど」

 王女殿下に睨まれた。だよね。完全にブーメランだったわ。言葉に詰まる私。

「レイティア、いくら座学が優れ、魔法に精通していても、いざっていう時に動けないのなら、足手まといよ。いい、私たちに迷惑を掛けないで。足手まといなら、なにをしなくてもいいからついて来て。期待はしてないから」

 うっわ~キツイ。めっちゃキツイよ。でも、言ってることは間違ってないんだよな……レイティア様、とても悔しそう。唇噛み締め過ぎて、血が出てるよ。

「レイティア様!! 血が!!」

 私は慣れない治癒魔法を掛けようとしたら、王女殿下に止められた。

「これくらいの怪我で、治癒魔法は必要ないわ。ポーションも使わなくていいわよ」

 まぁ確かに、冷静になって考えてみたら必要ないけど……言い方。

『エレーナが言ってることは正しいよ』

 ハクアの中で王女殿下の株が上がってるわね。私も腹くくらないといけないよね。

「……レイティア様、食べたら出発しましょう。疲れたら、遠慮なく言ってくださいね」

 全てが終わったあと、レイティア様に嫌われることになってもしょうがないよね。無事に帰ることが最優先だから。

「残りの果物は各自分担して持ちましょうか?」

 黙って聞いていたセシリアが、ここで口を開く。セシリア自身、王女殿下の言い分が正しいって思ってるみたい。

「その必要はないわ。私のマジックバックに入れれば大丈夫」

 少しでも、荷物は軽い方がいいからね。

「まぁ!? マジックバックを持ってるのね」

 あっ!? しまった!! 背後から、セシリアの溜め息が聞こえたよ。

「…………あ、入学祝にもらいまして……ジュリアス様とライド様に」

「そうですか……それは大事に使わないといけませんね」

 冷や汗タラリの私に、王女殿下は意外にも普通に答えてくれた。ポカンとする私とセシリア。

「学園に入学するのです、入学祝いは当然でしょ。私もそこまで頭が固くはないわよ。まぁ、ちょっとはうらやましいけど。あと、この前の食堂の件は悪かったわ。噂を真に受けた私の否ね」

 後半はとても小さな声だったけど。

 王女殿下にとって、これが精一杯の謝罪なんだろうね。ほんと、人って付き合ってみないとわからないものだよね。

「はい、私も少しだけ言い過ぎました。ごめんなさい」

 頭は下げなかった。重たいものにしたくはないから。それに、王女殿下もそれを嫌だって思うからね。

「謝罪は必要ないわ」

 やっぱり、私が思った通りだった。私はにっこりと笑う。

「はい」

「貴女、そんな顔もできるのね」

「どういう意味ですか?」

 王女殿下の顔を下から覗き込むように言った。

「馴れ馴れしいですわ!! あと、私のことはこれからエレーナと呼んでもいいわよ。セシリア様も」

 まさかの名前呼び。いやいや、王女殿下に対して平民の私ができるわけないでしょ。なので、きっぱりと断った。

「それは、できません」

「ど、どうして!?」

 断られると思ってなかったみたいだから、すっごくショック受けてるよ。

「どうしてって……私、平民ですよ。王族の方に対して名前呼びなどしたら、即捕まります」

「私が許しているのに!?」

「だとしてもです」

 なに、駄々っ子になってるのよ!! あ、しゃがみこんで、棒でなにか書き始めたわ。

「呼んでくれませんの……」

「……こうなったら、てこでも動きませんよ、この子は」

 そう教えてくれたのはレイティア様でした。少し調子を取り戻したみたい。声に張りがある。もしかして、王女殿下、計算してた? まさかね……

「…………なら、しかたありませんね。エレーナ王女殿下でよかったら。私のことは呼び捨てでお願いします」

 これ以上の譲歩じょうほはできないよ。

「私も呼び捨てでお願いします」

 セシリアが続いて言った。

「……本当は、様呼びにしてほしいけど、今はそれで妥協しますわ」

 なんとか、丸くおさまったよ。あれ? なんか前に似た会話した気がするような……まぁいいか。とりあえず、よかった、よかった。じゃあ、そろそろ出発しようかな。



 
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